世界から見れば、日本独自のビジネスチャンスはまだまだあると古賀氏

世界に誇れていた日本企業が苦境に喘(あえ)いでいる。日々、流れるニュースは暗いものばかりだ。

しかし、日本には大きな金脈が隠れていると『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏はいう。

***日本の企業がどうにも冴(さ)えない。

台湾資本の傘下に入ったシャープ、巨額負債にあえぐ東芝をはじめ、世界最強を誇った日本のエレクトロニクス産業に往年の輝きはない。

ロボット、太陽光など、かつては世界トップだった産業分野も気がつけば、海外のライバル企業の後塵(こうじん)を拝している。しかも、トヨタ、ホンダなどグローバル企業がひしめく自動車産業だけは大丈夫だろうと思っていたら、こんなニュースも─―。

昨年、トヨタが米カリフォルニア州の環境規制をクリアできず、EV(電気自動車)ベンチャーの米テスラ社から、「クレジット」を買う羽目になってしまった。

同州ではCO2削減対策として、メーカーに一定台数以上のエコカー販売を義務付けている。クリアできなければ、罰金を払うか、達成したメーカーからクレジットを買う。

プリウスなど、HV(ハイブリッド車)に強いトヨタはクレジットの売り手の常連だった。しかし、全くCO2を排出しないEVが出現し、HVはもはやエコカーと見なされなくなった。そのため、EVの手薄なトヨタは販売目標をクリアできず、クレジットの買い手に回ってしまったというわけだ。

トヨタだけではない。EV開発で、日本メーカーは海外勢に後れを取りつつある。

日本企業は復活できるのか? その問いにヒントをくれたのが、「セールスフォース・ドットコム」日本法人の経営幹部だ。同社はクラウドコンピューティングサービスの最大手で、米フォーブス誌が「世界で最も革新的な企業」1位に4年連続で選んでいる。

その経営幹部から、ある席でこんな言葉を聞かされた。

世界が注目する日本の金脈

「日本の企業は世界のマーケットで売れる価値の高いモノをたくさん持っている。ただ、その価値に気づかないだけ」

ここでいう「価値の高いモノ」とは、目に見えるモノや特許になった技術だけではない。日本企業の高いパフォーマンスを支えるプロセスやノウハウ、さらには従業員の働く姿勢も含めて売れる、ということだ。

例えば、神奈川県鶴巻(つるまき)温泉の老舗旅館「陣屋」のケース。ここは経営効率化のため、長年の経営ノウハウを詰め込んだホテル管理システムを独自に開発していた。しかし、システムは自社でしか使われず、いわば埋もれた財産になっていた。

そこでセールスフォース・ドットコムがクラウドサービスソフトとして販売してみると、170以上のホテルに導入され、その売り上げは年間1億円を超えるまでになったという。

セールスフォースはあらゆるシステムを原則、英語で構築して、それをクラウド上にアップする。世界中の企業がそれを利用すれば大きなビジネスになる。最近も、日本の小さな会社の出退勤システムを開発してクラウド上で販売したところ世界中で多くの顧客が利用を始めたという。

日本の雇用システムは特異だから、出退勤システムが世界に売れるなどとは思いつかないが、発想の転換で新たなビジネスが広がるのだ。

日本企業は技術者目線が強すぎるのか、製品の機能や品質にばかり目がいきがちだ。自らの企業文化、管理ノウハウなど、製造品以外の価値にも目を向け、それを世界に向けて商品化すること─―。

それが日本企業復活への第一歩となるはずだ。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)