汚染水タンクの多さにため息をつく報道陣。東電は耐用年数がわずか5年というボルト締めのフランジタンクから溶接タンクへと交換作業をしているが、全部の取り換えにはまだまだ時間がかかる

あの悲惨な原発事故からもうすぐ丸5年ーー課題山積の収束作業は今どうなっているのか? 

実態を確認するために週プレは2月3日、東京電力が報道陣向けに開いた合同取材会に参加今もたれ流され続ける汚染水の貯蔵タンクが、すでに900個超に達していたところまでを伝えた前編記事に引き続き、廃炉作業の現実をレポートする。

* * *2013年の8月、タンク内の汚染水が漏れ出すトラブルが起きて社会問題になった。ボルト締めの簡易タンクを使っていたことから、その継ぎ目から漏れたのだ。そのため、丈夫な溶接タンクへの交換作業を現在進めている。

だが、交換作業は16エリアあるタンク群のうち3エリア目に入ったばかりで、いつ全部が終わるのかの計画はないとのこと。また、取り替えた溶接タンクの寿命もこの先どのくらいもつのかわからないなど、なんとも頼りない。

それでは、なぜ汚染水がそんなに増えるのか。その原因は地下水だ。

汚染水の発生源は、①デブリを冷やし続ける冷却水②山側から海にかけて流れ込む地下水③雨水の3つ。特に地下水が問題で、一日当たり約300平方メートル(25mプール約1杯分)が原子炉建屋に向けて流れ込む。その地下水が放射能汚染されて海へ流れ出るのを防ぐため、くみ上げてタンクに貯蔵する。だから汚染水が増え続ける。

それでも海へ漏れてしまう汚染水を減らすため、1~4号機を取り囲むよう凍土方式の遮水壁を設置した。海沿いには鋼管を使った別の遮水壁も作った。バスからも約700mにわたる白い海側遮水壁が見えた。

配管工事を実施している陸側の凍土方式は、テスト段階でうまく凍らないトラブルが起きている。また、2月9日には工事を完了したが、それに対して原子力規制委員会は「地下水の動きによって汚染水が漏れ出す恐れがある」として、凍結開始を認可していない状況だ。

3号機、汚染水タンクと、問題のありそうな場所を報道陣に公開してくれた今回の合同取材会。東電は原発事故後、情報隠しをしているとして批判されていたが、今回の取材での情報公開度はどうだったのか。

まず、写真撮影は代表取材の1社、ひとりのカメラマンのみ。週プレも撮影許可を打診してみたが、『電波新聞』という電気関係の業界紙に所属するカメラマンが担当することがすでに決まっていて、独自撮影は断られてしまった。

撮影ポイントも限られている。監視カメラ、防護フェンス、建物の出入り口などは安全上の理由で撮影NGだ。

バスで構内を移動中も、付き添いの東電社員から頻繁(ひんぱん)に「ここは撮影をご遠慮ください」との指示が入る。TVクルーはそのたびにカメラの向きを変えなくてはいけない。

まだ東電は深刻な事実を隠している…?

TVクルーには、ひと組にひとりずつの撮影チェック専任の東電社員がピッタリと張りつく。どこで何を撮影しているのか逐一監視されていた。代表取材の静止画カメラマンが撮影した写真は、後で入念に確認され、核物質防護のためのフェンスが写り込んでいるとの理由で使用がNGになったカットもあった。

これは法律で決まった原発内の情報が外部に漏れないようにするための措置だが、フェンスもダメとはずいぶん厳しい。事故後、イチエフで作業員として働いたジャーナリストの桐島瞬氏が言う。

「確かに防犯カメラの場所が特定されるとテロ対策で困るかもしれません。だから東電も報道機関に対して、核物質防護設備を空撮などで撮らないよう再三要請しています。ですが、グーグルマップの空撮写真を見れば、構内の配置など一目瞭然。ネット環境があれば、この程度のことは世界中から瞬時にわかってしまうのに」

また、こんなことがあった。イチエフから約30㎞南に離れた楢葉町(ならはまち)にあるJヴィレッジで、取材陣が体内被曝を測定するホールボディカウンターを受けている様子をTVクルーが撮影しようとした。ところが、カメラを回し始めると、東電社員が撮影を制止し、「すでに撮った映像は今すぐ消してください」と注意。カメラマンが映像をしっかりと消したことを確認する念の入れようだった。この施設を撮影することが、核物質防護上で問題があるとは到底思えない。

大惨事を起こした原発で何が起きているのかを知ることは国民の重大な関心事だ。しかし、フェンス写真NGの件といい、Jヴィレッジの件といい、東電の規制には納得いかない部分が多い。

こうしたことの積み重ねが、情報隠しではないかとの疑念を生む。福島原発事故問題を追い続けるジャーナリストの有賀訓(あるがさとし)氏は、3号機の写真を見てこんな疑問を投げかけている。

「最上階では、コンクリートの鉄筋がなぜか内側へ曲がっています。これは大爆発で壁が外へ吹き飛んだだけではなく、なんらかの理由で建屋内に瞬間的な圧力低下が起き、内部へ崩壊する動きがあったと考えられます。いまだ発表されていない大きな謎が隠されているのかもしれません」

事故から5年が経ち、作業員の環境が改善した部分もある。そのひとつが昨年6月に完成した大型休憩所。200人が入る食堂ができ、全メニューが380円で食べられる。

ただ、すべての作業員が利用できているとは言い難い。イチエフで働く作業員は7千人もいるからだ。現に、昨年の『週刊プレイボーイ』45号で取り上げた作業員のA氏が働いていた元請けのS社では、食堂ができていたことすら作業員に説明がなく、利用できなかったという。

取材が終わり、身体汚染検査を無事にパスした。トータル4時間40分の取材で被曝量は60μSv。もし77時間ここにいれば、それだけで一般人の年間基準1mSvに達する量だ。それだけでもイチエフが収束状況にあるなどとはとても言えない。

5年目という区切りはまだ、この先の長い廃炉工程の導入期にすぎないのだ。

週刊プレイボーイ9号(2月15日発売)「構内取材でわかった『ノーコントロール』『汚染水たれ流し』の実態!!」より