佐喜真市長は基地問題に触れず、市民の中には市長が辺野古基地建設に賛成していることを知らない人もいるほどだったという

自民党と公明党が推薦する佐喜真淳(さきまあつし)氏が再選した宜野湾(ぎのわん)市市長選。安倍政権はその結果に辺野古(へのこ)基地建設へ自信を持ったはずだ。

しかし、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は「佐喜眞市長当選=辺野古基地建設容認」は成り立たないと断言する。

***普天間(ふてんま)基地を抱える宜野湾市の市長選は、安倍政権が支援する現職の佐喜眞淳市長が再選を果たした。

対立候補の志村恵一郎氏は、普天間基地の名護(なご)市辺野古移設阻止と県外移設推進を訴え、翁長雄志(おながたけし)県知事ら「オール沖縄」の全面支援を受けていた。私も昨年の12月に沖縄を訪れ、移設反対の市民を激励した。

その候補の敗北に、安倍政権は大はしゃぎだ。安倍首相は「勇気づけられる勝利を得た」と喜色満面だし、菅義偉(すがよしひで)官房長官も「オール沖縄という言葉は実態とかけ離れている。(選挙結果で)一目瞭然だ」と発言。まるで民意が辺野古移設を容認したと言わんばかりだ。

だが、そもそも選挙前に安倍首相は「(辺野古基地建設など)安全保障に関わることは国全体で決めることであり、一地域の選挙で決定するものではない」と言い、宜野湾市長選の民意を軽んじるかのような姿勢を見せていた。なのに、「オール沖縄」候補が敗北するや一転、民意を強調しだす。なんとも薄っぺらで、節操のない政権と言うほかはない。

しかし、敗北は敗北だ。自公の組織力をフル動員して、地元企業回りを徹底するなど利益誘導型のドブ板選挙が功を奏したのだろう。いずれにしても政府は今回の結果を口実に、辺野古周辺の海上埋め立て工事に着手するなど攻勢を強めてくるはずだ。

しかし、宜野湾市民は本当に辺野古基地建設を容認したと断言できるのだろうか? そうではないと、私は考えている。

出口調査では、投票者の過半数が辺野古移設には反対という結果に

市長選で佐喜眞市長は、普天間基地の移転のみを訴え、辺野古基地についてはまったく触れなかった。基地問題を争点にしないという作戦である。そのため、宜野湾市民の中には市長が辺野古基地建設に賛成していることを知らない人もいるほどだった。

住宅地に近接する普天間基地は、世界で最も危ない基地だといわれて久しい(実際には嘉手納基地のほうが事故は多いのだが)。それを市外に移設したいというのは宜野湾市民なら誰もが願うことだ。しかも、ディズニーリゾートの誘致話に象徴されるように、佐喜眞市長なら普天間基地の跡地を開発する際に国からの全面支援を受けられる可能性が高い。

佐喜眞市長に投票したのはその一点に期待したからで、マスコミ各社の出口調査では、投票した人の過半数が辺野古移設には反対と答えている。「佐喜眞市長当選=辺野古基地建設容認」という等式は成り立たない。

市長選は佐喜眞候補2万7668票、志村候補2万1811票という結果だった。一見、小さくない差に映る。だが、「普天間基地の移設さえできればよい」と考えてもおかしくないのに、辺野古に基地が新設されることを拒否し、志村候補に投票した宜野湾市民が2万人以上もいたのは驚くべきことだ。むしろ、この数字こそ本当の「沖縄の民意」を物語っていると私は思う。

6月には沖縄県議選がある。その時には再び「辺野古」が一大テーマに浮上するだろう。その時、宜野湾市民が大挙して辺野古基地建設に「NO!」を突きつけることは十分にあり得る。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)