昨年、日本を訪れた外国人観光客は12年の835万人に比べると約2.5倍に激増している

今、規制緩和に厳しい目が向けられている。

1月15日、長野県軽井沢町で発生したバス転落事故。大学生ら15人の命を奪ったこの事故は2000年にバス事業の新規参入を容易にした規制緩和が原因だと批判されているのだ。

そんな中、規制緩和論議の主役のひとつになっているのが「民泊」だ。

昨年、日本を訪れた外国人観光客は1973万人で、12年の835万人に比べると約2.5倍に激増した。観光地や都市部のホテルはどこも満室状態が続いており、今後も増加する訪日外国人に対応しきれないと予想されている。この問題の解決策として、マンションなどの一般住宅を有料で貸し出す民泊がにわかに注目を集めているのだ。大手シンクタンクの研究員が説明する。

「民泊のマッチングサービス最大手『Airbnb(エアビーアンドビー)』に登録されている国内の民泊施設は約1万6千件にもなります。民泊は拡大の一途で、ある経済団体は外国人観光客のショッピングなどを含め、民泊ビジネスの経済効果は10兆円という試算をはじき出したほどです。ただ、民泊のほとんどは旅館業法の許可を受けていない。そのため、昨年から政府の規制改革会議で民泊拡大に向けた規制緩和策が議論されてきました」

その結果は?

「今年1月、厚生労働省は民泊をカプセルホテルなどと同じ簡易宿所と位置づける決定を下しました。これに伴い、客室の最低延べ床面積は10人の宿泊を前提にはじき出した33平方メートルから、ひとりが宿泊するために必要な3平方メートルへと緩和された。つまり、今後は一般的なマンションのワンルームでも民泊がOKになるということです」(シンクタンク研究員)

この動きに評価と警告を同時に発するのは、民泊ビジネスに詳しい立教大学観光学部の玉井和博特任教授だ。

「今や世界の民泊利用者は年間3千万、4千万人に上ります。ネットやスマホの普及で、民泊の貸主と旅行者が直接マッチングを行なう個人間取引が可能となった今、民泊の広まりは誰にも止められません。それだけに、日本が本気で観光分野の成長を目指すなら、民泊の規制緩和は待ったなしでやらなければならない。その意味で、民泊拡大に向けたこの規制緩和の動きは評価すべきでしょう」

麻薬や売春、不法滞在の拠点に?

だが玉井教授は、今回の規制緩和には無視できないマイナス点がある、とも話す。

民泊には貸主が客と一緒に寝泊まりしてもてなす「ホームステイ型」と、ホスト不在のまま、マンションの空き室などを貸し出す「投資型」の2タイプがある。

「望ましい民泊は『ホームステイ型』です。こちらなら、ホストが家庭でもてなすので、外国人客は地域の文化や暮らしに触れることができる。日本の魅力を満喫できる分、リピート来日してくれる可能性も高い。

一方の『投資型』はホストがいません。ただ泊まるだけなので、魅力に乏しい。それどころか、見知らぬ外国人が出入りしてゴミ出しや騒音をめぐるトラブルが発生したり、部屋が麻薬や売春、不法滞在の拠点となって周辺の治安悪化につながる恐れもある。民泊の実現は地域社会の合意が大前提ですが、『投資型』では受け入れられない可能性があります。

今回の厚労省の規制緩和はワンルームマンションでの宿泊も可能になるなど、『投資型』民泊を認めるもの。本来の民泊の理念からはかけ離れており、この規制緩和は全面的には賛成できません」(玉井教授)

同じ規制緩和でも「ホームステイ型」の民泊なら観光立国につながるが、「投資型」民泊は逆に観光亡国になるということか。

どうやら規制緩和には「日本を良くする規制緩和」と「日本を悪くする規制緩和」の両方があるようだ。それでは、他にも議論になっている規制緩和はどうなのか?

発売中の『週刊プレイボーイ』8号ではこの他にも商用ドローン等、今、本当にすべき規制緩和は何かを検証しているのでお読みいただきたい。