「世界一危険な空港・ジブラルタル空港」の滑走路を横切っている一般道路。奥に見える一枚岩はジブラルタルのシンボル「ザ・ロック」

ジブラルタル海峡――。この名前を聞いただけでなんだかワクワクするのは、80年代にお茶の間を沸かしたあの伝説のTV番組のせいだと思う。

2014年、タイで復活したという『風雲!たけし城』は、世界159の国や地域で放送され、人気を博しているそうです。『おしん』だけじゃないんだね。

それはさておき、連載99回にしてついにアフリカ大陸も目前! さあ、海峡越えだ!といきたいところですが、その手前にあるイギリス領土「ジブラルタル」にちょっと寄り道。

わずか6.8平方kmのジブラルタルに入るには、スペインからテクテクと陸路で国境を超えるのですが…。

イミグレを抜け、「よぅこそ」と書かれた看板に迎えられ入国すると、いきなり電車の踏み切りのようなところで人々が溜まっていた。

ジブラルタル入口。なぜか深夜通販のようなTVと、なぜか「ぅ」が小さい

飛行機が通り過ぎるのを踏切前で待つ人々

その前を横切っていくのは、電車ではなく「飛行機」!?

狭小な国土に飛行場を建設したため、国境を渡るのに空港滑走路を横断しなくていけないのだ。こわっ! セントマーチンの空港に続き、ここもまた「世界一危険な空港」のひとつなのだった。

滑走路を無事渡り切ると、通貨はポンド、言葉は英語に変わった。街にはイギリスを彷彿(ほうふつ)させる赤い電話ボックスや郵便ポストにバスも現れる。

ジブラルタルの街中はさすがイギリス領と言わんばかり

そして雰囲気のよいカフェテラスや目抜きのショッピングストリートを抜け、街の最南端にある岬に着くと、目の前には地中海と大西洋をつなぐジブラルタル海峡が!

ウッヒョー! 果て感! 海の向こうはついにアフリカ大陸だぁぁぁ!!(しばし感動)」

ジブラルタルの最南端、エウローパ岬。白い建物はモスク

海峡の向こうのイスラム圏に敬意を表すように、そこにはイスラム教のモスクがそびえ、夕方にはサラーム(礼拝)の音楽が流れる。

一方で、公園ではキリスト教やユダヤ教と思われる子供たちが走り回り、近くには聖母マリア教会、灯台や砲台もある。

私は異文化の共存した不思議空間で、海風にたなびくユニオンジャックの旗を眺めていた。

ユニオンジャックの旗と大砲。左に見えるのはアフリカ大陸

アフリカ初上陸の第一印象は?

これが憧れのジブラルタル海峡!

目と鼻の先には、アフリカ大陸・モロッコが肉眼で見える。いっそのこと泳いで渡っちゃいたいけど、そういうわけにもいかないよね。

一度、スペインに戻り、欧州最南端の港町タリファに向かう。ここから対岸までは海峡の距離が14kmと最も狭く、好アクセスなのだ。

再びスペインに戻る

タリファはビーチがあり常に風が吹いているという立地条件からサーフィンのメッカ。宿はサーファー系旅人たちのたまり場になっていた。

「ここは最高だよ。キミは通り過ぎるだけかい? もっと長くいればいいのに。モロッコに行ったら押し売りにあい、マネーマネーと言われるぞぉ~

サーフトリップで来ている者、またモロッコまで行ったが文化の違いに敗北して帰ってきた者。彼らは長期ステイする気満々で、半年分はありそうなタッパーいっぱいのハチミツをパンに塗って頬張っている。

沈没組だな……。

確かにここは居心地が良さそうだけれど、アフリカにはやる気持ちが抑えられない。ハチミツだけひと舐めさせてもらい、出発だ!

フェリーから見たタリファ港。さよならスペイン!

憧れのジブラルタル海峡横断はフェリーで約1時間。大波で揺れに揺れる船内で国境越えの手続きをしているうちに、あっという間にモロッコのタンジェ港へ到着した。

「よくぞ生き残った我が精鋭達よ! 」

『風雲!たけし城』の有名なセリフが頭の中に聞こえてきた。

フェリーを降りて最初に見た、モロッコの景色

「つ、ついに! アフリカ大陸! ヒャッホー~~」

初上陸の感動に叫びたいところだけれども、それと同時にちょっとビビっている私。陽気なスペインとは対照的に、港周辺は人の気配が少なくどこか殺伐(さつばつ)としている。

すぐに「タクシー?」と客引きに声をかけられる。初めてのアフリカに少し気を張っていた私は冷静を装い、「ノ」と小さく答え足早に通り過ぎた。ふぅ…。

どこの国でもタクシーには必要以上に警戒してしまう。この時、モロッコのタクシーが安くて安全とはまだ知らなかった私。体の前後に大きな荷物を背負いながら、GPSの反応しない砂埃の舞う街をさまようこととなる。

タンジェの街中。スマホの看板に違和感

美人に向かって「ブス」を連発

やっと街らしくなってきたが、GPSが動かずここがどこかわからない

1時間は歩いたであろうか。

「バスターミナル、どこ?」という簡単な英語すら通じずキョトンとされたり、住人じゃないからわからないと言われ、途方に暮れる。そこにやっと通りかかったのは、優しそうなキレイなお姉さん。

「バス? …ああ、ブスのことね?」

どうやらフランス語のようだ。フランスの旧植民地が広がっていたアフリカ西北部ではフランス語が浸透している。

「そう! ブス! ブスブス!」

こんなにブスって言葉を連呼することも日本ではないだろう、しかしやっと通じた嬉しさに、必死でその美人に向かって「ブス」と叫んだ。

私たちはお互い笑顔で「ブスブス」言い合うと、握手を交わし、やっとバスターミナルにたどり着いた。

タンジェのバスターミナル

バスターミナルというのはどの国も治安が悪い。しかし、ここに来るまでモロッコの人たちはみんな優しく対応してくれたので、思わずゲートにいたおじさんにも「ブスこっち?」と聞くと、よし来たといわんばかりに道案内され、案の定、金を要求された。

断ることもできたが、だいぶ歩いて疲れていた私はしつこいやりとりはしたくないと、10DH(120円)のコインを渡した。

すると、どこからか突然、別のおじいちゃんが現れて、勝手に私の荷物をヒョイと持ち上げバスに入れてしまった。そして、

「ホイ、お金ちょーだい」

おぅい! さっきの道案内はこっちから声かけたからまだいいとして、これはあげたくなーい! 言葉の通じぬ中、しばらくモメていると、バスに座る人々の注目の的。 結局、お金を渡すことはなく、おじいちゃんは去って行った。

モロッコの民営バスの中

なんだか疲れと緊張で体と頭が熱くなっていたが、バスが動き始めると「別にあげても良かったのかも」と少し後悔。

「親切だと思ったらお金か」とか「カモられたらいけない」という気持ちから、つい警戒心が強くなってしまうが、これが彼らがこの国で生きる道でもあるのだ。

ただ、良し悪しの判断はとても難しく、多くの旅人の悩みとなっている。これだけ旅の経験値を重ねても、なかなか慣れるものではない。

前途多難な予感がする私のモロッコ旅。ヨーロッパが長くて冒険心がなまってたけど…。クゥ~! でも、やっぱり新境地はワクワクすっぞ!

次回は連載100回記念! ここまで生きてこれたのも皆さんのおかげです。いつも応援、本当にありがとうございます!!

来週はGWでお休みなので再来週、ブルーハンター大本命の場所「青い街」、絶対見てねー☆

【This week’s BLUE】ジブラルタルはこんな形。この地図だと右が南。

旅人マリーシャ平 川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、Sサイズモデルとしてテレビやwebなどで活動中。バックパックを背負 う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】