権力基盤の不安も指摘される中、最近の金正恩は様子がおかしい。追い詰められた男の指は“核スイッチ”にかかっているのか…?

4月9日、北朝鮮は「新型長距離弾道ミサイル」(以下、ICBM)のエンジン燃焼実験に成功したと発表し、写真を公開。「新たなミサイルに、より強力な核弾頭を搭載し、アメリカをはじめとする敵対勢力に核攻撃を加えられるようになった」と豪語した。

北朝鮮がICBMのエンジン実験を公表したのは今回が初めて。『コリア・レポート』編集長の辺真一(ピョンジンイル)氏が解説する。

「実験が行なわれた東倉里(トンチャンリ)の『西海(ソヘ)衛星発射場』は中国の防空識別圏に近く、中国機以外は近寄りにくいため、他国から攻撃されにくい場所にあります。敷地面積は1万㎡で、地下の燃料供給施設やミサイル組立工場、管制センターを含めると250万㎡に及ぶ。2001年に建設が開始され、2009年にほぼ完成しました」

1998年のテポドン発射から始まる北朝鮮のミサイル実験は、2009年4月のテポドン2改を最後に、東部にある舞水端里(ムスダンリ)からこの東倉里へと主発射場を移している。より攻撃を受けにくい場所で“実戦”を見据えた態勢が築かれつつあるとみていいだろう。

また、北朝鮮は今年1月に核実験を強行した際、「核弾頭の小型化(=ミサイルへの搭載)」に成功したと強調している。実際のところ、核開発はどんな状況なのか?

「北朝鮮は06年に再稼働させた原子炉から、少なくともプルトニウム60㎏を抽出し、保有しているとみるべきでしょう。これは戦術核に換算すれば30発分に当たります。また、最初の核実験から間もなく10年が経ちますから、そろそろ小型化に成功していることも十分に考えられる。北朝鮮は核とミサイルの開発に国力のすべてをかけていますから」(前出・辺氏)

もちろん、冷静に考えれば北朝鮮の核ミサイルは、アメリカなどを対話(=制裁解除)の場に引きずり出すための“外交カード”だ。しかし、それにしても最近の金正恩(キムジョンウン)第一書記のエキセントリックな言動、激しい露出には“核カード”を使いこなしていた2代目指導者の父・正日(ジョンイル)とは違った危うさを感じる。

「09年に米朝衝突の危機が叫ばれた際、当時26歳だった正恩は、父を差し置いて空軍に指示を出した。その内容は恐ろしいもので、日米がテポドンを迎撃した場合に備えて14人のパイロットに『日米イージス艦への特攻攻撃』を命じ、実際に訓練もさせていたというのです。

この時、うち1名は訓練中に海面に墜落し、命を落としたのですが、昨年その人物の記念碑が建てられ、“英雄”とたたえられています。このことからも、正恩がいざとなればどんな手段も辞さない危険な人物であることがわかります」(辺氏)

核ミサイルの標的は日本

現代において「特攻」を命じる指導者の動向は、当然アメリカも強く警戒。今年3月から4月末まで行なわれている米韓合同軍事演習では、米軍がかつてない規模の兵力を結集させ、北朝鮮に“圧力”をかけている。

ただ、この圧力が必ずしも「吉」と出るとは限らない。演習に合わせて正恩は続けざまにミサイル発射で“応戦”しており、むしろ追い詰められて冷静な判断力を失っている可能性も捨てきれないからだ。

この5月、36年ぶりに開かれる朝鮮労働党の党大会にかけて、米朝間の緊張はピークに達すると予想される。対米関係の悪化(アメリカとの“チキンレース”がエスカレートし、開戦あるいは突発的なミサイル発射に至る)にせよ、内部の反乱(クーデターの実行、あるいはその兆候を感じた正恩が、やぶれかぶれでミサイルを発射する)にせよ、それまでになんらかの“有事”が起こらないと断言することは誰にもできない。

しかも恐ろしいことに、現状では北朝鮮の核ミサイルの「目標」は日本になる可能性が高いという。軍事評論家の古是三春(ふるぜみつはる)氏はこう語る。

「仮に核弾頭の小型化に成功していても、テポドン2などの試作的な長距離弾道ミサイルは、まだ“確実な戦力”とはなっていないでしょう。となると、北朝鮮の弾道ミサイルの中心は短距離弾道ミサイルのスカッドと、中距離弾道ミサイルのノドン。いずれも南北国境の38度線近くのトンネル内や移動車両に配備されています」

実戦となれば、頼みの綱は韓国を標的とするスカッド(核搭載は不可能)、韓国と日本を射程に収めるノドン(核搭載可能)なのだ。

ただし、現実的には北朝鮮が韓国に対して核攻撃を行なう可能性はほとんどない。なぜなら、「南朝鮮(韓国)の併合」は建国の祖・金日成(キムイルソン)から3代にわたる悲願。同じ民族が住み、後に「占領」する地を核で汚染するわけにはいかないからだ。

そう考えると、いざ開戦となった場合、核ミサイルが飛んでくるのはやはり日本。しかもノドンは、推定50両あるとされる移動式発射車両に搭載される可能性が高く、発射の兆候を事前に探知して迎撃に備えることが非常に難しいという。

「事前に発射予告のなかった今年3月10日のスカッド2発、18日のノドン2発は、日米韓とも発射の兆候、発射後の弾道をまったく探知できませんでした。これは恐ろしい事態を意味します。金正日は生前、『戦争というのは予告してやるものではない』と明言していましたが、まさにそのような状況になりつつあるのです」(前出・辺氏)

日本は正恩が“暴走”しないよう祈るしかないのか?

『週刊プレイボーイ』18号(4月18日発売)『日本・中国・北朝鮮 東アジア同時多発“核ミサイル危機”』より。

(取材・文/世良光弘、小峯隆生)