モーリー氏が語る「愚民政治」とは?

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがEU離脱を受け、イギリスで活発に議論される「愚民政治」について語る。

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イギリスの国民投票によるEU離脱の決定を受けて、「愚民政治」に関する議論が活発化しています。過激な言葉になりますが、はっきり言ってしまえば、“愚民”に正しい判断ができるのか、という話です。

“愚民”をもう少しきちんと説明すると「衝動的に、あまり深く考えず重要な決定をしてしまう人々」ということになるでしょう。そのなかには、教育機会に恵まれなかった低収入の人もいれば、インテリで収入も高いけれど扇動に乗ってしまいやすい人もいる。学歴や収入、階層を問わず、人は“愚民”になるのです。

民主主義においては、強めで派手な意見を主張する人が大きな支持を得ることは往々にしてあります。“愚民”はわかりやすいフレーズを叫んで留飲を下げてくれるポピュリストを選ぶ。ポピュリストは複雑なはずの巨大な政策課題について、ウソも織り交ぜながら二者択一(戦争に賛成か反対か、原発に賛成か反対か、移民に賛成か反対か)を迫り、広告代理店のような手法で巧妙なプロパガンダを展開していく――。

こうしたフレームワークが横行すると、すぐに結論に飛びつこうとしない“賢者”たる政治家は非常にやりづらい。ひとたびリングができてしまえば、いや応なく下世話なつかみ合いや、怒鳴り合いのスキルが求められますから。

しかも、ポピュリストは先のことを考えていない。イギリスの国民投票後、EU離脱派のリーダーだったボリス・ジョンソン前ロンドン市長は次期保守党首選への不出馬を表明し、ナイジェル・ファラージ英独立党党首も辞任…と、“やり逃げ”のような結末となりました。米大統領候補のドナルド・トランプにしてもそうですが、彼らは長いスパンの未来ではなく、「破壊」や「解体」をゴールに設定しているのです

若者も“愚民”となりえる?

彼らの台頭をテレビなどの“マスゴミ”が後押ししている、との批判も定番ですが、ネットだけ使っている若者も容易に“愚民”となりえます。米大統領選において、多くの若者やインテリがバーニー・サンダースに熱狂した結果、対抗馬のヒラリー・クリントンへの個人的な誹謗(ひぼう)中傷が常態化したのも、ある意味で“愚民化”といえるでしょう。

僕はふと、ネットを駆使した政治活動で人々を先導し、「ジャスミン革命」に貢献したチュニジアの活動家スリム・アマモウ氏を思い出しました。革命の翌年、僕は来日したアマモウ氏にインタビューしたのですが、彼は「ネットを使った直接民主制ですべてを決定する」というユートピアを描いていました。

しかし、革命後のチュニジアではしばしばテロが起き、重要な収入源だった観光客も減少。もちろんこれで「革命は失敗だった」というのは早計ですが、彼の胸には今、どんな思いが去来しているでしょうか。

イギリスやアメリカで“愚民政治”が猛威を振るう現状を受け、今後は各国のポピュリストたちが「国民投票」というカードを切り札のように使うかもしれない。また、それに対抗すべく「賢者による選民政治」という過激な主張が噴出してくる可能性もある。とはいえ、民主主義に代わる理想のシステムがあるとも思えず、結局はひとりひとりが“愚民”から脱する努力をすることでしか社会は前に進めないのでしょう。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。レギュラーは『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『Morley Robertson Show』(block.fm)、『所さん! 大変ですよ』(NHK総合)など