海外メディアに対する風当たりも強まる中、マックニール氏はネット上で「反日ジャーナリストの代表」のように書かれているが…

本連載コラムでも、たびたびテーマになっているニッポンの「政治とメディア」をめぐる問題。

高市総務大臣の「電波停止」発言などが議論を呼ぶ中、3月24日、TBS「NEWS23」を降板したばかりの岸井成格(しげただ)氏をはじめ、田原総一朗氏 鳥越俊太郎氏ら、高市発言に抗議するTVキャスターやコメンテーター6人が外国特派員協会で記者会見を行なった。

「週プレ外国人記者クラブ」第29回は、この会見の司会者を務めた、英「エコノミスト」紙などに寄稿するデイビッド・マックニール氏に話を聞いた。外国人記者の目に日本のジャーナリストたちの訴えはどう映ったのか?

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―日本のジャーナリストたちの記者会見で、特に印象に残ったことは?

マックニール 司会をしていて一番興味深かったのは、会見の場で鳥越俊太郎さんと田原総一朗さんが激しく議論していたことです。鳥越さんは主にメディアに対して圧力をかけている安倍政権を批判していたのですが、田原さんはそうした圧力に委縮してしまっている日本の記者やメディアに怒っていて、こちらのほうが問題だと主張していました。果たして政府からの圧力が悪いのか、それともそれに屈するメディアが悪いのか? 僕はその両方、つまり、真実はその真ん中あたりにあると感じています。

会見の前に「NEWS23」を降板した毎日新聞特別編集委員の岸井さんと個人的に話すことができました。あの降板劇の背後で何があったのか?と聞いたのですが、安倍政権の圧力のかけ方は「岸井さんを番組から外せ!」という直接的な形ではなかったそうです。

例えば、菅官房長官が身近な政治部の記者を相手に行なう「オフレコ」のブリーフィングのような場所で「最近、岸井さんのコメントはちょっとオカシイんじゃないか…」みたいなことを言うと、その記者が自分の局の上層部にそうした「官邸側の不満や不快感」をメッセンジャーとして伝えて、間接的な形で局内の雰囲気を変えてゆく…。どうやらTBSの局内では、そういうことが起きていたらしいんですね。

―つい最近、『安倍政治と言論統制』(週刊金曜日・編)という本が出たのですが、その中に書かれていたNHKの話が今のTBSの話にそっくりです。やはり首相や官邸に近い政治部の記者や幹部が「官邸や自民党との連絡役」になって、番組への不満やコメントへの不快感を局の上層部に告げ、そうしたメッセージを局側が忖度(そんたく)する形で、番組制作の現場に圧力がかかっているというんです。

マックニール 忖度というと?

―「忖度」するというのは「相手の気持ちや真意を推し量ること」で、具体的に「こうしてほしい」と言われなくても、「ああ、アレはこうしてほしいんだな…」とこちらが感じとる、みたいな意味ですね。

マックニール つまり、「空気を読む」ということですね。それは日本について考える時に実に重要な言葉だと思います。政治が番組制作現場に直接圧力をかけるんじゃなくて、間接的な「不快感」みたいなものを記者を通じて局のトップに伝え、その雰囲気を周囲が忖度する形で報道内容に影響を与えていく…。

そういう安倍政権や官邸のやり方は、戦略としてすごく巧みだと思うし、一方でメディアの側が「空気を読む」というのは実に「日本的」でもある。やはり「間接的な圧力」を強める安倍政権と、それに立ち向かわず、逆に「空気を読んでしまう」日本のメディアの双方に問題があるような気がします。

日本が中国みたいになってもいいんですか?

―日本のメディアだけでなく、マックニールさんのような外国のジャーナリストに対する風当りも強くなってきたようです。先日、自民党の「総裁ネット戦略アドバイザー」を務める山本一太参議院議員が「党の公式ネット番組で、日本に関する報道をした海外メディアの記者にツイッターなどのソーシャルメディアで反論するコーナーを始めた…」というのがニュースになっていました。

「ソーシャルメディアのフォロワー数が多い海外ジャーナリスト約30人を事前に選び、英・独・仏語の記事をチェック。反論に対する海外メディアからの反応があった場合は番組内で紹介し、安倍晋三首相にも伝える…」(朝日新聞記事より抜粋)ということです。マックニールさんも目を付けられているのではないかと…。

マックニール 僕なんて、ネット上では「反日外国人ジャーナリスト」の代表みたいに言われて、ひどい言葉をいっぱい書き込まれていますからね。ウィキペディアに載っている僕のプロフィールもしょっちゅう誰かに書き換えられています。

―ちなみに、ウィキペディア上のマックニールさんのプロフィールに「アメリカでモバイルディスコを経営」とか「料理人やソーセージ工場で勤務」とか書いてありましたけど、それって本当なんですか?

マックニール 学生の時、クルマにDJと照明の器材を積んでホテルなどのパーティー会場に出張する「モバイルディスコ」をやっていたのは本当ですよ。でも、アメリカじゃなくアイルランドでね。あと、18歳の時にホテルサービスの学校に入ったことはあるけど、これも3週間でやめちゃった(笑)。

ですから、決してウソではないけど、わざわざプロフィールに書かなきゃいけないことでもない。おそらく、そういう経歴を書き込むことで、「僕がジャーナリストでもなんでもない、ただの変なガイジンなので、アイツの言うことは信用しないほうがいい」というイメージを作りたいんでしょう。

メディア圧力の話に戻ると、こうした状況になることは数年前からある程度予想していました。2014年の夏に菅官房長官が外国特派員協会の会見に出たのですが、「事前に質問内容を出してほしい」と言われて、僕たちはそれを断りました。彼らは外国のメディアに厳しい質問を浴びせられるのを嫌がっているのだと思います。そして、この年の秋以降、政府や自民党の政治家は外国特派員協会の会見には出ていません。

―海外メディアの報道にネット右翼が強い拒絶反応を示したり、政府や自民党がやや神経質になったりしている一方で、日本のメディアよりもズバズバと厳しい質問やツッコミを入れる海外メディアへの期待感も高まっているように思えます。それは裏を返せば、委縮気味でツッコミも物足りない、日本のメディアへの失望感でもあるわけですが…。

マックニール 確かにその両方があるような気がします。僕の書いた記事に「反日的だ」と激しく攻撃してくる人たちはよく「そんなに日本が嫌ならおまえは中国に行け」とか「日本ばかり批判するけど、中国のほうがひどいじゃないか」などと言います。しかし、僕は中国に住んいでたことがありますから、「報道の自由」に関して、中国の現状がどんなにひどいかはよくわかっています。

だからこそ、僕をそう言って攻撃してくる人たちに逆に聞きたい。「じゃあ、あなたたちは将来、この日本が中国みたいになってもいいんですか?」と。反日だなんてとんでもない、むしろ僕はこの日本が大好きだから、絶対にそうなってほしくないと思い、こうして警鐘を鳴らし続けているんですからね。

●デイビッド・マックニールアイルランド出身。東京大学大学院に留学した後、2000年に再来日し、英紙「エコノミスト」や「インデペンデント」に寄稿している

(取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪)