TV業界の現状から芸人としての役割論にまで語り尽くすビートきよしさん

あの国民的バラエティ番組のスピリットを引き継ぎ“友達の輪”を!とスタートした『語っていいとも!』

前回、芸人の玉袋筋太郎さんからご紹介いただいた第16回ゲストは大先輩で師匠と仰ぐビートきよしさん。

ツービートの相方、ビー トたけしが“世界の北野武”となる中、独特の存在感を発揮し続け、リスペクトされるその素顔はやはり只者ではなかった? 先週はTV業界の現状から芸人としての役割論にまで話が広がったがーー。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

―時代や役回りもあって、売れる売れないはまあしょうがないと。ただ、現実的な話でやっぱりお金稼がなきゃって、あくせく必死な人たちはいっぱいいますよね。

きよし まあ、でも俺はさ、普通のサラリーマンだったら定年なって家にいなきゃいけないのに、まだ好き勝手なことやれてるんだから。こんな幸せなことないじゃないですか。山形の田舎から出てきてね、そん時、お袋に「俺は東京行ってスターになるんだ」って言って。その夢が叶ったわけだし、もういいんじゃない(笑)。

なんかあんまり貪(どん)欲さがないんだよね、俺ね。みんな仕事なくなったらどうしようとか思うかもしらんけど、仕事、好きじゃないんだな。だからドラマの仕事きても「出番の少ねーやつな」って。

―ははは、その力が抜けてる感じも味になるんでしょうけど。

きよし 「1日で終わるやつな」とかって平気で言っちゃうんだよ。だって何日も何日もとられてね、ドラマなんか朝早いじゃないですか。そういうのはあんまりやりたくないんです。その代わり、これやったら後は好きなことやっていいって言ったらもうすごいよ! バッタバタやって、遊んでいたいタイプだから。

―(笑)。でも、きよし師匠だからこそって求められて、それに応える自分はいるわけですよね。

きよし いや、例えばね、刑事役とかってくるじゃないですか。スナックのマスターとか。ビートきよしがやったらこうなるんだよっていうような感覚じゃないと、これ意味ないじゃない。俺が刑事の役作りしてですよ、全然違う雰囲気でやったってさ。だから、この役だったらビートきよしがいいなって選んでくれるんならね。

―誰でもできるような役作りをするなら俺じゃなくていいと。なんか、そういう独自のスタンスも周りを惹き付ける魅力なんでしょうね。

きよし いや、惹き付けてるのかは知らんけど(笑)。自分ではね、好き勝手に遊んでるだけだから。福富町辺りで遊んでると、知らないお客が「どうも~!」とか言ってくれるんでね。あ、どうも~ってそんな感覚ですよ。だからね、なんか横浜ってすごい楽なの。

―肩肘張らずにっていう。長年住んでらして、余程気に入ってるんですね(笑)。

きよし ほんと楽に遊べるの、横浜は。平気でパチンコもやるし、麻雀もやるし。芸能人も結構いるんだろうけど、出てこないんだよね。会わないもん、誰も。俺なんか全然平気でその辺歩いてるけど。

―でもそれこそ最近の若い男はって話でいえば、仕事もなかなか正社員にもなれず、遊ぶ金もなければ、女もできないみたいなことも言いますけど。

きよし 今の若いコって情けないなと思うのがさ、女もナンパできないでしょ? 僕ら田舎から出てきて芸能界入って、飯を食わなきゃいけない。どうしようかなって考える。…で、これ、女をナンパして飯食わしてもらおう!とね。

「相方なんか、すっごいシャイだもん」

―ええっ、そういう方向なんですか!?

きよし そう、ほんでメシ屋に食いに行って、女をナンパするんですよ。メシ屋の女を。でね、大きいところはダメなの。レジ係がいるから、金払わないといけないでしょ。小さい店で女のコがひとりでさ、レジもなんでもやるようなところじゃないとダメなの。

―はははは、だいぶ戦略的ですね(笑)

きよし そうだよ、やっぱいろんなこと考えるもの。どうしたらメシ食えるだろうって。

―いやでも、草食な男供にしたら、ナンパして食わしてもらうほうがハードル高いですよ(笑)。

きよし そうかな~。でもそれはね、一番最初に養成所に入った時に金がないじゃないですか。で、どうやったらメシ食えて、コーヒー飲めるかな~と。で、新宿の歌舞伎町に「王城」って喫茶店があったんだけど、養成所の連中5、6人ぐらいで、毎日たむろしてたんですよ、そこに。

で、よし、じゃあって時間を決めてね、8時集合なとか。それまでに女連れて来れない奴が金を払うってなってるから、もうあの手この手を使って女を誘ってくるわけですよ。だから、田舎いる時はすごい硬派だったんですけど、東京出てきて軟派になっちゃってね(笑)。

―ほんとですか(笑)。いや、師匠が山形ということで、僕は仙台の出身なんですけど。やっぱり東北の人間は常にシャイで朴訥(ぼくとつ)というか。一般的にはそういうイメージなわけですけど。

きよし いや、それはね、芸人でもやっぱり恥ずかしがり屋じゃないとダメだと思うな。シャイじゃないと。要するに、神経が細かくないと芸だって吸収できないじゃないですか。うちの相方なんか、すっごいシャイだもん。もうすっごい繊細だよ、あれ。

だから、図々しい奴はダメなんだよね、気が利かなくて。でも、ある時、それが豹変するんだ。うちの相方がいい例だと思うんだよ。舞台立った時、かーんと変わって言いたいこと言うわけでしょ。僕らもさ、東北人は特に引っ込み思案っていうか、けど、食わなきゃいけないってなった時にね、じゃあどうするかって考えるじゃないですか。

―そこで女に食わしてもらうって発想が意外でした(笑)。

きよし だって、昔、師匠んとこに弟子入るじゃないですか。まず「女遊びしてこい」だからね。「そんなんできない奴が舞台立って、何が魅力出るんだ」って。

―女も口説けない、女から見て魅力ある男じゃない奴が芸人張れるかと。

きよし そうそうそう。女を口説くんだってひとつの芸じゃないですか、自分のところに惹き付けるね。だからやっぱり、芸人とかコメディアンなんて、すっごい派手な格好をして遊び呆けてるんですから。だって、昔のコメディアンなんかあれですよ、吉原のソープランド行ってそこ泊まって、女から小遣いもらって劇場来るんだから。ピンクのブレザー着て、派っ手な目立つ格好してさ。

―そういうコ達をそれこそパトロン的にして?

きよし そうそう。だから我々は“女は芸の肥やし”ってね、こんなこと今言っちゃうとさ、すげー怒られちゃうんだけど(笑)。昔はそうだったんですよ。女性に面倒見てもらって、みんな這い上がってくるんだから。

「誰でも口説ける女は嫌なんですよ」

―じゃあ、きよし師匠もそういうところでは女性をオトすために豹変するわけですね。

きよし やっぱりね。狙ったら、落とさなきゃね(笑)。

―今、視線がキラリとなりましたよ、ジゴロ風に! 男でもゾクっと…女だったらヤバいです(笑)。

きよし いや、自分がこの女いいなと思ったらね。だって、それが男じゃないですか。あのね、ここにすごいイイものが落ちてたとするでしょ。例えば、金が100万落ちてたとする。それを誰が拾うんだろうって遠くからみんな見てるんだったら、俺が拾う(笑)。

だからイイ女がいてもさ、僕はこういう感覚なんですよ。誰がこの女を口説くんだろうって、誰も拾えない女を口説く。誰でも口説ける女は嫌なんですよね。

―ハードル高いほうに行くんですか?

きよし 行くの。なんか知らんけど。誰かがその女、口説いてたら絶対行かないもんね。

―高嶺(たかね)の花だと、どうせ俺なんてダメなんだろうなとかみんな諦めちゃったり…。

きよし そうそう。ところがね、そういうの狙ったほうが落ちやすいんですよ。なぜかっていうと、もう誰かがいるんだろうなと思って、逆にみんな口説かないんだよ。そういうのに限って誰もいないの。

男でもさ、いい男だと、女がいっぱいいるんでしょって。女性から見たら、なんか遊ばれそうだってんでモテなかったりするじゃないですか。知り合いでもいてさ、すごいイイ男なんだけど、口説くのも下手なの。逆に僕らは安心する顔なんだね、女性が(笑)。

―はははは、なんかすっかり口説き上手を自認されてますが(笑)。それって甘え上手だったりもするんですか?

きよし いや、優しくないね、俺は。女性には優しくないと思うね。昔、キャバレーなんかのホステスさんにモテたのも、あんまり相手しないの。で、横座ってもジリジリジリジリしてくれるじゃないですか。その頃合いを見計るんだよね、計算して。

―それも戦略的ですか! 今で言うと、だいぶツンデレな…。そこから女に食わせてもらうにしても、デレの部分で女心をくすぐる何かがあるわけですよね。

きよし いや、それはハッキリ言っちゃうもん。「頼むね」って。「俺、こんな商売やってるけど売れてねーからさ、メシ食えねーから頼むわ」って。

―その甲斐性なしっていう部分がまた女性の母性心を…?

きよし あるのかもしれんね。だから年上ばっかりだったもんね。なんか、放っぽらかしてると、危なっかしいって思うんでしょうね。で、なんかで占い見たら、助けてくれるのは女性だって書いてあったもんね(笑)。

―それは納得しちゃいますね。

きよし だって、昔は毎日違う女だったもんな。

「口説けないっていうのが情けないんだよ」

―師匠、それ言っちゃいますか! 僕もそう豪語してみたいんですけど(苦笑)。

きよし いや、ほんとにね、なんで女性ってこんなすぐくっついてくるんだろうって思うくらい、毎日違う女だったよ。不思議なぐらいね。

―すごいですねー。でも正直、ツービートとしての絶頂期に人気があったからっていうのとは違うんですか。

きよし いや、それもあんのかもしらんよ。でもね、売れる前も結構、女いたね。

―なんか、そこまで言われると今の若い男を完全に敵に回してる感じです(笑)。

きよし いや、だからさ、まず口説けないっていうのが情けないんだよね。金があろうが、なかろうがだよ、俺は一生懸命頑張るからさ、付き合ってよって。そういう根性がないんだよ、男が。

大体、ペアで歩いてるの見るとさ、女のハンドバックを男が持って歩くなんて、そんなバカな男! 俺、あれ見てね、何考えてるんだろうって。他の荷物をね、買い物したやつとか持ってあげるのはいいよ。なんで、女のハンドバックを男が持って歩いてるのよ。もう~情けないよね。

―そんな光景があったんですね(笑)。

きよし 俺、そういうのって嫌いなんだな。だから、昔は男は男らしく、女は女らしくって言葉があったけど、今ないもんね。そりゃ女性っぽくなったっていいけど、男がね、ピシっとしないと情けないじゃないですか。

―では、きよし師匠が女性にモテるってとこでは、女のコにチヤホヤしたり甘え上手なのではなく、意外と真逆で男らしいんですね。

きよし そう、すけこましでもないんだよ。だからね、ヒモっているじゃないですか。ああいう人を見てると、まず女性をたてるのがうまいよね。ちょっとの話で延々と相手をたてられるでしょ。俺はそんなこと絶対できないタイプだから。

昔、ヒモもやったことあるんだけどね、売れる前に。もう嫌で嫌で逃げたもんね。遊んでていいんだけど、遊ぶのも疲れるよ、ひとりだから。仲間はみんな仕事行っちゃって、昼間いないじゃないですか。毎日毎日、ひとりで何すんの? もう、絶対そういうの嫌。

―ヒモでもないし、貢(みつ)がせる為に女性を気持ちよくさせるなんてつもりもさらさらなかった?

きよし いや、だからさ、大変な時はお互い協力し合うわけでしょ。自分がよくなったら、今度はしてあげる。してあげるじゃないな…お返しだね。してもらった分のお返しはするよっていう感覚なの。ところがどっこいだよ、全然売れてない時は、そういう女が違う男とくっついちゃって、捨てられちゃったりね。また違う女のとこ探さないといけないなと(笑)。

―そこはやっぱりくっついて離れて。痛い目にも遭うわけですね(笑)。

きよし それの繰り返しだよ。ただね、僕が付き合う女って気が強いのばっかりなんだ。優しい女はいねえかなって思うんだけどね。ふと気が付くと、もう、すげー気が強いのばっかり。

「デカい金狙うと…逃げるからね」

―そこで師匠の男っぽい気質とぶつかりそうな気もしますけど…。

きよし ぶつかるけどさ、結果的に。なんていうのかな…ぶつかるんだけども、意地悪じゃないんだね。自分がこう、金でもある時はやったりするわけじゃないですか。なんか知らんけど、そういうので繋がってるのかな。どっかお互い優しいとこがあるんだろうね。

―そういうのが要所要所に見えると、やっぱ離れられんわっていう何かが生まれてくるんですかね。

きよし あと、俺は絶対、女は怒んないっていうか。よっぽどのことがない限り、文句も言わないしね。だから、カミさんでも絶対文句言わない。一番気を遣うもん。なんか言われても、もう絶対口答えしないようにしてる(笑)。

―それはやはり向こうが上手だしと。手の平の上で転がされてるというか、遊ばせてもらってるぐらいがちょうどいいとか。

きよし だって、カミさんは子供育てて、家庭もちゃんとしてだよ。俺は好き勝手なことやってるんだもん。それはね、気を遣わないとバチがあたる。こっちは何やったって、遊びばっか。ゴルフなんてすぐ行っちゃうしさ。

―しかし、ほんとまた疑問なんですが、遊ぶのもお金が必要じゃないですか…。

きよし だけどね、金なくなると入ってくるんだよな。これが不思議なんだよね。なくなると、なんかがあるんだよ。

―そのなんかが普通はなかなかないんですが(苦笑)。

きよし なんかがあって、「ちょっと来て、顔出してよ」って言われて行くとさ、チップが入ったりね。大金は入ってこないよ。ただ、好き勝手に遊ぶ金ぐらいは回ってくるんだよね。

―それがやっぱり不思議さなんでしょうね、師匠の。

きよし あんまりデカい金狙うと…追っかけると逃げるからね、金は。逆に使わないと回ってこないしさ、なんか知らんけど。もうだから、遊ぶ金があればいいやって感覚ですよ。

―まさに、宵越しの金は持たねえと。

きよし そうなんですよ。僕らの頃はそれを言われたの。なぜかっていうと、舞台に立ってね、明日の家賃とか、明日の米買わなきゃいけないとか、いつも思ってたら魅力なんか何もないじゃないですか。だから金銭的な感覚ゼロですよ。もう明日どうなってるかわからないっていう感覚だから。

●この続きは次週、2月7日(日)12時に配信予定!

●ビートきよし1949年12月31日生まれ、山形県出身。72年にビートたけしと漫才コンビツービートを結成。80年代、漫才ブームに乗り一世風靡。早口の毒舌でまくしたてるたけしに対する「よしなさい!」というツッコミは流行語になった。その後、『オレたちひょうきん族』『スーパーJOCKEY』など、テレビ番組でも活躍。漫才ブームが終焉を迎えると共に、コンビでの出演は減ったが、解散したことは一度もなく、現在でもたまにツービートとして舞台で漫才をすることがある。現在は、舞台、ラジオ、テレビなどで活躍。12年に東邦出版から発売された『相方 ビートたけしとの幸福』も好評発売中。

(撮影/塔下智士)