昨年11月にアジア予選を突破し、リオ五輪出場権を獲得。反響の大きさを感じているという中村(左)と桑井

昨年、空前のブームを巻き起こしたラグビー。

だが、ラグビーをやっているのは男だけじゃない! リオデジャネイロ五輪から正式種目に採用された7人制ラグビーの女子日本代表、通称“サクラセブンズ”

主将の中村知春(ちはる)と、チーム最長身(171cm)の桑井亜乃(くわい・あの)、ふたりのキーマンを直撃した!

* * *

―ラグビー= 男のスポーツというイメージですが、おふたりはなぜラグビーを始めたのですか?

中村 興味本位です。私はそれまで12年間バスケットをやっていたんですけど、相手の体に触るとすぐにファウルをとられて、計5回で退場になる。それで、もう少し激しいスポーツをやりたいなと思って、ネットで探して出てきたのがラグビーでした。ラグビーは“なんでもあり”ですからね。それがすごく楽しくてハマってしまいました。

―でも、中村さんは広告代理店の社員として仕事もしていたんですよね。どうだったんですか、周囲の反応は?

中村 6年前くらいのことなんですけど、当時は女子ラグビーの存在なんて誰も知らなかったです。恥ずかしさもあって、最初は周りにも黙っていました。その後、割とすぐ日本代表に入れたんですけど、当時は代表といっても「マイナー競技だから、誰でも代表になれるんじゃないの」みたいな空気もあって、自分から「女子ラグビーの日本代表なんです」って言ったことは一度もないです。堂々と言えるようになったのはここ2、3年のことですね。

―桑井さんは学生時代、陸上競技の投てき種目で全国大会も経験されたそうですね。

桑井 私はとにかく五輪に出たいって思いが昔から強かったんです。でも、現実的に陸上では難しくて…。そんなときにラグビーが五輪の正式種目になったという話を聞いたんです。その頃の女子ラグビーはまだこれから強化を始めるという時期だったので、五輪に出られる可能性があるなら、チャンスに賭けてみようと思ったんです。

―実際にラグビーを始めてみて、苦労したこと、驚いたことはありますか?

中村 五輪種目になったといっても、ラグビーで食べていけるわけじゃないので、仕事との両立には苦労しましたね。当時は週末の合宿のほか、水曜日の夜に練習していたんですけど、月から金は仕事です。金曜の仕事の後、そのまま(合宿地である埼玉の)熊谷に行き、また月曜に仕事に戻ってという感じで息をつくヒマもなかったというか。今は会社の理解もあって休職させてもらっていますけど、昔は「趣味でやってるんでしょ。日本代表? でも、仕事はちゃんとやってね」みたいな感じでしたから。

「よく骨折しますけど、大したことはない(笑)」

桑井 私の場合は、陸上競技の投てき種目をやっていたんで体力にはある程度の自信があったんですけど、ラグビーに必要なゲームフィットネスがなくて、最初は「ラグビーってこんなにキツイんだ」って泣いてました(笑)。

―桑井さんはFWというポジション柄、ケガも多そうですが…。

桑井 顔面を切ったり、骨折はよくしましたけど、まあ、ケガっていうケガは少ないほうだと思います。

―いやいや、十分多いじゃないですか!(笑)

桑井 大したことでないですよ。でも、苦労というか、犠牲にしているものは多いですね。それまでは基本、誘いは断らないタイプだったんですけど、最近は年間200日以上が合宿なので、友達の結婚式とかも断らざるをえなくて…。これだけ合宿が続くと、友達とも休みのタイミングは合いませんから。

中村 確かに、友達は減る(笑)。ラグビー以外の時間が必然的になくなるので。最近は私服を着るのも、月イチくらいじゃない?

桑井 うん。遠征から帰ってきた次の日くらい。あとはジャージ姿で近所をプラプラする程度(笑)。

中村 女子力を磨くどころじゃないんです(笑)。男子の場合はラグビーをやっているということは(異性ウケという点で)アドバンテージに働くんですけど、私たちにとってはハンデでしかない(笑)。

桑井 まあ、男性ウケはしないよね(笑)。

―では、逆にラグビーに感じた魅力は?

中村 めちゃくちゃ痛いし、ケガも多いんですけど、それだけ体を張るので、気持ちを込めないとプレーできないところですかね。チームメイトとも信頼関係がないと一緒にできません。こんなこと言うのは恥ずかしいですけど、絆(きずな)みたいなものを感じるところがあります。好き嫌いを通り越して家族みたいな(笑)。

桑井 男子ほどではないかもしれませんが、女子ラグビーにも女子なりの激しさがあって、こんなに激しくコンタクトするスポーツって他にはないと思っています。

■明日配信予定の後編では、間もなく開幕するリオ五輪への抱負を語る!

●中村知春(なかむら・ちはる)1988年生まれ、神奈川県川崎市出身。28歳。小学校時代から12年間バスケットボールを続け、法政大4年時の2010年2月にラグビーを始める。アルカスクイーン熊谷、電通東日本所属。ポジションはBK。現在、主将を務める。身長162cm、体重64kg

●桑井亜乃(くわい・あの)1989年生まれ、北海道中川郡幕別町出身。26歳。帯広農高、中京大では陸上部(専門種目は円盤投げ)に所属。大学卒業後の2012年4月からラグビーを始める。アルカスクイーン熊谷、八木橋百貨店所属。ポジションはFW。身長171cm、体重67kg

(取材・文/栗原正夫 撮影/ヤナガワゴーッ!)