現在、すでに飲食料や化粧品などのミドリムシ製品が商品化されている。ファミリーマートとの共同展開もあり、その存在はますます身近に(写真/ユーグレナ社提供)

藻の一種で、見た目はミジンコの仲間にしか見えないミドリムシ。さかのぼること10年前、日本のベンチャー企業が世界で初めて屋外大量培養に成功したことがニュースになった。

しかし、どうしてミドリムシの培養が話題になったのか? 実は、ミドリムシとは人類を脅かす様々な問題を丸ごと解決する、驚異の生物なのだ。

ミドリムシとはいうものの、実はこれはムシにあらず。学名を「ユーグレナ」という、海藻の一種である。その名の通り、緑色をしており、0.05mm程度の極小サイズ。

このミドリムシには、とてつもないポテンシャルが秘められている。栄養面だけでもすごい。ビタミンやミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など単体で59種類もの栄養素を備え、人間が生きていく上で必要な栄養素の大半をミドリムシだけで補える。

また、ミドリムシからは非常に軽質なオイルを抽出・精製することができ、それをバイオ燃料として活用することも可能なのだ。トータルで二酸化炭素を増加させないクリーンエネルギーのため、温暖化対策としても効果的だ。

それにしても、なぜこれほどすごい能力を秘めたミドリムシが今日まで活用されずにいたのだろう?

通説に基づけば、ミドリムシの誕生は実に5億年以上前。原始地球の頃から存在する、いわば人類の大先輩で、発見されたのは17世紀のことだという。

発見者は、顕微鏡の発明者としても知られるオランダの科学者、アントニ・ファン・レーウェンフック。ミドリムシはその姿から“美しい女性の瞳のようだ”ということで、そのままラテン語で“美しい目”を意味する「ユーグレナ」と学名がつけられた。

世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功し、世界的に注目される株式会社ユーグレナの出雲充社長が語る。

日本的な発想に成功の秘訣が…

「ミドリムシ活用の最大の難関は培養です。とにかく増やすことが難しいんです。その素晴らしさは30年以上前から注目されていたものの、大学などの研究施設で少し増やすことができたとしても、とても社会のニーズに応えられる量が確保できない。

これはなぜかというと、59種類もの栄養素を持つミドリムシは、人間だけでなく他のバクテリアや雑菌にとっても抜群の栄養源であるためです。つまり、ミドリムシがそこにいるだけで、あらゆる微生物に狙われてしまう。それらの外敵から守りながら増やしていくのは、これまでの技術では至難の業(わざ)でした」

それでも、学生時代にバングラデシュを訪れた際、現地の深刻な栄養事情にショックを受けた出雲社長は、ミドリムシこそが世界の食料問題を解決できるとの思いを強くする。培養する方法を研究し続け、ユーグレナ社を起こしたのが2005年8月のこと。そして同年の12月に、見事に屋外大量培養を成功させ、世界をあっと驚かせたのだ。

その方法はもちろんトップシークレットだが、せめてものヒントを聞いてみた。

「これは実は、日本的な発想に成功の秘訣があるんです。外国の研究者などは、ミドリムシが他の菌に食べられないよう、なるべくきれいな環境で培養に取り組んできました。しかし、完全な無菌状態では、むしろミドリムシは育ちにくいことがわかっていますし、何よりもそうした環境を確保すること自体が困難です。他の菌が入ってこられないよう、三重、四重に蚊帳(かや)をつる考え方もありますが、これは非常にコストがかかります。

そこで私たちは、蚊帳ではなく蚊取り線香を置いておけばいいと考えたのです。特殊な培養液を用いて、ミドリムシを狙う菌が寄りつきにくくし、もし侵入してきても死滅してしまう環境をつくり上げたのです」(出雲社長)

日本の技術力と出雲社長の情熱が不可能を可能にした。食糧問題やエネルギー問題を解決するかもしれない驚異のポテンシャルに今、世界中から注目が集まっている。

●宇宙ロケットの燃料にミドリムシ?  「日本経済の未来は明るいですよ」とユーグレナ社・出雲社長が語るその未来とは? この記事の全文は『週刊プレイボーイ』1・2号でお読みいただけます。

(取材・文/友清 哲)