マートンの危険な走塁から生まれたコリジョンルール…怨念こもる遺物に阪神が呪われた?

今年から導入された「コリジョンルール」がプロ野球界を困惑させている。コリジョンとは英語で「衝突、激突」の意味で、この新規則は本塁での危険な衝突プレーを回避するため、主に「捕手が走者の走路をふさぐ行為」と「走者の強引なタックル」を禁じるもの。

だが、この適用を巡(めぐ)る混乱が続出している。今月11日の阪神対巨人戦では3回表、巨人の走者・小林が本塁に突入するも阪神の捕手・原口がタッチ。一度はアウトが宣告されたものの、ビデオ判定の結果、コリジョンの適用で判定がセーフに覆(くつがえ)ってしまった。

「捕手の原口はルールどおりに走路を空けてホームベースの前で送球を待っていたのですが、送球がワンバウンドしたため、後ろに下がって捕球。この時、ホームをまたぐ格好になったので〝走路をふさいだ〟とされ、セーフと判定されたのです。ただ、審判部でも意見は様々で『あのプレーはコリジョンを適用せず、アウトでよかったのでは』との声もあった。要は基準が人それぞれで曖昧(あいまい)なんです」(虎番記者)

これに収まらないのが阪神・金本監督。猛抗議に加え、ゲーム後には阪神側がNPB(日本プロ野球機構)に意見書を提出する騒ぎに。

続く17日のDeNA対巨人戦でも珍事が。6回表にDeNAの三塁走者・倉本が本塁へ突入。タイミングは完全なアウトだったが、巨人の捕手・小林は新ルールを意識するあまり、ホームベースのマウンド寄りで捕球。振り向きざまに追いタッチを試みるも、ヒラリヒラリと倉本にかわされ、ついに生還を許してしまったのだ。巨人番記者のひとりが苦笑する。

「子供の追いかけっこのような滑稽(こっけい)なプレーで、巨人ファンからは失笑が漏れてました。新ルールでは捕手はホームベースの一角を空けなくてはならないため、どうしても追いタッチになるので仕方がないのですが、これが今後、クロスプレーの定番となったらあまりに情けないですね」

危険なクロスプレーが減るのはいいが、その半面、プロ野球の醍醐味(だいごみ)が失われるとの声も少なくない。スポーツ紙デスクが言う。

「外野フライを捕ってバックホーム。目の覚めるようなレーザービームでタッチアウト、という場面が今後はほとんど見られなくなるかもしれない。野球そのものが変わってしまうといってもいい」

マートンもおらんのにいらんやろ?

では、こんなつまらないルールをなぜ導入したのか?

「きっかけをつくったのは去年まで阪神にいたマートンです。彼はとにかく危険な走塁をする選手で、本塁突入時は腕を胸の前でクロスさせて固め、そのままキャッチャーに体当たりを食らわせるんです。この危険なタックルのせいで、13年にヤクルトの田中捕手は鎖骨(さこつ)骨折の憂(う)き目に遭っています。その後もマートンの蛮行はやむ気配がなく、メジャーに遅れること1年、日本にもコリジョンルールが導入されることになったんです」(前出・虎番記者)

だが、マートンは阪神を昨季クビになり、すでに日本球界にはいない。残ったのはルールだけ、というわけだ。虎番記者が続ける。

「今のプロ野球界には、マートンのような危ない走塁をする選手は見当たりません。つまり、プロ野球界は必要のないルールのせいで、いたずらに混乱しているというわけです。ある阪神OBも『肝心のマートンがおらんのにコリジョンで球界が騒動になっているなんてアホ。元のルールに戻すべきや』とぼやいていました。そのとおりですよ」

最近、一部で「マートン、日本球界復帰も」と報じられたが、それが現実になるまで“マートンルール”…いやコリジョンルールは封印してもいいのでは?

■こちらの記事は現在発売中の『週刊プレイボーイ』23号に掲載されています。

(取材・文/ボールルーム)