笑顔の高野秀行さん（右）とは対照的に、表情が硬いミャンマーの女のコたち。「話しは弾まなかったけど、すごく居心地がよかった」という高野さん一行は、５時間も居座ったとか！ＧＷに旅をするなら、死ぬまで一生の思い出になる場所に！ということで、発売中の『週刊プレイボーイ』１９＆２０合併号では、今をときめく冒険家や探検家が究極の旅先を提案している。
誰も行かない辺境で未知の体験を渉猟し、その顛末（てんまつ）の数々を著述してきた高野秀行さん。
現代探検作家の草分けともいうべきそのキャリアと独自の視点から、週プレ読者にオススメしたいスポットをピックアップしてもらったが、いの一番に飛び出したのは、アジアンテイスト満点の不思議なキャバクラ体験！？
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―“死ぬまで一生の思い出になるＧＷの旅先”というテーマを、どう解釈していただくかにもよりますが…。
高野 ２年前に取材でミャンマーへ行った際、まさに週プレ読者にぴったりのスポットを見つけたんですよ。
―それは、とても興味深いです！
高野 シャン州のチャイントンという町の近くにある村をバイクで回っていた時、簡素な屋台が道沿いに並んでいるのが目に入ったので、通訳の男性に「あれは何？」と聞くと、バーだと言うんです。しかも、女のコがお酒の相手をしてくれるのだ、と。電気通っていないエリアなのに。
「意気投合すれば、女のコが自宅に招き入れてくれることもあるよ」と言うので、さらにびっくりしました。
―キャバクラというより、ちょんの間のような業態？
高野 普通、そう思いますよね。ところが、「つまり、相手をしてくれるコたちは娼婦なんだね」と言うと、通訳が突然、「そんなわけないじゃないですか！ この地域にはプロなんていませんよ！」とえらい剣幕で怒りだすんです。だからますますわけがわからなくなってしまって…（苦笑）。
―今のところ、怪しい風俗以外の何物でもないですが。
高野 でしょう？ 僕らもちょうど、夜お酒を飲めるところを探していたので行ってみることにしたのですが、あいにくその日は地元のお寺の催事と重なっていて、屋台はどこももぬけの殻。
そこで村の一角でたむろしていた若い男のコたちに「このへんにどこかお酒を飲める店はない？」と聞いてみたら、「うーん、どこか女のコの家で飲むしかないんじゃないかな」と言うんです。
異性の交際がフリーな地域ではないはずなので、これは不可解。そこで、とりあえずよくわからないまま、彼らにその場所まで案内してもらうことにしたんです。
妊娠中の女性も一緒に踊る！コンゴの酒宴
―夜だし、なんだか怖そうですが。治安の悪い地域ではないんですか？
高野 ミャンマーは治安いいですよ。田舎は特に。軍事政権だった時代の名残（なごり）でもあって、たいてい独裁政権の国というのは安全なものです。
―なるほど。そして案内されたのは…。
高野 １軒だけ電気がついている麺の店に連れていかれると、女のコが４人、座っていました。年齢的には１６歳から１８歳。茶髪でちょっとケバい感じのコもいれば、清純そうなコもいる。
早速、通訳に交渉してもらうと、リーダー格らしき茶髪のコの承諾が取れたようで、「それでは今から彼女の家へ行きましょう」と言うんです。
未知の怪物を探索するべくテレ湖へ出発する高野さん（中央）。滞在した村で毎晩のように催された歌と踊りが忘れられない
―え、いきなり？
高野 そう。すぐに皆で彼女の家までバイクで移動することに。同時に、女のコの何人かが手際よく酒やつまみを買い出しに行くなど、非常に手慣れた感じでしたね。
そして普通に彼女の両親が下で寝ている家屋の２階のテラスで酒盛りが始まるんです（笑）。ロウソクの明かりだけだと、ケバく見えていた女のコたちがなんとも色っぽく見えて、楽しかったですよ。
―最終的に性的なサービスなどは…。
高野 ありません。本当にただ飲むだけ。なぜ彼女たちがこんなサービスをしているかというと、実は婚活なんですよ。この時はたまたま旅の外国人である僕らが相手でしたが、普段は町や村の男のコたちを相手に同様の宴会を催して、互いに品定めをするんです。
女のコたちはみんな処女という触れ込みで、そこで話がまとまると結婚に至る、というわけです。
―これは確かに忘れられないキャバクラ体験になりそうですね。
高野 ただ、結婚する気もないのに女のコに手を出そうものなら、後で大問題になるので要注意です。その場合、家同士で話し合って豚何頭を譲渡することで和解、といったケースもあるようですよ。
興味のある人はチャイントン周辺で人に尋ねれば、すぐに見つけられると思います。
―最後に、高野さんが死ぬまでにもう一度訪ねたい！と思っているスポットを教えてください。
高野 たくさんあるけど、大昔にモケーレ・ムベンベという未知の怪物を探索に行った、コンゴのテレ湖かな。湖というより、その時に滞在した村が本当に良かったので。
何しろ娯楽が皆無だから、毎晩、みんなでヤシ酒を飲みながら歌って踊るんです。男が太鼓を打ち鳴らし、女がその周りで踊る。その歌がまた、なんともいえず日本人の心に染み入るメロディーで心地いい。踊りも皆、実に華麗。
それもそのはずで、見ると妊娠中の女性も一緒に踊っていて、つまりはこの人たちは胎内にいる時から踊っているんだなと、妙に納得したものです。
死ぬまでにもう一度、あの空間に浸ってみたいですね。
（インタビュー・文／友清 哲 撮影／有高唯之）
●高野秀行（たかの・ひでゆき）１９６６年生まれ。早稲田大学の探検部在籍時に執筆した『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。最新作は『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉』