お正月の風物詩、箱根駅伝ーー

前回大会で驚異的な走りを見せ、青学大を初優勝に導いた〝山の神〟ばかりが注目を集めているが、将来有望な選手は他にもいる。中でもスタート直前にチェックしておくべき注目株をピックアップ!

箱根駅伝出場経験があり、現在は陸上競技を中心にスポーツライターとして活躍する酒井政人氏が挙げた5人のランナーは…。

●東京マラソンでリオ五輪を狙う逸材

ドラマチックな戦いが興奮と感動を呼ぶ箱根駅伝。前回は青山学院大の神野(かみの)大地に度肝を抜かれた方も多いだろう。5区で〝山の神〟こと元東洋大の柏原竜二(現・富士通)の参考記録を上回る走りを披露。身長164㎝の小さな巨人は〝神〟を超え、〝アオガク〟に初優勝をもたらした。

再び山を駆け上る予定の神野(4年)には当然注目だが、2016年はオリンピックが開催される特別な年。リオデジャネイロ五輪、その先の20年東京五輪の日本代表ランナーが今大会から誕生する可能性は高い。箱根から世界へ飛び立つのは誰なのか。〝神野以上に見ておくべき選手〟たちを紹介したい。

まずは、11月の全日本大学駅伝でダブルエースとして東洋大を初優勝に導いた服部勇馬(ゆうま、4年)と服部弾馬(はずま、3年)。ふたりはタイプの異なる兄弟で、兄はスタミナ、弟はスピードが魅力だ。現在、学生ランナーの中で「最強」といっていい実力とポテンシャルを秘めている。

兄の勇馬は、2年時に熊日30㎞ロードレースで1時間28分52秒の学生記録(日本歴代3位タイ)を樹立。昨年からは東京五輪でのメダル獲得を目指すべく、マラソンの練習も開始している。2016年2月には東京マラソンに出場予定で、本気でリオ五輪代表を狙っているのだ。今回の箱根では3年連続の2区が濃厚(前回は区間賞)。過去4人しか達成していない1時間6分台にチャレンジする。

弟の弾馬は、1年時に箱根7区を区間トップで駆け抜けた逸材だ。昨年は伸び悩んだが、今年は持ち味のスピードを磨いて覚醒。9月の日本インカレ5000mでは、ケニア人留学生3人をラストスパートで蹴散らして優勝した。全日本大学駅伝でも、エース区間の2区を歴代3位の好タイムで走破。断トツの区間賞を獲得している。

今回はチームの〝切り札〟として期待されており、酒井俊幸監督が〝勝負ポイント〟と読んだ区間に登場するはず。トラックで世界を目指す、圧倒的なスピードを感じていただきたい。

3年生唯一の青学四天王〝絶対に外さない男〟とは…

全日本覇者・東洋大をしのぐ巨大戦力を抱えるのが、連覇を狙う青学大。原晋(すすむ)監督が「学生史上最強軍団」と自負するチームには、主将の神野、久保田和真(かずま)、小椋(おぐら)裕介という強力な4年生トリオとともに「青学四天王」と呼ばれる3年生の一色恭志(いっしき・ただし)がいる。

前回は2年生ながら花の2区に抜擢(ばってき)され、一時はトップ争いから引き離されたものの、終盤に盛り返して区間3位と好走した。2015年は7月のユニバーシアードのハーフマラソンで、先輩の小椋に先着されるも銀メダルを獲得。10月の出雲駅伝では駒澤大とのアンカー勝負を制し、続く全日本大学駅伝では1区で区間賞を奪った東洋大の服部勇馬とタイム差なしの区間2位と〝絶対に外さない男〟なのだ。

ちなみに、一色と服部兄弟は高校時代のチームメイト。豊川高(愛知)3年時には弟の弾馬とともに全国高校駅伝の優勝も経験している。今回も2区を走ることが有力で、先輩・勇馬との直接対決が優勝争いを左右することになるかもしれない。

現時点ですでに世界に近い位置にいるのは、明治大の横手健(よこて・けん、4年)と中央学院大の潰滝大記(つえたき・ひろのり、4年)だ。

横手は7月に1万mで現役日本人学生最速となる27分58秒40をマーク。リオデジャネイロ五輪の参加標準記録を突破した。故障の影響で出雲と全日本の両駅伝は欠場したが復調傾向。順当なら2区での出場が有力視され、チーム躍進のカギを握る。

潰滝は今季の前半戦で「学生最強」と呼ばれるほど、トラック種目で抜群の強さを発揮した。5月の関東インカレ2部では、青学大と駒澤大の選手たちを抑え、5000mと1万mの2冠を達成。6月の日本選手権では、3000m障害で積極果敢なレースで優勝をさらっている。故障明けで挑んだ出雲駅伝も2区でアッサリと区間記録を塗り替えた。最後の箱根ではどんな快走を見せるのか。

この5人の他にも世界を狙える逸材は多い。〝3強〟のひとつである駒大では、キレのあるスパート力を持つ中谷圭佑(なかたに・けいすけ、3年)。東海大の川端千都(かずと、2年)、順天堂大の塩尻和也(1年)も将来が有望な選手たちだ。

過去には、箱根で快走できなくても、12年ロンドン五輪と13 年モスクワ世界陸上のマラソンで連続入賞を果たした中本健太郎(安川電機)のような選手もいる(拓殖大4年時に7区で区間16 位)。将来、世界で大活躍するかもしれない〝無印ランナー〟を探すのも、箱根駅伝の楽しみのひとつだ。

●酒井政人(さかい・まさと) 1977 年生まれ、愛知県出身。東京農業大1年時の96年に箱根駅伝10区に出場。8位(区間13 位)で大手町のゴールテープを切った。その後は故障により競技を断念。大学卒業後、陸上競技を主としたスポーツライターとして活躍中

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(取材・文/酒井政人)