世界トップシェアを誇る中国のドローンメーカー・DJI社の「ファントム3 プロフェッショナル」(写真提供:空撮サービス株式会社)

何かと世間では“厄介モノ扱い”されているドローン。

昨年には、首相官邸の屋上にドローンを飛ばした操縦者や、東京・浅草の三社祭でドローンを飛ばす!とネット上で予告した少年がいずれも威力業務妨害罪で逮捕されるなどお騒がせ、ドローンの飛行ルールを明確に定めた改正航空法が施行されるに至った。

だが、一方では“空の産業革命を起こす”とされるほど可能性を秘めた最先端のメカでもある。

“これを仕事にしない手はない”と、ひとまず『求人 ドローン』のキーワードでネット検索してみたところ、これが意外や意外! めぼしい求人情報はほぼ皆無だった(苦笑)。

企業向けにドローンの業務活用をアドバイスするコンサルティング会社、ドローン・ジャパンの春原久徳(すのはら・ひさのり)氏がドローン業界の現状をこう話す。

「ドローンが今、ちゃんとした稼ぎのある仕事に結びついているのはTV局や映画会社からの引き合いが強い空撮サービスくらいなもの。“空の産業革命”なんてもてはやされていますが、現実、産業分野での実用化はまだまだ一部ということです」

ドローンで年収1千万円!なんて、夢見るのは時期尚早か…?

「いや、そうでもありませんよ。まだまだ実証実験レベル、または実用化はされているけど求人には結びついていないという段階ではありますが、農業、建築・土木、警備、保守・点検、医療、物流…分野を中心に、これから確実にドローンの活用は広がっていきます。

また、ドローンの需要が伸びている半面、操縦できるオペレーターが圧倒的に少ないのが実情です。私が知る限り、腕のいい操縦士は国内で100人といません」(春原氏)

ということは…?

「ドローン操縦士は今後、あらゆる業界から重宝される人材となります。5年、10年というタームで見れば、操縦士不要の自動運転が主流になることも考えられますが、すべての作業現場がそうなるわけではありません。特に、事前に飛行ルートを設定できないような現場では、操縦士の腕が必要になります。今のうちに操縦技術を身につけておけば、年収1千万円の道が拓けるかもしれません」(春原氏)

というわけで、ドローンで稼げそうな仕事を業界別に見ていこう。まず、仕事の量も単価もすでに鰻登りになっているのがこの業界だ。

TV・建設業界からは引く手あまた!

■空撮カメラマン

「空撮カメラマンは売り手市場な上に寡占状態になっています。NHKの朝ドラ『あまちゃん』(2013年に放送)がオープニング映像をほぼドローンで撮影するなど、映画やTVドラマ、バラエティ番組といったメディアでの活用が急激に伸びていますね。

仕事で使用するようなドローンは最低でも1台7万円前後しますが、カメラマンにとってみればレンズを変える感覚で違う画角の絵が撮れるのでそんなに高額ということもないでしょう。映像系の撮影でもクレーン機材なんかはとても高いですから、ドローンで代替できるとなれば重宝されるのもうなずけます。

ギャラは安くても交通費・宿泊費別で1日15万円。高額になると1日50万円なんて仕事も珍しくありません。今後はサッカーやラグビーなど、俯瞰(ふかん)した映像が重宝されるスポーツ分野での需要もますます高まり、2020年の東京オリンピックに向けて“ドローンを操縦できるスポーツカメラマン”への仕事依頼は激増すると思われます」(春原氏)

続いては、同じく東京五輪に向けて受注が増えそうなこの業界。

■建築・土木

建物を造る、補修するこの業界でドローンはいかに活用されているか?

「測量です。更地の状態の建設現場にドローンを飛ばし、高次元な3Dデータを取得することで、施工範囲や施工に必要な土の量、建材などを正確に把握できるようになります。

今、その最先端をいくのが建機メーカーのコマツ。その技術はドローンで取得した測量データをショベルカーに組み込み、コンピューター制御で設計図通りの施工を実現するというレベルに達しています。同社のホームページで紹介されている、入社3年目のOLがタブレットをタップしながら器用にショベルカーを操る動画には驚かされますよ。

昨年に国土交通省が発表した、公共工事の測量、設計、施工、管理に至る全プロセスでドローンや3Dデータを活用する『アイ・コンストラクション』計画が今年4月からスタートします。今後、東京五輪に向けて公共工事が急ピッチで進む首都圏を中心に、あらゆる建設現場でドローン操縦士が必要となるでしょう」(春原氏)

測量士さんの仕事が激減しそうな点が気になるところだが…続いては、この業界。

“ドローン刑事”が犯罪の現場で重宝される?

■点検・メンテナンス

「今、建築耐用年数を迎えて保守、更新が不可欠になっているのが交通インフラ。橋の場合、日本に70万本あり、そのうち地方自治体が管轄するものは80%。点検する作業員が圧倒的に不足しているのが現状です。そこで今、“橋をハンマーで叩いて異常を検知するドローン”の開発がメーカーで進み、実用化間近の状況まできています。自治体の多くはドローンによる点検作業を外注するでしょうが、中には“ドローンを操縦できる公務員”を採用する自治体も出てくる可能性もあります」(春原氏)

点検、保守の業種では、他にもすでにホームセキュリティ大手のALSOKが赤外線センサーを搭載したドローンで太陽光パネルの故障部分を検査するサービスを展開するなど、官民ともにドローン需要がさらに伸びることが確実視されている。

■警備・セキュリティー

「SECOMは建物内への侵入者の監視、追跡にドローンの活用を始めました。監視カメラと赤外線センサーを搭載したドローンが侵入者を検知すると、その頭上付近まで飛んでいって顔や身なりを撮影するというもので、侵入者や不審者の追跡・確保に役立ちます」

となれば、警察の捜査にも応用できそうだが…。

「日本の警察はまだそこまでの状況ではありませんが、アメリカではドローンでスピード違反の車両を追跡し、ナンバーや車体を撮影する使用例もあります。今後、日本の警察も活用を検討していく段階に入るでしょう。犯人追跡だけでなく、立てこもり事件の監視や突入支援といった局面で大いに活躍すると思います」(春原氏)

“ドローン刑事”や“ドローン機動隊”が現場で活躍する日も近い!?

さらに、農場では肥育状況の把握や農薬散布、大規模災害時には生存者の捜索に…と、様々な現場でドローンは活用され始めている。

では、そんなドローン操縦士になるためにはどうすれば? 春原氏は「一般にドローン操縦士としては『10時間以上』の飛行経験が目安といわれますが、やはり腕が良いとされるには、100時間は必要」というが…。

そこで、明日配信予定の後編では、操縦技術の磨き方や資格取得の話など、ドローンを仕事にするために“今、何をすべきなのか?”を春原氏に教えてもらう。

(取材・文/三宅隆)