「ジャパンタイムズ」でも特集されるなど、既存の音楽メディア以外の場所でじわじわ注目を集めている綿めぐみ

2014年、突如としてYouTube上にアップされた彼女の楽曲『災難だわ』。そのポップなリズムと脱力したボーカルが一部で話題になったが、その後は、自主流通でのCDリリースとインターネット上での活動しかほぼ行ってこなかった。

彼女自身の経歴やキャラクターもほとんど不明。本人のツイッターから伝わってくるのは、どうやらガチのアニメオタクらしいということだけ…。

しかし、2016年に入ってから2ndアルバム『ブラインドマン』と、入手困難だった幻の1stアルバム『災難だわ』の全国盤を立て続けにリリース。英語ニュースサイト「ジャパンタイムズ」でも特集されるなど、既存の音楽メディア以外の場所でじわじわ注目を集めている。

週プレNEWSは、そんな綿めぐみとの初コンタクトに成功! 謎めいた素顔と音楽的ルーツを本人に直接聞いてみた。

―今日、お話を伺うために、たまたまこの渋谷の喫茶店を予約したんですが、ここって綿さんの『都会』という曲のPVを撮った場所ですよね?

綿 そうなんですっ。入った瞬間、「前に来たことある!」って思いました。よくご存知ですね。

―『都会』のPVは、だいたい渋谷近辺で撮影されてます?

綿 はい。最初は別の場所で撮る予定だったんですけど、渋谷で待ち合わせをしたら、急に撮影が始まっちゃって。そのまま、渋谷のいろんなところに連れていかれて…具合が悪くなりました。

―悪くなりましたか(笑)。

綿 ほんっとに、渋谷とか苦手なんです。私は池袋の乙女ロードで育ったので、渋谷みたいにキラキラしてるところに行くと、テンションが落ちます。池袋のアニメイトも、最近はおしゃれになって、若干入りづらいんですけど。

―音楽的には、渋谷がぴったりハマりそうな雰囲気なんですけどね。2ndアルバム『ブラインドマン』は、サウンドもかなり微温的で心地いいんですが、歌詞が難解で正直、意味がよくわからなかったです。

綿 大丈夫です。私もわからないので。

―自信たっぷりに言われても(笑)。

綿 『ブラインドマン』に収録されている曲は、プロデューサーの方の実体験をもとにしているそうなんですけど、説明を受けてもよく意味がわからなかったです(苦笑)。曲をいただいた時に、「ここはこういう風に歌って」っていうコメントがいっぱいついてたので、私はその通りに“声を当てた”っていう感じです。

https://youtu.be/h7qS-_cW5tQ

元々は声優さんになりたかったんです

―“声を当てる”という声優っぽい表現は、さすがアニメオタクですね。僕はYouTubeで『災難だわ』を初めて聞いた時、歌詞と、それを歌う綿さんのやる気のなさそうな声が一発で好きになったんです。

綿 あぁー。『災難だわ』をレコーディングした時は、ほんとに不機嫌でしたね…(笑)。「初めてレコーディングする曲が、このタイトルか!」ってびっくりして。普段はアニソンばっかり聞いてるので、音楽的にも理解不能でした。「『災難だわ』が好き」って言ってくれてる人には申し訳ないんですけど…どこがいいんですか?

―いや、歌詞も声もサウンドも好きですよ(笑)。綿さんの声って、ロリっぽいんだけど、ところどころに色気を感じさせますよね。

綿 そうなんですか? 私、その時の気分で声質が変わるんです。最初に『災難だわ』を録った時はものすごく不機嫌だったんですけど(笑)、次に録った『モンキージョージ』っていう曲はノリノリで歌えました。「キャッチーでかわいくて、全然、前の曲と違うじゃん! この曲、好き!」って思って歌ったから、声も明るい感じになってると思います。

あ、YouTubeに上がってる『災難だわ』の歌は、さすがに自分でも気に入らなかったので、CDではもうちょっとやる気がある感じの歌い方で録り直してます(笑)。

―そうなんですか。先ほどもチラッと“声を当てる”という表現をしていましたが、声優やアニメに携わる仕事をしたいっていう気持ちがあるんですか?

綿 あります。というか、もう、その気持ちしかないですね。そのプロセスとして、「綿めぐみ」が有名になればなって思っているので。

―そもそも、なぜ歌うことになったんですか?

綿 元々は声優さんになりたかったんですけど、「声優の養成所に通ってストレートに目指すよりも、違う角度から攻めてみれば?」って知り合いから勧められたんです。それで今のプロデューサーを紹介していただいて、綿めぐみとして歌わせてもらうようになりました。

―なるほど。アニメが好きになったきっかけは?

綿 そうなる“運命(さだめ)”だったから(笑)。姉もアニメが好きで、ものごころついた時からアニメを見せられて育ったので、自然とオタクになってたんです。『セーラームーン』とか、すっごい好きでしたね。

クラスメイトからは「危ない」と思われてたかも(笑)

―「自分もいつかセーラー戦士になれる」と思ったり?

綿 そうですね。変身してみたかったです。でも、中学生になってからは『新世紀エヴァンゲリオン』にハマって、「私も14歳になったらエヴァのパイロットになるんだ!」と思ってました。卒業式の時もまだ諦めてなくて、寄せ書きに「私はエヴァのパイロットになることを諦めない」って書きました。

―まさに“中二病”ですね(笑)。

綿 クラスメイトからは「こいつは危ない」と思われてたかもしれないんですけど(笑)。その頃は、まだオタクって偏見を持たれてたので、学校ではアニメの話をあんまりしてませんでした。部活にひとりだけアニメの話ができる友達がいて、そのコとオタ話をしながら一緒に帰るのがほんとに楽しかったです。

―どんな話をしてたんですか?

綿 好きなアニメの二次創作の小説のこととか…(笑)。この間、その友達と何年ぶりかで会ったんですよ! そしたら、「めぐちゃんがすごい元気ない日があってさー。『シャーマンキング』の二次創作のサイトが閉鎖された日、ガチで落ち込んでたよね」って言われて。当時はその二次創作を読むことが生きがいだったんです。

―『シャーマンキング』が好きだったんですね。

綿 もう、小学生の頃からレンタルビデオが擦り切れるくらい観てました! 主人公の「葉」と、敵の「ハオ」っていうのがいて、このふたりは実は双子なんですけど、ふたりの間にはものすごく深い因縁があって…(以下、略)。『シャーマンキング』にハマったおかげで、“双子設定”が異常に好きな人になってしまいました。双子属性ですね、はい。

―話の意味はよくわからなかったんですが、双子が好きなことは伝わってきました(笑)。実は、綿さんが今、『アイドリッシュセブン』というゲームにハマっていると知って、僕もやってみたんですよ。

綿 えーーー! すごーーーい!

―このゲームにも双子が登場しますよね?

綿 そうなんです! メインのアイドルグループにいる陸くんと、ライバルグループの天くんっていうのが実は双子なんですけど、お兄ちゃんの天くんのカードがどうしても欲しくて、かなり課金してしまいました。

腐女子なとこ、伝わっちゃってますか?

―課金は必須なんですか?

綿 いえ。しなくても遊べるんですけど、課金しないと読めないストーリーもあるから。あとは、スタミナ設定もあるので、スタミナがなくなったら他のゲームを回して回復を待ってます。今日も、あるゲーム内で22時からイベントがあったりして、そこで新しいカードを入手しないといけないんですよ。

―なんか忙しいですね(笑)。

綿 はい。オタ活も忙しいんですよ。ツイッターとかYouTubeでしか私のことを知らない人には、実際に会ったらドン引きされると思います。表に出してる以上にオタクだから。

―ツイッターでもアニメとかゲームのことしか書いてないじゃないですか!

綿 でも一応、投稿する前に何回も読み直してるんですよ。「ここまで言っちゃうと引かれるかな」とか考えて。だから、そんなに直接にBLの話とかしてないはずなんですけど…私が腐女子なところもあるって、伝わっちゃってますか?

―伝わっちゃってると思いますよ。まだ音楽の話をほとんどしてないんですが、音楽にあまり興味がないんですか?

綿 音楽ですか…。困ったことに、具体的な目標がないんですよね。アーティストっぽく「どこどこでワンマンがやりたいです」っていう夢もないし。でも、アニソンは大好きなんです。この間も『KING OF PRISM by PrettyRhythm』っていう映画を観て、「知ってる曲でも、声優さんが歌うとこんなに違うんだ!」って感動して(以下、略)。…こんなにアニメの話ばっかりしてて大丈夫ですか?

―大丈夫です。ばっさり省略するので(笑)。ただ、プロフィールに「フルートが吹ける」と書いてありますが、どういうきっかけで始めたんですか?

綿 実はフルートの前にピアノをやってたんです。7歳か8歳くらいの時から。お母さんがクラシックが好きで、うちは家族みんなピアノを弾けるんですけど、当時のピアノの先生がすごく厳しかったんですよ。だから、ピアノから逃げるためにフルートを始めた感じです。中学でも吹奏楽部で吹いてました。

―「将来は音楽家になろう」と思わなかったんですか?

綿 中学の頃はそう思ってもいたんですけど…。高校は音楽学科のある学校に入ったんです。そこは普通科もあったんですけど、音楽学科とは校舎も別で、私たちはほんとに隔離されてる感じで。周りのクラスメイトも「3歳からピアノをやってました」みたいな人たちばっかりだったし、音楽漬けの毎日があまりにも嫌で、学校に行かない日もあったり。

「いつまでもインディーな存在ではいたくない」

―学校に行かずに、何をやってたんですか?

綿 新刊マンガに付いてくる特典のポストカードをもらうために、アニメイトに並んだり(笑)。クラシック音楽自体は今でも好きなんですけど、自分の中で「アニメとかアニソンと音楽は別物」っていう感覚で接してきましたね。綿めぐみの音楽も、私の趣味とは別物みたいに思ってるし。

―せっかくフルートが吹けるんだから、曲の中で吹いてみたいとは思わない?

綿 「吹きたいです」って自分から主張したことはないです。ただ、フルートを吹けることは伝えていたので、「ちょっとは吹いたりするのかな?」とは思ってたんですけど、そう言われたこともなく(苦笑)。曲を作ってるのがものすごく音楽にこだわりのある方々なので、綿めぐみの曲に関しては私は何も言えないですね。“すべてを受け入れる”っていうスタンスです。

―今後、自分の好きなアニソンっぽい曲を歌ってみたいと思いますか?

綿 そうですね。今、綿めぐみとして歌ってる曲とは全然違う曲を歌ってみたいっていう気持ちはあるんですけど…。それよりも今、皆さんが思ってるような「綿めぐみ=不思議」とか「謎」っていうイメージを払拭(ふっしょく)したいです。私は昔から「やる気が見えない」って言われるタイプだったんですけど、やる気はあるので(笑)。もっと積極的に自分のやりたいことを言わなきゃなって思ってます。

―なるほど。綿めぐみとして有名になりたいっていう意識は強いんですか?

綿 はい、強いです。「いつまでもインディーな存在ではいたくない」って思ってるので。できれば、綿めぐみとして有名になって、漫画家さんや声優さんと対談のお仕事ができるようになりたいです。実際に好きな方を目の前にしたら、気持ち悪い人になっちゃうと思うんですけど(笑)。

(取材・文/西中賢治 撮影/下城英悟)

■綿めぐみ(わた・めぐみ)香港生まれ、インターネット育ち。平成生まれのクリエイターたちによる制作チーム「TOKYO RECORDINGS」に所属。2014年7月、楽曲『災難だわ』をYouTubeにアップし、「謎の美少女」と話題になる。2016年2月、初の全国流通盤となる2ndアルバム『ブラインドマン』が「TOWER RECORDS」レーベルよりリリース。3月、入手困難となっていた1stアルバム『災難だわ』が2曲の未収録曲を加えて再発された。現在、LINE LIVEで週1回、生番組を配信。ツイッター @___wmwmwmブログ http://lineblog.me/watamegumi/公式サイト http://www.watamegumi.jp/