“イチロー仕様”のスパイク。3本のビモロバーほか、多くの工夫が凝らされている

今年でメジャー生活16年目を迎えたイチロー(マーリンズ)の“足元”に、今、熱い注目が集まっている。彼が昨シーズンから着用しているスパイクのブランド「ビモロ」がマーリンズ内で大流行の兆しを見せているのだ。

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イチローが一昨年まで長く履いていたアシックスでも、米球界で幅を利かせるナイキでもない。彼のスパイクの側面を飾るのは、アルファベットのBを横に寝かせたようなキャラクターライン…。

まず飛びついたのはジェフリー・ローリア球団オーナーをはじめとするフロント上層部だった。米球界のレジェンドであるイチローが選んだ未知のブランドに興味を持った彼らは、メーカーにかけ合って昨年夏、マーリンズカラーのランニングシューズを特注。届いた靴をオフィスでの日常業務の中で履き始めた。

やがてこのブームは、マーリンズ選手の間にも広がる。40歳を過ぎてもバリバリのメジャーリーガーとしてプレーを続けるイチローの秘密がこのシューズにあるのではと、イチローのスパイクやランニングシューズを試し履きしてみたチームメイトたちも、次々にランニングシューズやトレーニングシューズを発注。

最終的には40人の選手が、合計55足を入手した。もちろん、彼らのほとんどは他メーカーとのシューズ契約がある。にもかかわらず、室内トレーニング場や自宅などで履くために欲しがったのだ。メーカー契約のない選手の中には、スパイクまでオーダーした者もいるという。

この謎のブランド、名を「ビモロ」という。

耳慣れない響きだが、正真正銘の日本メーカーである。運営しているのは、鳥取県鳥取市に本拠を置く「ワールドウィングエンタープライズ」。

スポーツに詳しい読者ならピンときたかもしれない。従来の肉体の動かし方の定説を覆(くつがえ)す「初動負荷理論」を唱え、その理論に基づいたトレーニングでイチローをはじめ、内川聖一(ソフトバンク)、山本昌(元中日)、三浦知良(横浜FC)、藤田俊哉(元磐田)、青木功(ゴルフ)、伊東浩司(元陸上短距離)、杉山愛(元プロテニス)ら、そうそうたるアスリートの体づくりと動きづくりを担当してきた小山裕史(やすし)氏が代表を務める、トレーニング施設と研究施設を併せ持つ企業だ。

ウサイン・ボルトのような走りを実現

独自の「初動負荷理論」によるトレーニング方法を提唱する小山裕史氏。これまで多くの有名アスリートを指導してきた

つまり小山氏が、自身が確立した初動負荷理論に基づき、シューズ作りにまで取り組んだ結果、生まれたブランドがビモロなのである。この名前は、初動負荷理論の英語名「Beginning Movement Load Theory」の頭文字を組み合わせてつけられた。

ブランド誕生のいきさつを、小山氏が語る。

「私は約30年前から、師であり、兄貴分でもある元マラソン日本代表の宗茂(そう・しげる)、猛(たけし)兄弟とのトレーニングを始めたのですが、2000年代に入ったある日、彼らから受けた相談がきっかけでした。

『極限まで鍛え抜いているはずのトップランナーでさえ、履いているシューズのせいで故障することがあまりに多いんです。しかしそれをメーカーに訴えても、彼らにはその当事者意識がないのか、まるで聞く耳を持ってくれない。陸上選手の足や体に負担をかけず、パフォーマンスを最大限に発揮させるシューズを、なんとか作れませんか』と。

実は宗兄弟と出会った当初から、私なりのシューズに対する基本アイデアがあり、それを彼らに話していたのを覚えていてくれたのです。そして研究と試行錯誤を重ねてようやく04年、足部の薬指付け根、つまり外側から着地し、その直後にくるぶし下までの足裏全体で着地して地面を押す、すなわち筋肉や関節と神経系にストレスを生まない、ウサイン・ボルト(陸上短距離)のような走りができるランニング用シューズが完成したのです」

●この続き、記事全文は発売中の『週刊プレイボーイ』15号でお読みいただけます。

週刊プレイボーイ15号(3月28日発売)「謎のイチロー愛用シューズ『ビモロ』の実力」より