英紙『ガーディアン』の日本特派員を務めるジャスティン・マッカリー氏(撮影/長尾 迪)

イギリスのEU離脱に世界中が衝撃を受けているが、まだまだこんなもんじゃない。今、世界各地で「昔のほうがよかった」と感じている人々の心を、未来を語るふりをしながらわしづかみにする、言葉巧みなリーダーたちが人気なのだ。

異例の国民投票に踏み切ったイギリスがそうだ。事前の予想では残留派の勝利が濃厚とみられていたのに、まさかの離脱決定となった。

はっきりしている要因は、高齢者ほどEU離脱を支持したという事実だ。世論調査会社YouGovの調査によれば、18歳から24歳の若者は7割以上がEU残留に票を投じたが、年代が上がるほどその割合は減少。50歳から64歳は55%以上、そして65歳以上に至っては60%を超える人々が離脱に投票している(しかも高齢化で若者は絶対数が少ない)。

こうした高齢者たちの胸の内にあるのは、「昔はよかった」という(若者にとっては迷惑この上ない)懐古主義だという。英紙『ガーディアン』の日本特派員を務めるジャスティン・マッカリー氏はこう語る。

「EU離脱の背景には増え続ける移民への不満があるといわれますが、それはあくまでも表面的な話。離脱派の根本には、経済政策、社会福祉政策、賃金などに対する不満があり、彼らはそれを『昔はよかった』という気持ちにすり替えているわけです」

そんな高齢者たちの心を利用して煽(あお)りまくったのが離脱派の政治家たちだ。

「ボリス・ジョンソン元ロンドン市長、ナイジェル・ファラージ英国独立党党首、ダンカン・スミス元保守党党首らは、『独立を取り戻す』『イギリスの誇り』といったシンプルなメッセージを多用。移民やEUの官僚を“仮想敵”に仕立て上げ、一般庶民の敵意を膨らませていきました。

特にジョンソンは元ジャーナリストで世間の認知度も高く、言葉の巧みさ、演説のうまさ、一種のカリスマ性でEU離脱キャンペーンの主役として活躍。日本でいえば石原慎太郎元東京都知事に近いかもしれません」

「よかった」というのはいつの時代?

では、離脱派が「よかった」というのはいつの時代? チャーチル首相の頃?

「それがよくわからないんです(苦笑)。首相でいえば、よくいわれるのがヒース(1970~74年)とかキャラハン(1976~79年)とかサッチャー(1979~90年)の頃? でも、どの時代も多くの問題を抱えていた。結局のところ、今の現実から目を背けたいという人々の気持ちを、離脱派の政治家が巧みに利用したということなんでしょう」

しかも、こうした傾向は世界中に広がっている。アメリカでも中国でも、そして日本でも、「昔はよかった」という懐古主義に浸る人々が増え、そこに言葉巧みにつけ入る政治家たちが後を絶たないのだ。

イギリスの離脱派から、すでに「とんでもないことをしてしまった」という後悔の声が出ているように、一部のリーダーに振り回されると、最悪の結末が待っているかもしれない。

発売中の『週刊プレイボーイ』29号では、世界で同時多発する「昔はよかった」現象の実態を紹介。イギリスの決定を対岸の火事と笑えない現状を掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。

■週刊プレイボーイ29号(7月4日発売)「世界同時多発『昔はよかったね』現象がヤバすぎる!!」