大手メディアは事の本質をきちんと整理できていないと指摘するモーリー・ロバートソン氏

米大統領選の共和党候補者争いで、完全に主役となっているトランプ氏。“良識派”が眉をひそめる過激な物言いは、一部の大衆の本音を確かに代弁している。

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る。

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IS(イスラム国)のメンバーや、その過激な主張に共感する者のテロが相次ぎ、欧米諸国では移民排斥の訴えが勢いを増しています。

首都パリがテロに見舞われたフランスでは、2017年の大統領選挙の前哨戦と位置づけられた地域圏議会選挙で、マリーヌ・ルペン率いる極右政党の国民戦線(FN)が全13地域圏のうち6地域圏で第1回投票のトップを獲得(第2回投票ではいずれも他政党がトップを奪還)。アメリカでも大統領選挙の共和党候補者争いでトップを走るドナルド・トランプ氏が「一時的なイスラム教徒の入国禁止」を提言し、物議を醸(かも)しています。

こうした潮流に対し、ほとんどの大手メディアは「由々(ゆゆ)しきことでございます」と眉間(みけん)にしわを寄せるばかり。事の本質をきちんと整理できていないように見えます。

フランスのメディアや知識人は、11年にFNの2代目党首に就任したルペンという女性を甘く見ていたと思います。最近は同性愛や人工中絶の容認など極右政党としては斬新な方針を打ち出し、ゲイコミュニティなどから支持を得ていましたが、それでも「こんなファシストを擁護するのは頭の悪い少数派だけだ」と、歯牙(しが)にもかけませんでした。

しかし、ルペンはひたすら庶民に語りかけた。理念よりも“リアル”を押し出して。実際のところ近年、多くのフランスの庶民は「多文化共生」を心から歓迎しているわけではなく、その理念の下で自国社会に移民や難民が増えていく“違和感”をなんとかのみ込んでいるだけだった。ルペンはそんな違和感で大きく膨らんだ無数の風船に一本一本、針を刺していったのです

日本でも気に入らない相手を罵倒する風潮が…

トランプにしろ、ムスリム入国禁止発言の後の世論調査でも支持率はトップのままです。彼はただの“困った極右オヤジ”ではなく、表立って本音を言えない一定数のアメリカ人の留飲(りゅういん)を下げている。だからこそ、メディアや知識層が彼の失言を繰り返し批判する一方で「よくぞ言ってくれた」「差別的だが、真理を突いている」といった賛同や消極的支持の声も上がり、結果的に「全ムスリムを監視するのは是か非か」といった非常に低次元な議論へと持ち込まれてしまうのです

自国が大きな危機に見舞われたり、本音の言いづらい社会状況に陥った時、一部の大衆の間には「思い切り差別したい、乱暴に振る舞いたい」という“愚連隊(ぐれんたい)志向”が芽生えます。

フランスは実際にテロの被害に遭ったばかりで、アメリカも01年の「9 .11」の記憶が新しく、最近もISがテロの標的として名指ししている。他にも、例えば多くの難民を受け入れているドイツの移民排斥運動では「政治家と大手メディアが世界を支配し、真実を隠している」という陰謀論が跋扈(ばっこ)し、「ライイング(嘘つき)メディア」という言葉がすっかり定着しています。

近年は日本でも、思想の左右にかかわらず群集心理に乗じて気に入らない相手を罵倒(ばとう)する人が多い。

「韓国人が悪い」「安倍が悪い」「東電が悪い」…。無知な若者がそうなるのは仕方ない面もありますが、いい年の大人がその欺瞞(ぎまん)的構造を薄々わかりながら乗ってしまうことには危うさを感じます。“日本のトランプ”もそういう危うさのなかから生まれるのかもしれません

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)1963 年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。現在のレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『Morley RobertsonShow』(Block.FM)、『所さん!大変ですよ』(NHK)など