米軍基地のフェンス前から、沖縄の現状を中国に向けてレポートするフェニックステレビの李ミャオ東京支局長

6月19日、沖縄で元米海兵隊員による女性殺害事件に対する抗議、そして辺野古への米軍基地移設阻止を訴える県民集会が開かれた。

香港に拠点を置く中国唯一の民間放送局、フェニックステレビの李(リ・)ミャオ東京支局長は、こういった“沖縄の動き”“県民の声”を現地取材(17~21日)したという。

中国から見た沖縄、あるいは沖縄から見た中国はどんなものなのか? 「週プレ外国人記者クラブ」第39回は、李氏に話を聞いた――。

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-中国では、沖縄の米軍基地問題はどのように見られているのでしょう?

 沖縄県は在日米軍基地の約74%が集中するという特殊な状況に置かれていますが、こういった情報は一般の中国人にはあまり知られていません。中国人が持っている沖縄のイメージは「海がきれい」「歴史的に中国と関係が深い」といったもので、第2次世界大戦末期に多くの民間人が犠牲となった沖縄戦のことも知っている人は少ないのが現状です。

一般的中国人が高い関心を示す沖縄関連の話題は「沖縄独立論」。現地ではじわじわと確実に拡がってきています。こういった沖縄の実状をレポートして、中国人に広く知ってもらおうというのが今回の取材の動機でした。

─「沖縄独立論」に対する中国人の反応は?

 先ほども言ったように、沖縄が歴史的に中国と関係が深い土地であることを知っている中国人は少なくありません。なので、沖縄独立論に対しては、概(おおむ)ね「歓迎する」といった声が一般的です。また、沖縄独立の動きに対して、中国として「支援すべきだ」という意見もあります。

ただ独立運動に対して、現時点では中国政府が表立って何かの支援をしているということはないと思います。今回、独立論を主張する沖縄の方々も取材しましたが、彼らも「そういった話は聞いたことがない」と言っていました。

─かつての琉球王国のように沖縄が独立して親中国政権ができれば、尖閣諸島の領有権問題も自動的に解決するでしょう。1980年代に米国のCIAが中南米で反共ゲリラに加担したような策略が中国にあっても不思議はありませんが…。

 しかし、実際に沖縄に行き、現地の人たちの話を聞いてみると、現状ではそれほど「親中国」の気運は感じられませんでした。地理的にも歴史的にも、沖縄は日本本土以上に中国に近い。また、近年では沖縄の経済は米軍基地への依存度を下げ、中国圏からの観光収入が影響力を強めている。こういった状況から「沖縄の人々は本土の日本人以上に中国に対して高い好感度を持っているはず」と考えていたのですが、この予想は外れました。

「沖縄で独立に向けた動きがある」と聞いて、多くの中国人は沖縄で反日の動きが高まっていると考えているかもしれませんが、それは勘違いです。少なくとも現時点では、沖縄で米軍基地の移設に反対している人たちも、あくまでも日本人として問題を解決しようとしています。

今回、沖縄独立論に関して話を伺った方々も、全員が「中国が沖縄に関心を寄せてくれていることには感謝する。沖縄にとって独立も選択肢のひとつである。ただし、独立しても中国の傘下に入ることはない」と言っていました。

いずれにしても、世論調査の結果によれば、現時点で「沖縄は独立すべし」と明確な考えを持っている人は約8%に過ぎません。米軍基地問題を巡り、日本本土からの構造的差別がこれ以上続くなら「独立もやむなし」という人は潜在的に多く存在するかもしれませんが、現時点ではあくまでも将来的選択肢のひとつのようです。だからだと思いますが、仮に独立したとしても、その後のヴィジョンについての明確な方針はまだ現れていないように思いました。

米軍基地問題については、中国人も「かわいそう」と…

─しかし、中国人として実際に沖縄を訪れると“文化的な近さ”を感じるのではありませんか?

 それはハッキリと感じます。豚肉をたくさん食べるのも中国と同じ。沖縄で「てびち」と呼ばれる豚足料理はとても美味しくて、思わずおかわりしたほどです。また、タクシーの運転手さんも私が中国人だと知ると、沖縄と中国の歴史についてたくさん話を聞かせてくれて。料金を払って降りる時も、クルマのトランクを開けて歴史書を見せてくれたほどでした。

その他にも、取材で会った沖縄の方々は口を揃えて「私たちは決して中国を敵だと思っていない」と言っていました。つまり、私が沖縄に行って肌で感じた印象は「親中国」と呼んでもいいものだったのですが、世論調査の結果を見ると沖縄も東京も大差はなく、約9割の人が中国に対して良いイメージを持っていないのです。

─そういったダブルスタンダード的な現状は、やはり沖縄という土地が置かれている特殊な事情が影響しているのではないでしょうか。日本の中央メディアが実施する世論調査に対しては、東京と同じように反中の意思を表明し、実際に中国の人と接する時には「敵視などしていない」と主張する。

かつての琉球王国でも国家の存続のためにそういった外交感覚は必要不可欠だったし、国と国の狭間に立たされる状況は今も変わっていないのだと思います。外国人の目から見て、日本政府の沖縄に対する処遇に差別的なものを感じますか?

 今回の取材では、普天間・嘉手納・辺野古の基地や建設予定地の周辺に住む方々も取材しましたが、沖縄に基地があるというよりも「基地の中に沖縄がある」という印象を受けました。

普天間で話を伺った方は、先祖のお墓が基地のフェンスの内側にあって、墓参りが年1回しか許可されないと言っていました。嘉手納で、ある家庭にお邪魔した時は50メートルしか離れていない基地内で米空軍の哨戒機が一日中充電していました。その間、機体からは凄まじい騒音が響きっぱなしで、家の中にいても80デシベルを超えるほど。その中で3人の子供が勉強していました。

「沖縄の人たちは日本政府から差別的な扱いを受けているか?」と訊かれれば、基地周辺の過酷な現状を取材した立場からいえば「そう思う」と答える他ないと思います。また、外国人である私がこう言うと沖縄の人々は不快に思うかもしれませんが、彼らが日本政府から受けている差別的待遇については「同情を禁じえない」というのが正直な気持ちです。

今回の取材内容を放送やブログなどで発信したところ、一般的な中国人からも「かわいそう」といった反応が返ってきました。

─沖縄の実状を中国に伝えるためには、そもそも「なぜ日本の一部である沖縄県に外国の軍隊である米軍が駐留しているのか」という問題、つまり日米安保条約の存在について説明する必要があるのではないですか? 特に、伝統的に他国と軍事同盟を結んだことのない中国からすれば、沖縄に米軍がいることは不可思議な状況だと思います。

 日米安保条約について詳しく知っている中国人は少ないと思いますが、米国の「世界の警察官」としての役割は広く知られています。ただ、それを理解していても「沖縄に米海兵隊を置くことは、中国に対する抑止力になる」という日本政府の見解には首を傾げざるを得ません。

私が知っている範囲では、米国側は必ずしも沖縄に海兵隊を置く必要性を認めていません。また、日本国内の識者にも海兵隊を乗せる艦船は長崎県佐世保から来るのだから、沖縄に海兵隊がいる必然性はないと言っている人がいます。

では一体、誰が「沖縄の米軍基地」を望んでいるのか? この疑問は今回の取材を通じて、さらに深まりました。

●李(リ・)ミャオ中国吉林省出身。1997年に来日し、慶應大学大学院に入学。故小島朋之教授のもとで国際関係論を学ぶ。2007年にフェニックステレビの東京支局を立ち上げ支局長に就任。日本の情報、特に外交・安全保障の問題を中心に精力的な報道を続ける

(取材・文/田中茂朗)