暴走する中国海軍と海自との間で衝突がいずれ起こるのでは…と憂慮する佐藤優氏(左)と鈴木宗男氏

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」(『週刊プレイボーイ』本誌で連載)

6月、中国の軍艦が日本の領海に侵入した。しかしその背景に、中国外交部と海軍との軋轢が? 中国海軍の暴走は今後不測の事態を招きかねない!

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鈴木 今日は佐藤さんに、先日起きた中国海軍の軍艦が日本の領海と接続水域を航行した件を分析していただきたいと思います。

佐藤 まず、6月8日午後9時50分にロシア艦隊3隻が尖閣諸島の大正島と久場島(くばじま)の接続水域を航行しました。この艦隊を追尾するように6月9日午前0時50分に中国海軍フリゲート艦1隻が警笛を鳴らしながら進入し、その後を海上自衛隊の護衛艦せとぎりが追尾。ロシア艦隊は午前3時5分、中国海軍の艦艇は同午前3時10分に接続水域から出ました。

また、6月15日午前3時30分には中国海軍の情報収集艦がインド海軍の艦艇を追尾しながら、鹿児島県口永良部島(くちのえらぶじま)沖の領海を航行。この中国艦は、6月16日午後3時5分に今度は沖縄県北大東島の北で接続水域に入り、1時間後に出ました。

でも、これら艦艇の日本の領海と接続水域の航行は海の国際法上、違法行為ではありません。これに関する基本的情報を細かくなりますが整理してお話しします。

まず、一年で一番潮が高くなった満潮時の海岸線を「基線」といいます。その基線から12カイリ(1カイリ=1・852km)が領海で、その上空が領空で、そしてもちろん陸地は領土です。ここに例えば北朝鮮工作員が上陸したら、すぐに捕まえて構わないし、もし武器を使用して攻撃してきた場合、射殺して構わない。

領空の場合は、軍用機や不審機は軍用機と見なし、侵犯した場合、撃墜していい。民間機ならば、こちらの戦闘機が威嚇射撃をして空港に強制着陸させます。

ところが、海は規則が違う。海ではすべての国の軍艦と民間船舶が領海の「無害通航権」を有しています。「無害」とは「領海内で漁業をしない」「鉱物資源の調査、採取をしない」「ゴミを捨てない」ということ。「通航」とは「止まらない」という意味です。いかりを下ろすと停泊になり、通航ではなくなります。

中国大使館も「何を挑発しているんだ!」

だから、例えば千葉県の犬吠埼(いぬぼうさき)の沖12カイリ内を北朝鮮海軍が航行しても国際法違反ではない。軍艦で唯一の例外は潜水艦。潜水艦は浮上して、所属する国の国旗を掲揚して航行する義務があります。軍艦を含むすべての船が領海を航行するときは、相手国の国旗を立てるのが国際儀礼です。

その領海の外側12カイリを「接続水域」といいます。ここを外国船が航海していて、怪しい情報や雰囲気があったら、「ちょっと止まれ、船内を見せろ」という「臨検」ができます。それで船内から麻薬が出たり、人身売買の女性が乗っていたりしたら、その船を「拿捕(だほ)」できます。

また、基線から200カイリは排他的経済水域と呼ばれ、その海域の生物資源、鉱物資源はすべて沿岸国のもの。海のルールはこのように分かれています。

しかし、文明国の軍艦は普通は他国の領海には入りません。理由は下品だから。ネグリジェやパジャマ姿で電車には乗らないでしょ? それと同じです。

ところが今回、中国海軍はその下品なことをやりました。国際法には「相互主義」というのがあり、これは同じ範囲のことをやり返すという意味です。例えば、口永良部島の領海内に中国軍艦が1時間半入ったから、今度は日本の海自が青島沖に1時間半入る。そういうことができるわけ。でも、今回、日本はそれをやっていません。

これは、日本が弱虫だからではなく、政府のレベルの高さの表れです。

6月9日の中国海軍の尖閣諸島接続水域への進入に対して、外務省の齋木昭隆次官(当時)は深夜2時に程永華(ていえいか)・中国大使を呼び出しました。

ここで、中国大使館が深夜の呼び出しに応じたことが重要です。深夜の呼び出しは、「絶対に看過できない強い抗議の意思」を表していますが、それでも駐在する国の外務省から呼ばれたからといって、大使がすぐに出向かなければならないという決まりは国際法にはありません。

しかし今回は、中国の大使が夜中の2時にすっ飛んできた。これは中国海軍がやったことに対して「けしからん! 何を挑発しているんだ!」と、中国外交部が思っているということ。だから、この件に関しては、外交部ではなく、中国海軍のスポークスマンが記者会見を行なっています。

これを見ても今、中国政府は混乱しています。外交というのは、外交部で一元化されているのが建前で、このようなことはまともな国家ではあってはならない。大使が深夜の呼び出しに応じたのは、こういうことで両国関係を緊張させるべきではないと中国外交部が考えている表れということです。

中国海軍が「下品な行動」を起こす理由

鈴木 なぜ、中国海軍はこんな行動を始めたのでしょうか?

佐藤 伊勢志摩サミットの首脳宣言に「東シナ海・南シナ海の状況を懸念し、国際法に基づいて主張を行ない、力や威圧を用いず、紛争解決には平和的手段を追求すべき」との文言が入りました。

ほかにも、中国の造った南シナ海の人工島周辺に米海軍イージス艦が来たり、アメリカが国際社会で中国を厳しく非難している。これは後ろで日本が糸を引いている、日本がケンカを売ってきていると、中国海軍は思ってるんです。日本にはそんな意識は全然ないですけどね。

週プレ それにしても、外交部の意思とかけ離れた「下品な行動」を実際に起こす理由がよくわかりません。

佐藤 中国海軍は19世紀に日清戦争で大日本帝国海軍に叩きのめされて負けて以来、本格的な海戦をしてない。戦争をしたことがない軍隊は勇ましいし、ものすごく危険です。

だから、今回の件を中国外交部も中国陸軍も迷惑千万と思っている。日本の海自は米第7艦隊の一部だから、日本の海自と中国海軍がコトを構えるのは米海軍と一戦交えるということ。その場合、勝敗はハッキリしている。まあ、日中、米中大戦争にはならないでしょうが、一度はどこかで衝突が起こるかもしれませんね。

『週刊プレイボーイ』29号の「鈴木宗男×佐藤優 東京大地塾レポート第20回」では、さらに沖縄の6・19県民大会で佐藤氏が実感した“沖縄の日本離れにも言及!

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は7月28日(木)予定。詳しくは新党大地のホームページへ

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)