“21世紀の魔法使い”落合陽一氏の新連載が『週刊プレイボーイ』本誌にてスタート!

かつて、発明王エジソンは“魔法使い”と呼ばれた。フィラメント電球をつくって写真を「映画」に進化させ、蓄音機をつくって音楽をどこでも聴けるようにした彼は、アートをつくる枠組みそのものを発明したからだ。それはやがて社会に浸透し、実装され、魔法から「当たり前のもの」になった。

そして、現代。“21世紀の魔法使い”と呼ばれるのが、筑波大学でデジタルネイチャー研究室を主宰す落合陽一助教だ。落合氏は音でモノを空中浮遊させ、シャボン玉に映像を映し、プラズマを使って妖精を空中に飛ばす。

エネルギーと五感の相互作用に着目したエジソンの時代とは異なり、コンピューターの制御による「物理場」を変えて新たな表現方法を生み出すメディアアーティスト。そして、コンピューターと人間が共生する「デジタルネイチャー時代」を先取りする“予言者”でもある。

そんな21世紀の魔法使いが、人類の未来を熱く語る月イチ連載が『週刊プレイボーイ』29号(7月4日発売)からスタート! 第1回は「人工知能(AI)」がテーマだ。果たして、AIは人類の敵なのか、それとも味方なのか?

* * *

―いきなりですが、イギリスのEU離脱が国民投票で決まっちゃいました。

落合 大波乱ですよ! これはちょっとヤバい。アメリカのトランプ現象もそうだけど、世界の変化に対応できないおじさんたちが「昔はよかった」と言いだすのは危険。よくないに決まってますよ。一番ヤバいと思うのは、EUから離脱すると、一部のお金持ちはもっとお金持ちになり、貧困層はもっと貧困になる。

―投票した人たちは、それがわかっていなかった?

落合 たぶんわかってないでしょう。福祉充実を狙ってのことだと思うんですが、うまくいくかなあ…。世界中がけっこう痛い目を見ると思いますよ。そろそろみんな、AIのほうがまともな判断するってことに気づくかも。

―選挙前にAIが投票したらどんな結果になるかやってみて、それを参考にしながら人間も投票するとか?

落合 AIに選挙結果ごとの未来予測をA、B、Cと3パターンくらいやってみてほしいですね。人間の未来予測は利害関係で偏(かたよ)るから。囲碁や将棋のように完全情報ゲームに近くなるといいんですが。

―でも最近、AIは人間から仕事を奪うとか、人類を滅ぼすとかいう話もありますよね。今回はそのあたりをテーマにしたいんですが、今、シリコンバレーではAI研究は盛り上がっていますか?

落合 ここ数年はAI関連企業にお金が降り注いでいますね。まさにAIバブル

―バブルってことは、実態が伴っていない部分もある?

落合 AIの研究手法自体はここ20年間、あまり変わってないですからね。大きな変化は、ディープラーニングっていう多層式の機械学習手法でしょうか。幸いなことにSNSなどの普及でデータは非常に増えたので、特定パターンの認識問題にはすごく正確な答えを出せるけど、「問題を設定する」ことはまだできないんです。例えば、ゴルフのゲーム上で接待ゴルフはできない。

AIに接待ゴルフはできない?

―取引先の社長を気持ちよくすることはできない。空気読めないってこと?

落合 「必ず負けろ」ならできる。あと、「こういう行動が空気読めるってことだよ」とか、盛り上がるパラメーターみたいなのを人間があらかじめ入れておけばできるかもしれないですけど(笑)。つまり、今は人間との相互作用で解くべき問題を決定している。

―そこがAIの限界?

落合 いや、それも将来的にはできるようになる。あらゆる問題に対して、自分で問いを設定できる人工知能をAGI(アーティフィシャル・ジェネラル・インテリジェンス=汎用人工知能)というんですけど。

―AIの究極の進化形がAGI。それはもうすぐできるんですか? 2年後とか?

落合 2年後にはできないけど、みんな本気でやろうとしてますよ。その研究が一番進んでいるのがアメリカ。あと、中国も強くなるかもしれない。莫大(ばくだい)な資金と、機械学習の基になる数億人レベルのユーザーデータ…それも、毎日まめにデータを入れてくれるユーザーがいないと人工知能開発はできないですから。ただ、AGIとなるとまだまだ根本的なイノベーションが必要だとは思います。

―なるほど。じゃあ、資金は何に使うんですか?

落合 人間。頭のいい研究者を買うためのお金です。

―だとすると、日本が生き残るために、そういう頭のいい人間を大量に生み出すにはどうしたらいいですか?

落合 来週までに本100冊読んでこいとか、メチャクチャしごく(笑)。人間もディープラーニングなので、データが多ければ多いほど優秀になりますよ。たぶん20代、遅くとも35歳くらいまでに勝負は決まると思います。

■この続きは、『週刊プレイボーイ』29号の「落合陽一の人生が変わる魔法使いの未来学」にて! 人工知能が進化すると、肉体労働者の給料が爆上げになるってホント?

●落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ、東京都出身。メディアアーティスト、筑波大学助教。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学で学際情報学の博士号を取得。デジタルネイチャーと呼ぶ将来ビジョンに向けて研究・表現活動を行なう。著書に『魔法の世紀』(Planet)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)がある

(取材・構成/小峯隆生 撮影/本田雄士)