「選挙公約を字面だけで判断するのは危険。その真意を見極めよ」と促す古賀茂明氏

7月10日の投開票に向け、各党が舌戦を繰り広げる参院選ーー。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明が、原発政策を例に各党の公約に隠された「ごまかし」を見抜く!

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7月の参院選を目前に、各党の公約が出そろった。だが、公約にはクセモノも多い。政党や候補者によってはわざとあいまいな文言を掲げたり、巧妙に逃げを打っていることもあるからだ。特に原発に関する公約でそうしたケースが目につく。

例えば、野党の候補に多い「原発ゼロ」という公約。一見すれば、いかにも原発に反対しているように見える。

ところが、この公約には肝心の“原発をゼロにする時期”が明示されていない。つまり、10年後なのか、20年後でも構わないのか、はたまた50年後なのかまったく不明なのだ。脱原発に向けて努力する姿勢さえ見せれば、有権者との公約を守っていることになる。

同じように、公明党などが掲げる「脱原発を目指す」や「原発依存度を下げる」といった公約も、具体的な廃炉の時期や再稼働の是非について語っていない時点でマユツバだと考えたほうがいい。

では、民進党の「2030年代原発ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入」という公約はどうか? 達成時期がちゃんと書かれている分、誠実なものに見える。しかも、あらゆる政策資源を投入と言われると必死さが伝わってくるような気がする。だが、この公約は究極の「官僚のレトリック(作文術)」で周到に逃げ道が用意されている。

30年代とは、30年1月1日から39年12月31日までと幅広い。ギリギリまで動かせば原発ゼロは23年後となる。これはもはや公約とは呼べない。23年後、政界がどうなっているかわからないし、そもそも約束した政治家本人が死んでいるかもしれない。

裏では原発推進派の大票田に媚(こび)を売っている?

さらによく見ると、約束しているのは原発ゼロではない。約束の対象は「あらゆる政策資源の投入」だけだ。とにかく全力で頑張っていますと言えば、原発ゼロにならなくても公約を守っていることになってしまう。

あいまいな公約をあえて持ち出す政党、候補者は「原発ゼロ」などの文言を使って脱原発を有権者にアピールする一方で、電気事業連合会や電力総連、電気メーカーの労組といった原発推進派の大票田に対しては媚(こび)を売っている可能性が高いのだ。

それに比べると、共産党などが掲げる「原発即ゼロ」「再稼働しない」という公約は信用していい。これらの表現には騙(だま)しや抜け道がない。前者は「即」の文字があるので、今すぐに原発ゼロにするということだし、後者は再稼働をしないのだから、原発ゼロと同じ意味だ。共産党の公約では、「川内原発も止める」と徹底している。逆に言えば民進党などは川内原発をこのまま動かすということだ。

ちなみに、自民党は今回の参院選でも「原子力規制委員会が安全と判断した原発を、国が責任を持って再稼働する」と原発推進の立場を明確にしている。

今回は原発政策に絞り、例を挙げたが、他の公約に関しても嘘やごまかしが潜んでいるはず。選挙公約を字面(づら)だけで判断するのは危険である。その真意はなんなのか、候補者の過去の言動や演説、ホームページなどでじっくり見極めてほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)