最近のメディアの報道で、すっかりパナマに悪いイメージが持たれているが…

パナマにある法律事務所から流出したことで「パナマ文書」と呼ばれる顧客リスト流出のスキャンダルは、とうとう日本企業にまで飛び火した。すでにメディアやネット上には文章にあった名前がさらされ、多数の非難を浴びている。

大企業や富裕層が節税対策を行なうためにタックスヘイブン(所得税や法人税が安い、またはかからない国や地域)であるパナマに多くの法人を設立している実態が明るみに出たことから「国際的な税逃れだ」というバッシングをされているのだ。

しかし、このパナマ文書をめぐる騒動に対して「一体、何を今さら騒いでいるの?」と疑問を呈する人物がいる。『週刊プレイボーイ』本誌で対談コラム「帰ってきた!なんかヘンだよね」を連載中の“ホリエモン”こと堀江貴文氏と元「2ちゃんねる」管理人ひろゆき氏だ。

両氏によると、そもそも多くの人は「タックスヘイブン」がなんであるか知らないことから、誤解によるバッシングが起こっているのだと言う。ひろゆき氏が語る。

「メディアが説明しないのでここで説明したいんですが、タックスヘイブンに法人をつくりたがる理由って映画の『製作委員会方式』(映画やアニメを作る時にTV局や広告会社などが資金を出し合ってリスクを分散する仕組み)をイメージすればわかりやすいんですよ。

リスク分散の他にも、映画がヒットして売り上げが発生すると、それを各社に分配しますよね。この日本の製作委員会方式って、任意団体の形になってしまうので、もしも映画がコケた時なんかには出資者が無限責任(自分が出資した分だけでなく、債務がなくなるまで私財なども含めて弁済に充てる)を負うんですよ」

それを避けるためには、製作委員会を法人にすればいいのだが…。

「でも例えば、委員会に参加する会社が集まって法人をつくって、8億円の出資を集めたとします。んで、その8億円で映画を作って、利益が10億円出たと。これって委員会に参加した企業は儲(もう)かりそうな話ですけど、実は損をするんです」(ひろゆき氏)

その理由は法人税がかかるためだ。例えば、利益が10億円で出資者に戻そうとすると、法人税で半分持っていかれるため、各社に分配できるのは5億しかない。だから、利益が出たとしても赤字になってしまうというのだ。

「ってことで、日本で製作委員会方式が取られる場合には、法人にしないで任意団体にしていることが多いんですよ。ただ、それだと無限責任なので、よほど信用している会社か、資金が潤沢(じゅんたく)な会社じゃないと委員会に入れないとかになっているんです」(ひろゆき氏)

法人税を高くしたままで企業が海外に行ってしまってもいいのか?

この説明に対して堀江氏が「でも、日本でも有限責任事業組合はできるでしょ?」とツッコミを入れたが、どうやら事情はさらに複雑なようだ。

「それだと法人格がないので銀行口座が簡単に作れないとか、組合の名前で契約ができないとかめんどくさいことが多くて、そこまで普及してないみたいです。

んで、ここでタックスヘイブンの話になるのですが、法人税が0%のタックスヘイブンで10億円の利益を上げたら、各社は儲かってよかったねという誰も損しない形になる。ってな感じで法人税がない国や地域に会社をつくる需要が生まれるんですよ。だから映画に限らず、ソフトウェアを共同制作して作った場合も管理会社をタックスヘイブンに置くことがあるんです。

こんな感じで企業がタックスヘイブンを使う理由はあるんですが、メディアはその事実を報道していないんです。結果的に『パナマに会社がある=脱税=悪いこと』という単純な図式を思い描く人が多くなる」(ひろゆき氏)

この指摘に堀江氏は同意する一方で、パナマ文書がこれだけ注目を集めたのは「メディアによる問題提起のやり方が世間にうまく刺さった」という面もあると語る。つまり、悪者をわかりやすく描けるため、TVの視聴率を上げるために利用しやすいということだ。

とはいえ、タックスヘイブンへのバッシングが止む気配は当分なさそうだ。世界では「税逃れを防ぐために国際的な税徴収の仕組みをつくる」という議論もあるようだが、果たして、実現するのだろうか?

「それは無理だと思いますよ。だって、税率は高いけど福祉が充実している国もあれば、その反対のパターンの国もあるように国家の方針と税収は密接に関わっています。他国がとやかく言えることではないですからね。

ちなみに、法人税を高くすると企業は他の国に移ってしまうので、今の世界のトレンドは法人税を20%弱まで下げるってことみたいなんです。でも、日本が世界のトレンドに倣(なら)って『法人税を20%にします!』とか言ったら、政府は国民から総スカンを食らうでしょうね。そうすると税収が足りなくなって、代わりに消費税を上げることになりますから」(ひろゆき氏)

法人税を高くしたままで企業が海外に行ってしまってもいいのか? パナマ文書の問題は、そんなことも問いかけるわけだが、そこでふたりが「なんかヘンだよね」とつくづく感じる、日本人のメンタリティとは…。

●この全文は『週刊プレイボーイ』23号にてお読みいただけます。

(イラスト/西アズナブル)