新薬「シダトレン」。2010年に完成し、さらなる臨床試験を経て14年10月に保険適用で使えるようになった

今年も花粉症の季節がピークとなってきた。

マスクやゴーグルをつけても焼け石に水…。毎年、ただひたすらに耐え忍んでいるという人も多いはずだ。

こうしたツラい症状をなくすためには、「花粉の回避・除去」、「薬物療法」、「出術療法」など様々あるが、その中でもスギ花粉エキスを定期的に投与し、花粉への過敏性を減少・消滅させる「免疫療法」は、完治、あるいは長期的にアレルギー症状が出ないことが期待される。

だったら、スギ花粉症の人は免疫療法で治すべし! となるのだが、従来の免疫療法には「定期的な通院を2、3年続けなければならない」、「即効性がない」、「副作用の可能性」などの高いハードルがあり、なかなか続けられる療法ではなかった。

しかし、およそ1年半前、花粉症患者に朗報がもたらされた。皮下注射よりはるかに手軽に行なえる免疫療法が身近なものとなったのだ。それが「舌下免疫療法」である。同療法の日本での第一人者である、日本医科大学大学院教授の大久保公裕氏が言う。

「スギ花粉エキスを注射で投与するのではなく、舌の下に直接垂らす療法です。舌下にあるリンパ節経由で、エキスが体に取り込まれるわけですね。わが国では、日本の固有種であるスギの花粉の高品質な注射用エキスが2000年に開発されたのを機に、それを舌下投与に転用した研究が始まりました」

研究の結果、高い効果が得られることが判明し、並行して、より舌下投与に最適化させたエキスへと改良が加えられ、10年に医療用薬品「シダトレン」が完成した。そしてさらなる臨床試験を経て14年10月、保険適用で使える薬になったのである。治療法は皮下注射に比べ、はるかに簡便だ。

「日本医科大付属病院の場合、初回の来院では舌下免疫療法がどういうものかの説明を医師から受け、アレルギー原因物質を特定する検査のための採血が行なわれます。

そして2度目の来院時、スギ花粉に対する強いアレルギー反応ありと検査結果が出ていて、舌下免疫療法での治療が適切だと医師が判断した場合、再度治療についてのレクチャーを受けた上で、初回の投与を医師の前で患者さん自らが行ないます。

院内で30分ほど待機していただき、重い副作用が出ないことが確認できれば帰宅という流れです。以降は患者さんが自宅で毎日1回、舌の下にシダトレンを投与していくのです」(大久保氏)

肝心の効果とお値段は?

毎回の投与ではシダトレンを舌下に垂らし、そのまま2分間保持して飲み込む。そこから5分間は飲食やうがいができないが、作業はこれだけ。最初の2週間でシダトレンの量を徐々に増やしていき、以降は毎回同じ量の投与となる。自宅での投与を開始して2週間後に3度目の通院をし、副作用の有無などの診察と処方を受ければ、その後は月1回の診察と処方でOKだ。

病院ごとに違う診察料を別にすれば、毎日の薬代は3割負担の場合、約30円。手間といい費用といい、忙しい社会人でも無理なく続けられる。…で、肝心の効果のほどはというと、

「ここまでの臨床試験や治療の実績では、2年ほど続けると2割の人が根治し、6割の人の症状が改善されています。しかもこの6割の人は抗ヒスタミン剤など、他の薬の服用の必要がなくなっているのです。また、2年続けなければ効果が出ないというわけではなく、始めて2、3ヵ月目から症状の低減が見られます」(大久保氏)

スギ花粉症患者にとっては、まさに救世主! ただし、注意点がいくつか。

「私の患者さんの中に重篤な副作用が出た方はいませんが、3割程度の方は治療初期の投薬直後に口の中が腫れたり、イガイガしたりしています。もっとも、これは体の中にアレルギーの原因物質を入れるのだから当然の反応で、そうした人も続けていくうちに体が慣れ、反応が軽くなったり、なくなったりするのですが」(大久保氏)

さらにこの療法、いつでも始められるというわけではないのだ。

「スギ花粉の飛散期と終了直後は、体内にさらに花粉エキスを取り込んでしまうと重いアレルギー反応が出てしまう恐れがあります。だから東京の場合だと2月から5月は皮下注射も含めて免疫療法を開始できません。さらに効果が出るまで2、3ヵ月を要することを考えれば、始められるのは6月から12月初旬までの間となります」(大久保氏)

ええっ、じゃあ今年のスギ花粉症対策としては、もう手遅れなのか…。

いや、しかし、スギ花粉症の画期的な治療法が登場してきた事実は前向きにとらえたい。花粉飛散期の前にエキスを投与した期間が長ければ長いほど効果は高いという。来年こそは、あの苦痛とオサラバすべく、早速6月から治療を始めてみては?

■週刊プレイボーイ12号(3月7日発売)「ウワサの「舌下免疫療法」は花粉症対策の救世主か!?」より