事故を起こしたスキーツアーと似た旅程、価格帯のモノはネットで検索すれば今でも簡単に見つけられる。格安ツアーは根強いニーズがあるのだ

今年1月に発生した軽井沢のバス転落事故。死者15名を出したこの悲劇は、安全コストを軽視したバスツアー業界の「激安競争」が原因のひとつとされている。

では、その実態はどうなのか? 本当に現場のドライバーたちは、過当競争の中で消耗しきっているのか? 匿名を条件に、4名の業界関係者が赤裸々に語った。

大手バス会社従業員(以下、大手バス) 軽井沢で転落したバスの映像を見たけど、驚きました。常識はずれの挙動でしたよね。

ベテランバス運転手(以下、運転手) 現場は碓氷バイパスの入山峠付近。確かにクネクネしたカーブが続く難所だけど、事故が起きたのはその難所を抜けたあたり。特に運転が難しい道路でもない。なのに、バスは100キロ近い猛スピードでガードレールをなぎ倒し、道路脇に転落している。あり得ない。

中小バス会社従業員(以下、中小バス) 運転手は65歳の高齢で、12m級の大型バスを運転するのは事故日を含め4回だけで、それまでは主に7m級のマイクロバスを運転していたそうです。

運転手 バスは車齢14年目で経年劣化していただけに、ブレーキ多用による摩擦熱でエアパッドに異常が起き、ブレーキが利かなくなった可能性がある。

ただ、同じバスでも12m級と7m級では全く別の乗り物。マイクロバスは8tほどだけど、大型バスに40人が乗車すると14、15tにもなる。重心も高いので、乗車人員ゼロの時は回れるカーブも40人乗車だと回り切れず、横倒しになる。4回の乗車では、おそらくその感覚はつかめていなかったはず。事故は運転手の技量不足のせいかもしれない。

旅行代理店経営者(以下、代理店) このところ、高齢で明らかに技量不足というバス運転手が増えたね。あるバス会社にバスを発注したら、ドライバーが全員60歳以上だった。なぜ年寄りばかりなのかと聞いたら、給料が安くてドライバーのなり手がないので、仕方なく高齢で仕事が減ったトラック運転手をバス運転手として使っていると言っていたな。

大手バス バス運転手の給料は本当に下がりました。バブル期は年収1千万円は当たり前、ベテランになると1200万円稼ぐ人もいた。それが2002年の規制緩和でバス会社が増えて受注競争が激しくなると、がくんと下がってしまった。安売り攻勢をかけてくる新規参入組に対抗しようとすると、どうしても運転手の給与を下げてバス料金を安くするしかないんです。うちも運転手の給与は3割以上も下がってしまいました。

零細バス会社の運転手の待遇はひどすぎる

中小バス 大手はまだ恵まれていますよ。中小バス会社の運転手の給与はせいぜい300万、400万円くらいです。

運転手 ペイが安くてなり手が少ない。でも、インバウンド需要の影響で運転手のニーズは高まっている。そうなると今いる運転手の勤務はますますハードになっていく。

例えば、夜行バス運転手のケースだと、夜に東京を出発して、朝に大阪着。そのまま待機して、当日の夜に大阪を出発、朝に東京に戻る、という往復を2度も繰り返す。運転手は2時間ぐらいかけてバスの点検をしなくちゃいけないから、休憩と呼べるのは、昼から夕方までの数時間の仮眠くらいで、ヘトヘトの状態で運転している。こんなむちゃを強いられている運転手がいまだにいるんだよね。

大手バス 今年1月の東京→大阪間の夜行バスの最安料金、いくらか知ってます? 1800円ですよ。50人乗せても9万円だから、高速料金や燃料代を払うといくらも残らない。400km以上の走行は運転手をふたり態勢にしなくてはならないから、1夜行勤務の報酬はひとり当たりせいぜ1万500円くらいです。

運転手 零細バス会社の運転手の待遇はひどすぎる。報酬はハンドルを握った時間分--業界で言うところの「実ハンドル」分だけというバス会社が増えている。そんなありさまだから、次の乗車に備えて運転手がゆっくり休めるような配慮もない。関西のあるバス会社は東京に着くと、運転手に宿所を用意せず、臨海地区の倉庫街にバスを止めて、車内で仮眠させているんだよ。

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消費者にとっては嬉しいはずの激安競争が運転手の待遇を下げ、現場の疲弊を生んでいる。この構造を変えないかぎり、今回のような事故を完全になくすことはできないのだろうか。

発売中の『週刊プレイボーイ』11号では、この業界関係者たちがさらに「バス会社だけに押しつけられないさらなる問題点」から肝心の「危ないバス会社の見分け方」まで語り尽くしているので是非お読みいただきたい。

■週刊プレイボーイ11号(2月29日発売)「乗ったら危ない『激安バス』の裏側を運転手、旅行会社社長らが語り尽くした!!」より