バッティングマシンの最先端は、福岡県・共和技研製のエアー式マシン。球種は7種、球速は時速300kmまで出すことが可能だ。現在、全国約20のバッティングセンターで導入されている

1965年12月28日、JR錦糸町駅(東京・墨田区)から程近いビルの屋上に「楽天地バッティングセンター」がオープンした。4年後に閉鎖されたが、これが日本初の“バッセン”とされている。

その後、60年代後半から70年代にかけ、都市部の駅前や地方のロードサイドで建設ラッシュに沸いた。当時のバッティングマシンの主流はアーム型。モーターの力でアームをゆっくりと回転させながらバネを引き伸ばし、その反動を利用して球を放つ。

バッセン向けにピッチングマシンの製造・販売を行なうニッシンエスピーエムの担当者がこう話す。

「アーム型マシンのメリットはタイミングが取りやすい点。“荒れ球”が少なくなかった初期のマシンと比べると、最近のマシンは常に同じ位置で球を拾い、同じ状態で球を投げる投球性能が飛躍的に向上し、コントロールのブレが少なくなっています」

だが、デメリットもなくはない。

「アーム型マシンはストレートしか投げられません。カーブやフォークなどを交えた実戦的なプレイを求める野球経験者の中には、物足りないと感じる人もいました」

そこで、90年代前半に誕生したのがローター式マシンだ。左右ふたつのローターが高速回転する動力を使って様々な球種を放てるようになった。

「ふたつのローターの回転速度を変えることでカーブやシュート、フォークが投げ分けられます。ボールがセットされた瞬間に飛んでくるローター式マシンはタイミングが取りづらいため、現役プロ野球選手らの投球フォームを液晶画面に映し出す映像システムも同時期に開発。さらに日光に照らされると映像が見えづらくなるので、ドーム式などの屋内型バッティングセンターが全国に設置されるようになりました」

アーム式マシンを設置する屋外型のバッセンと、ローター式マシンを設置する屋内型のバッセン。90年代以降はこの二極化が進み、今に至る。

「一打席当たりの初期費用はアーム式が150~160万円、ローター式は300~400万円。大きくは、個人オーナーが多い地方では低コストで済む昔ながらのアーム式、資本力のあるアミューズメント企業などが開発を進める都市部では流行りのローター式という区分けになっているのが現状です」

だが、2000年代になって閉鎖する店が続出。バッセン業界は低迷期に入っているのが実情だ。

業界の常識を覆したエアー式マシンとは?

『バッティングセンター・テニス練習場』という括(くく)りにはなるが、総務省統計局が5年ごとに実施している統計調査によると、その事業所数は01年の810から06年には746、直近の2014年では541ヵ所まで急減している。

「少子化、野球人気の低迷、レジャーの多様化を背景に商売として稼ぎづらくなったこと。さらに、30年以上営業を続けている施設も多く、オーナーの高齢化とマシンの老朽化という問題も重なって店をたたむケースが増えています」(前出・ニッシンエスピーエム担当者)

70年代から80年代のブーム期を経て、ひと時代を終えたバッセン業界。このまま施設数が減っていくと、『打ちたい!』と思っても車を1、2時間走らせなきゃ店にたどり着けない“バッセン難民”が日本中で続出するかもしれない…。

だが、苦境に陥ったこの業界の“救世主”と目されるニューマシンがすでに誕生しているという。圧縮空気という、全く新しい方式で球を放出するエアー式ピッチングマシンだ。

開発したのは福岡県大野城市にある共和技研。「ウチは従業員数6人の町工場。工場のバルブ開閉装置という本業で培った圧縮空気を操る技術を応用し、エアー式マシン『トップガン』を開発しました」と、同社の田中完二社長は話す。

小さな町工場で誕生したこのマシン、見た目はまるでバズーカ砲だ。マシン内部で強烈な圧縮空気を吹き付けられたボールはシュポーン!という音とともに撃ち出され、かすかな“煙”を発射口付近に残してホームベース目がけて真っ直ぐに突き進んでくる。

球種も豊富で「ボールの回転数はツマミひとつで1秒間に0~40回転まで設定が可能」(田中社長)。カーブやスライダー、チェンジアップ、フォーク、SFF、パーム、ナックルまで!ダルビッシュも顔負けの7色の変化球を操る。球速80~170キロの間で5キロごとにきめ細かな調節が可能で、制限を解除すれば、球速は300キロまで出せるのだという。

業界を救うバッセン革命はこうして起きる!

正確な投球もエアー式マシンの優れた点だ。アーム式マシンはバネの緩みによって、ローター式もボールの挟み具合によって球が乱れることがある。コントロールの不安定さは旧式マシンの泣き所でもあったが、エアー式の場合は一定の空気圧でボールを正確に打ち出すから、常に狙ったところへ正確な投球が可能だとか。

加えて、アームをバンッと振り落としたり、ふたつのローターをギュリーンと回転させたりと、マシンに高付加が掛かる高速可動部分がないから耐久性も高く、使い込むことによるコントロールのブレも少ない。

その性能の高さから高校野球やプロ野球チーム、さらには意外なところからも注目され、こんな依頼が舞い込んだというが…。

「消防署から高層ビルなどの火災の際に火元に消火弾を撃ちこめないかと。狙ったところに撃ち込むことは可能ですが、燃えさかる炎はそう簡単には消せません。そこで現在、検討しているのが救命ロープの射出装置としての活用です。ロープを取り付けたボールを増水した川や中州に撃ち出し、人命救助に役立てる。こちらは技術的に十分可能です」(前出・田中社長)

現在、このトップガンは全国約20ヵ所のバッティングセンターに導入済み。「導入先の施設では、従来打席の2~3倍の売上げ増に貢献している」というから、客足が鈍っているバッセンからすればまさに“V字回復”の切り札となりうる。

さらに、まだ未発売ではあるが、新型の『トップガン』も開発中だ。

「現行機種は球速や球の高低しか調節できませんでしたが、新型のトップガンではボタンひとつで球種も変えられるようになりました。バッティングセンターの待合室に操作盤を設置することで、お連れの方が1球ごとに球種を選択し、バッターが次の投球を読みながら打つという、心理戦も交えた実戦的なバッティングが楽しめるようになります」

まさに“リアル野球盤”だ。遊びにも練習にも重宝できそうな新型エアーマシンはすでに開発段階を終え、早ければ今年中にもバッセンへの導入が始まるという。

主流はアーム式からローター式、そしてエアー式へ――。福岡の小さな町工場が起こした“ピッチングマシン革命”が、苦境のバッセン業界を救うかもしれない。

(取材・文/興山英雄)