「国に代わって都が厳しい排ガス規制を条例で定め、新たなエコカー市場を提供すべき」と語る古賀氏

舛添前都知事の辞職に伴う東京都知事選挙が、7月14日に告示される。

各党が候補者選びに躍起になる中、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、新都知事に是非とも取り組むべきと提案する政策とは――?

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政治資金の流用スキャンダルで、舛添要一東京都知事が辞職した。そこで、舛添氏に代わる新しい知事に是非、提案したい政策がある。それは都独自に世界で最も厳しい自動車排ガス規制を導入することである。

今、世界の自動車メーカーは生き残りをかけて、熾烈(しれつ)なZEV(排気ガスゼロの無公害カー)の開発競争を繰り広げている。理由はシンプル。自動車販売台数世界1位の中国(約2500万台)と2位のアメリカ(約1750万台)で、ハイレベルな排ガス規制が行なわれようとしているからだ。

例えば、アメリカではカリフォルニア州など、全米10州で新車販売台数の一定割合をEV(電気自動車)などのZEVとするよう、自動車メーカーに求める動きが進んでいる。

カリフォルニア州では18年からZEVの販売比率の目標が14%から16%に引き上げられるのだが、「ハイブリッド車」は対象外。プラグインハイブリッド車でさえ、純粋な電気自動車や燃料電池車と見なさず評価点数が低くなる。目標をクリアできなかった自動車メーカーは罰金を払うか、目標を超過達成したメーカーから「ZEV排出枠」を購入しなければならない。

米テスラ・モーターズが新型EV「モデル3」を発表すると、40万台もの予約が殺到した背景には、こうした自動車排ガス規制の強化がある。ZEVには国と州を合わせて1万ドル(約107万円)の助成金が出る。どうせ厳しい排ガス規制が実施されるなら助成があるうちにと、多くのユーザーがZEVの先行購入に動いたのだ。

日本政府がEV推奨にモタつく理由

中国でも同様の動きが起きている。大気汚染に悩むこの国は17年から欧州並みの厳しい排ガス規制が導入される。

すでに同国はZEVの普及に力を入れており、購入者に最大5万5千元(約90万円)の助成金が出ることもあって15年には世界最大のZEV大国(約19万台)になっている。

米中の排ガス規制の狙いは環境保全だけではない。規制を利用して自国メーカーのEV技術を磨き、次世代自動車戦争の覇者になろうとしているのだ。

残念なのは、日本に米中のような戦略が見えないこと。トヨタが燃料電池車「MIRAI」を開発するなど、各メーカーは徐々にEV開発へ乗り出しているが、国レベルの取り組みにはなっていない。日本政府がモタついているのは、EV推奨に舵(かじ)を切るとEVの開発資金に乏しい下位の自動車メーカーが干上がってしまう可能性があるからだ。

ならば、その先陣を東京都が切るのはどうだろうか。メガロポリスの東京には巨大な自動車需要がある。国に代わって都がカリフォルニア州や中国以上の厳しい排ガス規制を条例で定め、新たなエコカー市場を提供すればいいのだ。

そうすれば、技術力のある日本の自動車メーカーは先を争うように高性能のZEVを開発するはずだ。その先には、膨大な世界市場が広がっている。エコカーが増えれば、都心の空気もきれいになる。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)