メリットだらけの処方薬ネット解禁。安倍政権が後ろ向きな理由とは

保育園問題や消費税増税など、様々な問題を抱える安倍政権。3年前には、成長戦略のひとつとして掲げた処方薬のネット販売も手付かずのままーー。

巨大市場を開放しない安倍政権の背景に『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、選挙対策があるという。

* * *今年4月から処方箋の電子化が認められることになった。

これまで薬の処方箋は紙で患者に渡す必要があった。しかし、これからは医師が薬の処方データを地域の専用サーバーに送り、薬局はそのデータを呼び出して調剤できるようになる。

電子処方箋のメリットはふたつ。ひとつは薬局のコスト削減だ。薬局は年間7億枚を超える処方箋を紙のまま、あるいは画像データに取り込み3年から5年間保存しなくてはならなかったが、今後はその手間が省ける。

もうひとつは患者の負担軽減だ。処方箋の確認番号を前もって薬局に伝えておけば、病院の支払いを済ませ、薬局に到着した頃には調剤された薬が出来上がっているということも可能になるとか。薬局での待ち時間がゼロになることも期待できる。

このニュースを聞くと、安倍政権による改革は進んでいるように見える。しかし、本気で岩盤規制をぶち壊し、日本を成長させようと考えるなら、これだけでは足りない。処方薬のネット販売の解禁まで踏み込むべきだ。

2013年6月、安倍首相がアベノミクス成長戦略の目玉としてぶち上げたのが処方薬のネット販売だった。

ところが、結果は一般薬(処方薬から一般薬に切り替わった28品目を除く)のネット販売が解禁されただけで、処方薬は対象外に。処方薬の年間売り上げは一般薬の約10倍で、6兆円を超える巨大市場だ。つまり、岩盤規制の本丸である処方薬は手つかずのままなのだ。

国民のメリットより選挙を取る安倍自民党

電子処方箋は自治体ごとに実施されるが、20年度以降は統一サーバーに集約し、マイナンバーカードを提示すれば、全国の薬局で処方薬が受け取れるようになるという。それに伴い、処方薬のネット販売も実現できるはず。患者の注文を受け、ネット薬局は電子処方箋を入手。あとはその情報に基づいて調剤し、配送する。

薬をもらうために出社が遅れたり、足の不自由なお年寄りがバスに乗って、遠方の薬局に出向く必要もなくなる。ネットビジネスや宅配ビジネスも活気づくだろう。

処方薬のネット販売は欧米では日常の風景だ。ネット販売では副作用のリスクをコントロールできないとの批判もあるが、処方箋は医師が患者を診察して作成したもの。安全性は十分に担保されている。

ここまでメリットが多い処方薬のネット販売だが、安倍政権は導入にいまだ後ろ向きだ。その理由は簡単。ネット薬局にシェアを奪われることを恐れる薬剤師会などが強硬に反対しているためだ。薬剤師会は自民の有力支持団体。機嫌を損ねると、選挙時に票を回してもらえなくなってしまう。

安倍首相は「自分が岩盤規制を打ち破るドリルの刃となる」と力説してきた。

しかし、今やアベノミクスの主砲は夏の参院選に向けたバラマキ対策だけ。まだ16年度の予算成立前なのに、早くも補正予算の話が出ている。安倍首相の「ドリル」はお蔵入りし、バラマキのヘリコプターがそれに代わった。日本経済は完全な麻薬中毒患者になろうとしている。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)