景気回復の実感がない現状でもコメの価格は上がり、生活を脅かす

日本人の主食であるコメの価格が上がっている。米作を成長産業にしようと安倍政権は「減反廃止政策」を掲げたはずだが…。

そこには政府の矛盾した動きがあると『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は解説する。

* * *主食用米の値段がジリジリと上がっている。今年2月の取引価格は60kg1万3265円。2014年産と比べると、10.1%上昇した計算だ。

主食用だけではない。粒の小さい米菓・味噌用コメも値上がりしている。高値の主食用コメに混ぜるブレンド米用として、外食産業などでニーズが高まっているためだ。1kg30円が60円になったというから、こちらは2倍に高騰したことになる。

日本人のコメ消費量は年々減っている。なのに、どうしてコメの値段が上がるのか? その原因は安倍政権が掲げる「減反廃止政策」のインチキにある。

安倍首相が日本の農業の輸出を倍増させ、成長産業にするために「減反をやめる」とぶち上げたのは、13年秋のこと。

日本の米作を成長産業にするためには、コメを世界に通用する輸出品にしなければならない。それには米価を下げて、価格競争力を高める必要がある。

そして、価格を下げるためには当然、コメの生産量を増やすことが必須だ。減反はコメの生産量を減らして、米価を高止まりさせる政策。安倍政権は減反をやめて、農家に競争力のある米作りを促そうとしたわけだ。

しかし、この減反廃止政策は2018年度に実施する「予定」にすぎない。今は、それに向けての準備段階というわけだが、実はやっていることは、減反廃止とは真逆のことばかりだ。

“ウソ”と“ごまかし”ばかりの実態とは?

自民党の大票田である農協や農家の怒りを恐れた安倍政権は、減反廃止を宣言する一方、農水省などに「米価を維持せよ」と矛盾する指示を出した。農水省はその回答として、家畜のエサとなる飼料用米を増産させた。

減反をやめて、農家がコメの生産量を決めることができるようにすると言いながら、主食用米を作りすぎて米価が下落しないよう、飼料米への補助金を10a(アール)当たり8万円から最大で10万5千円と大幅にアップさせたのだ。その転作補助金として、13年度だけでも2500億円が計上されている。

飼料用米の作付け面積が増えれば、反動で主食用米は生産が減り、価格も高止まりする。つまり、飼料用米への転作は米価維持という点で、減反政策と同じ効果を発揮するのだ。

しかもこの政策は、主食用米から飼料用米へと付加価値の低いコメの生産にシフトさせる。これも、コメを輸出産業として育てる戦略とは矛盾している。

これでは日本の農業は一向に強くならない。安くてうまいコメを作る能力のない小規模農家が飼料用米農家として温存され、競争力のある大規模農家へ農地が集約されることもない。

「農業を成長産業にするために減反の廃止を決心しました」

アベノミクスを説明する記者会見で、安倍首相はそう自信満々に語ったものだった。しかし、このままでは減反廃止は名ばかりのものになる。米価は下がらず、日本の農業改革も遅々として進んでいない。

一事が万事。アベノミクスの成長戦略の数々は、聞き心地はいいが、薄皮一枚剥(は)がせばウソとごまかしばかりなのだ。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)