多くの人が「イノベーション」と「インベンション」を混同していると堀江氏は語る

人工知能が人間と囲碁対決をして圧勝したことが話題を呼んだ。グーグル傘下の「ディープマインド」社が開発した「アルファ碁」と「世界最強の棋士」といわれている韓国のイ・セドル九段が戦って、人工知能が4勝1敗したのだ。

人工知能はいつか人間を追い越す、とは以前から言われていたものの、その瞬間がこんなに早く訪れるとは…。世界中の人にとって、そんな衝撃が与えた一戦だった。

しかし意外にも、「そんなにスゴいことじゃないよね」と冷静な反応を示した人物がいる。『週刊プレイボーイ』本誌で対談コラム「帰ってきた!なんかヘンだよね」を連載中の“ホリエモン”こと堀江貴文氏と元「2ちゃんねる」管理人ひろゆき氏だ。

ひろゆき氏は言う。

「今回勝った決め手って、どちらかというとグーグルの資金力だと思うんですよね。一説によると、アルファ碁のサーバー費用は60億円かかるらしいですよ。で、CPUが120個とかあるらしいので、パソコン1200台分ってことになる。

将来的に人工知能が人間に勝つという予測は、『コンピューターの計算能力が上がる』か『画期的なアルゴリズムが開発される』からだと思われていたんですけど、今回のアルファ碁を見て『豊富な資金力で計算能力を上げまくる』ってのが選択肢として抜けていたなと。

例えば、『この暗号を1台のパソコンで解くには1万年かかります』って言われたら、結構かかるなぁって思うのが普通なんですけど、今回のアルファ碁の場合だと『だったら1万台のパソコンを用意して1年で解いちゃおうよ』って感じなんですよね」

それを踏まえた上で、「アルファ碁は画期的なアルゴリズムで挑んだわけではなく、お金の力で勝利したと思う」と指摘しているわけだ。

この意見に、堀江氏もうなずく。

「それってグーグルのお家芸でもあるよね。グーグルのメインサービスである検索エンジンでも似たようなことをしているから。昔、『アルタビスタ』っていう検索エンジン会社があって、そこは大型コンピューターを使っていた。一方のグーグルは何千台というパソコンサーバーを並べて対抗した。

“コロンブスの卵”というか、コンピューターの数で勝負した形なんだけど、このやり方をしたから今のグーグルがあるともいえる。だから、検索エンジンと同じことを囲碁ソフトでもやったってことだよね」

確かに、圧倒的な計算力で他者が追随できないモノを提供するーーそれがグーグルの得意技だ。アルファ碁もアルゴリズムとしては、2006年から使われている「モンテカルロ木探索」のほぼ発展版であり、特に目新しさはないという。

イノベーションに対する大きな誤解

しかし、対局を見ていた多くの囲碁ファン、さらにプロ棋士たちからは、「アルファ碁がどうしてその手を打ったのかわからない」、「人間の理解を超えてる」といった驚愕の声も多く聞かれたが…。

「冷静に考えればわかるんですけどね。例えば、ヘリコプターを造る時に『プロペラの枚数』や『エンジンのサイズ』『エンジンの個数』『燃料の種類』『価格』とか、いろんな要素を決める必要がありますけど、グーグルは各条件に適当な数字を入れて計算して『一番いい結果だったやつを選ぶ』という、ある意味、シンプルなアルゴリズムを使っている。

なので、『どうしてその手を打ったのか』っていう疑問の答えは、『統計的にそっちのほうが勝率が高いから打ちました』ってだけなんです」(ひろゆき氏)

それに対し、堀江氏が「そうなんだよ。でもイノベーションって本質的にはそういうもんじゃん」と切り返すと、

「ええ。人間ってどこかに理解できないポイントがあると、『何かすごいことがあった』みたいな理解をしますけど、実際には地道な作業の延長線のことが多いんですよね。今回だって、もし『量子コンピューター1台で勝った』なら、本当にすごいことですけど、実際は『膨大な数の地道な作業をやっている』だけですから」と、ひろゆき氏も同意。

そこにこそ、イノベーションに対する大きな誤解があると堀江氏は言う。

「多くの人はイノベーションを『存在しないものをつくったとき』って認識してると思うけど、それはイノベーションじゃなくて『インベンション(発明)』だから。発明と革新は別物だから」

だから、この分類ではアルファ碁は「イノベーション」ということになる。

「よくスティーブ・ジョブズとかと比べて『日本人はイノベーションが起こせない』みたいなことを言うでしょ。でも、彼らのやっていることは地道な作業の積み重ねだったり、力技だったりするわけ。それをカッコ悪いと思わずに『それでもいいんだ』って割り切って突き進むことが大事なんだと思う。イノベーターって一歩踏み出すのが得意なわけで、発明をするのはそれほど得意じゃなかったりするからね」(堀江氏)

そこに話が及んだところで、ふたりの話題は、なぜ日本からイノベーションが生まれてこないのか?、何年かしたら、日本社会も変わるのか?という疑問に。そこで出されたダメ出しと警鐘とは…。

●このコラムの全文は発売中の週刊プレイボーイ15号(3月28日発売)に掲載。是非そちらもお読みください!

(イラスト/西アズナブル)