西武・メヒアやDeNAのラミレス監督など日本球界でもベネズエラ出身選手が多く活躍している

オイルマネー急落を引き金に、今や国家破綻の危機にある南米の石油大国、ベネズエラ。世界最悪といわれる犯罪率の高さや急激なハイパーインフレ、さらには物資&電力不足で国民の生活は厳しくなるばかり。

その影響は国民の〝最後の希望〟=野球にも及び始めている。

■ギャングがMLBのアカデミーを襲撃

「地元の少年野球チームに入るにはお金が必要だったから私は9歳まで加入できなかったんだ。それまでは道端で野球をしていたよ」

ベネズエラ出身で、今季からDeNAを率いるA・ラミレス監督がこう回顧したことがある。かねて貧困が社会問題の当地で、野球は少年たちにとって最も人気のあるスポーツであり、一攫千金(いっかくせんきん)を狙える数少ない手段だ。

ベネズエラ出身で、2012年にメジャーリーグ(以下、MLB)で45年ぶりの三冠王に輝いたタイガースのM・カブレラが8年総額約248億円の超大型契約を結んだほか、09年、ア・リーグ最多勝のF・ヘルナンデス(マリナーズ)も年俸約23億円と、アメリカンドリームをつかんだ。

日本でも今季、開幕から本塁打を連発している西武のE・メヒアは年俸3億円+出来高と日本トップクラスであるし、かつてはR・ペタジーニ(元ヤクルト)やA・カブレラ(元西武)なども、高額年俸を手にしてきた。

だが、不安定な社会情勢のあおりで、ベネズエラの野球環境が急速に悪化しつつある。

「経済と治安の問題がひどくなり、MLBのアカデミーが次々と出ていったよ」

そう嘆くのは、現地『ウルティマス・ノティシアス』紙でフォトジャーナリストとして働くネルソン・プリド氏だ。

メジャー各球団は1989年からベネズエラのアカデミーで16歳から20代前半の選手を育成してきたが、近年、球団の多くが次々とこの地に見切りをつけている。物資不足と凶悪犯罪の多発で野球どころではなくなってきたのだ。

メジャー球団のアカデミーが次々撤退

丘の上に低所得者の住宅が所狭しと連なる貧民街=バリオ。ベネズエラの野球選手のほとんどがバリオ出身といわれる

マリナーズのアカデミーでは、選手たちに十分な食料を確保できなくなる一方、アカデミーが銃で武装したギャング集団に襲われ金品を強奪される事件が勃発。昨年、閉鎖に追い込まれた。

11年にはベネズエラのプロ野球、ウィンターリーグに参加中の捕手W・ラモス(ナショナルズ)がギャングに身代金目的で拉致(らち)されるなど、選手、家族の誘拐も多発している。14~15年、同リーグに参加した渡辺俊介(元ロッテ)によれば、外出時は常にボディガード同伴だったという。

こうした状況を受けて、90年代後半にメジャー20球団以上が構えていた“虎の穴”ともいえるアカデミーは現在4つにまで減少。選手養成のためにベネズエラで行なわれてきたサマーリーグも今年から取りやめになった。

現在、同じ中南米のドミニカ共和国に次ぎ、2番目に多い外国人選手(16年開幕時は63人)をMLBに供給しているベネズエラだが、その行く末は決して明るくない。

前出のプリド氏は「アカデミーが閉鎖されたことで、メジャーへの入り口は確実に狭くなった。5年後くらいに、ベネズエラ野球は歴史上、最も困難な時期を迎えるかもしれない」と危惧する。

果たして、野球大国の未来はどうなるのか。この目で確かめるべく当地に飛んだ。

◆この後編は明日配信予定!

(取材・文/中島大輔 写真/龍フェルケル)

■『週刊プレイボーイ』22号(5月16日発売)「国家破綻寸前でどーなる!?野球大国ベネズエラ」より