佐村河内守氏に密着したドキュメンタリー映画『FAKE』が話題の森達也氏 佐村河内守氏に密着したドキュメンタリー映画『FAKE』が話題の森達也氏

初の「18歳選挙」となる7月10日の参議院議員選挙ーー。

本誌アンケート調査によれば、「18、19歳の63.5%が投票に行く」と回答しているが、政治への接し方がまだよくわからないという新有権者も多いはず。そこで、各界で活躍する"先輩"、映画監督の森達也もりたつや)氏から「選挙のたしなみ方」を伝授してもらおう!

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選挙に行くことは、この国のグランドデザインを考えること。それを考えられない人は棄権していい。将来を考えると、「へたに投票しないでくれ」とも思います。

今は同調圧力がとても強い時代で、特に若者は多数派に流れる傾向がある。無自覚な同調圧力が蔓延(まんえん)しています。そばにいる数人が「自民党支持」と言ったら、自分も自民党支持になる傾向が強い。多数派はより多数派に、少数派はより少数派になってしまう。

最近、僕が教えている明治大学の学生20人ほどに支持政党を聞いたら、9割ぐらいが自民党支持だった。ところが憲法改正について聞くと、半分以上の学生が「憲法はこのままでいい」と答えました。

言うまでもないことですが、自民党の党是は「自主憲法制定」です。皆さんは自民党の憲法改正草案を読んだことがありますか。

僕自身はきちんとした議論があれば、9条以外の改正は認めてもいいという立場でした。しかし、自民党の憲法改正草案を読んで、一字一句変えるべきではないと思いました。これは改正ではない。保守の自己陶酔の作文です。

僕が学生たちに「君たちは自民党支持なのに、半分以上が憲法はこのままでいいという。このねじれはどういうことか」と聞いたら、彼らはわかっていなかった。予想以上に何も知らない。「憲法を守りたい」と「自民党支持」がなんとなくイコールになってしまっているレベルなら投票しないほうがいい

政治家には「他国と戦争しないこと」を求める

僕の世代の頃は結構みんなひねくれていた。しかし、今は本当にひねくれ者がいません。告白するけれど、僕が初めて選挙に行ったのは28歳の頃です。意識がとても低かった。そんな僕にここまで言われて悔しかったら、政治のことをもっと勉強しろと言いたい。新聞を読むだけでもいい。街に出ていろんな人と話をするだけでもいい。せめて生活の中の5%ぐらいは政治に興味を持って暮らしたほうが自分のためになるはずです。

僕は政治家には「他国と戦争しないこと」を求めます。今は選挙になると、保守を名乗る人たちからも「この国を変える」という売り言葉が聞こえてくる。本来の保守とは、変えないこと。時流に乗って「変える」と叫ぶ人は信用できません。僕自身は、今回の選挙は「変えないための選挙」だと思っています。僕が選挙に行かないと変わってしまうかもしれない。だから、僕は選挙に行きます。

候補者がたくさんいる中で、僕は安全保障や憲法改正に対する態度を重視します。この選択を間違えたら国が滅んでしまう。そんなときに、誰もが喜びそうな経済の話をする人は信用できません。こんなときこそ、あえて安全保障についてしっかりと意見を述べている人を選びたいんです

中国と北朝鮮、沖縄の基地問題をどうするのか。今、日本と中国との関係は決して平和的とは言えませんが、冷戦期の世界はもっと危うかった。いつ何時、飛び火してくるかというときにも日本は憲法を守ってきました。

危険を煽(あお)るのは政治家の常。しかし、科学的に計測しても、今は冷戦期ほど危機的ではありません。この程度で「未曽有(みぞう)の危機」と言う政治家にはだまされないでほしい。

これは世界的な傾向ですが、社会的不安が募ると、人間は集団としてのアイデンティティ、国柄、強いリーダーを求めだします。しかも自衛意識が高揚する。僕は「集団化」と呼んでいますが、ほとんどの戦争や虐殺は、このメカニズムで起こります。人類は何度も同じ過ちを繰り返すんです。

政治が変わるだけで生活も変わる

今、日本の政治は一部の特権階級の独占物になっている。新規参入を促すために、有権者が政治に対する概念を根本的に変えるべきです。

多くの人は「政治は国会議員がやるもの」と思っている。確かに間違いではありませんが、それは表面の一部にすぎません。この世に存在するものは、すべて政治的な要因が絡んだ上で形づくられている。だから政治が変わるだけで生活もゴロッと変わります。

民主主義の基本は主権在民。つまり、僕たちが国の最高法規、最高権力者なんです。僕たちは忙しいから、政治家に「やっておいてね」とお願いしているだけ。有権者はもっと高飛車になっていいんです。そもそも議員を「先生」と呼ぶのがよくない。議員でいい。彼らは小間使いで、偉くもなんともないんですから

学校でも、クラス委員になるのは目立ちたがり屋で自己顕示欲が強くて先生のウケがいい人間でした。「あいつにやらしとけよ」っていうものだったでしょ? その延長だと思えばいいんですよ。

アメリカ大統領選では、民主党の予備選挙でバーニー・サンダースが大善戦した。彼はアメリカの国是とは逆のことを言う民主社会主義者で、最初はまったくの泡沫候補でした。それが台風の目になったのは、若い世代が支持し、応援してきたから。

アメリカは同調圧力がなく、若い世代が政治に関心を持っている。日本の若い人にも、そういう意識を持つなら、ぜひ投票してくれと思います

◆『週刊プレイボーイ』28号(6月27日発売)「18、19歳 新有権者へのメッセージ」ではさらに政治学者・森川友義、NPO法人「Yoth Create」代表・原田謙介、29号(7月4日発売)の第3回ではジャーナリスト・田原総一朗、橋本治ほかのメッセージも掲載。そちらもお読みください!

森達也MORI TATSUYA 1956年生まれ、広島県出身。86年、大学卒業後、テレビ番組制作会社に入社。98年にはオウム真理教の荒木浩を主人公とするドキュメンタリー映画『A』を公開。佐村河内守氏に密着したドキュメンタリー映画『FAKE』が現在公開中

(取材・文/畠山理仁 撮影/山上徳幸)