現在行われている米韓の合同軍事演習は、過去にはない緊張感に包まれているというが、北朝鮮の思惑とは…

朝鮮半島は今、3月7日から4月30日までの日程で行なわれている米韓の合同軍事演習の真っ最中。毎年の定例演習とはいえ、今年は史上最大規模の30万人以上が参加し、過去にはない緊張感に包まれているという。

その理由は、北朝鮮の3代目指導者・金正恩第一書記の異様な“ハイテンション”だ。今年1月6日、なんの前触れもなく核実験を強行して国際社会を驚かせた正恩は、今回の演習に対しても過剰な反応を見せている。

演習に米韓両軍の特殊部隊が参加することについて、2月23日に北朝鮮の朝鮮人民軍最高司令部は「重大声明」を発表した。

<わが最高首脳部(=正恩)を狙った「斬首作戦」を通じ、体制崩壊を実現しようとするものだ>

つまり、2011年に米海軍特殊部隊シールズがアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンを殺害したように、米韓は正恩の殺害を目論んでいるというのだ。一国のトップが、「自分の首が斬られる」と騒ぎ立てる――これほどの異常事態が過去にあっただろうか?

フォトジャーナリストの柿谷哲也氏はこう語る。

「先代の金正日総書記は、米韓合同演習が始まってもあまり反応せず、沈黙を保つのが普通でした。しかし、正恩はTVなど自国メディアに次々と露出し、米韓を激しく挑発している。

特に気になるのが、『ソウルを火の海にする』『無慈悲な火の雨が降る』などといったお決まりのフレーズを連呼するわけではなく、核兵器や弾道ミサイルに関する具体的な言及が目立つこと。相当、不気味です。アメリカ政府も『正恩は何をしでかすかわからない』というのが本音でしょう」

もちろん、米韓側としても正恩の殺害という“荒療治”はリスクが大きく、基本的には避けたいオプションだ。しかし、正恩が疑心暗鬼に駆られて先制攻撃を仕掛けるような最悪の兆候が見えた場合は、「斬首作戦」の実行もやむなし――。そうした緊迫感が、今の朝鮮半島を覆い尽くしているということだ。

1994年と同じような雰囲気が漂っている

今回の演習は、始まった当初は異例の“秘密主義”が敷かれていた。韓国紙記者はこう語る。

「例年なら、事前に細かい取材スケジュールが発表され、『米軍の到着』『韓国軍の準備』『両軍首脳のにこやかな握手』…と、定番のシーンを報道陣に公開します。しかし、今回はそれがありませんでした。いつ、何が取材できるのかわからないまま演習開始を迎えたわけです」

そして3月上旬の某日、在日米軍のある関係者はこう漏らした。

「南シナ海の哨戒任務から、そのまま韓国での演習に参加した、(米海軍)第7艦隊のミサイルイージス艦に友人の士官が乗っているのだが、メールを送っても全く返信がない。こんなことは初めてだ。『海上無線封鎖』のような状態なのかもしれない。

北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えてなのか、それとも『行方不明』と騒がれている北の潜水艦の行方を追っているのか…。こちらには情報が入ってこないが、いずれにしても現在の朝鮮半島には、米朝戦争が開戦ギリギリで回避された1994年と同じような雰囲気が漂っている」

つまり、今の朝鮮半島は報道陣だけでなく、在日米軍関係者にとっても、得体の知れない緊張感があるということ。その原因は、明らかに次の行動が読めない北朝鮮の動向だ。正恩がこれほど強硬姿勢を貫く背景にあるものとは?

発売中の『週刊プレイボーイ』15号では、さらに合同演習での「斬首作戦」の裏側から、正恩が強気でいられる驚きの理由まで、詳細な現地リポートとともに検証。この続きはそちらでお読みいただきたい。

(取材・構成/小峯隆生 協力/柿谷哲也 世良光弘)

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