偉人がファシストだったという話は少なくないと語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが「世界文化遺産」「近代建築」について語る。

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東京・上野公園の国立西洋美術館を含む、フランスの建築家ル・コルビュジエが手がけた7ヵ国・17作品が世界文化遺産に登録されることが決まりました。

ル・コルビュジエは「住宅は住むための機械」という思想の下、鉄筋コンクリートを使った建築作品を数多く発表しており、近代建築の礎を築いた20世紀の偉人として、その評価は揺るぎないものになっています。

一方、欧米のメディアが注目しているのは、「ル・コルビュジエはファシストだった」という“不都合な真実”。第2次世界大戦中のドイツ占領下のフランスにおいて、ル・コルビュジエは対独融和を推し進めたフィリップ・ペタン元帥率いるヴィシー政権に非常に協力的だったのです。ちなみにペタン元帥とは、フランス国内ではナチスへの協力者(=フランスから見れば裏切り者)としてたびたび批判される人物です。

そもそも、ル・コルビュジエの“美しい世界観”を実現するためには、個人の価値観などというものはジャマでしかありませんでした。例えば、1925年に彼が提案した都市計画は、パリの歴史的な街並みをことごとく破壊し、まったく新しいものにするもの。これは実現に至りませんでしたが、彼のビジョンは巨大で独裁的な力を借りることで、初めて成り立つものだったのです。

言い換えれば、ル・コルビュジエは自分の“仕事”を遂行するためなら、たとえナチスの側につくのもいとわなかった。ある専門家によれば、彼は約20年間にわたってファシズムに漬かり、権力者に住宅建設や都市開発の助言をするなどしながら活動していたとのことです。

偉人がファシストだったという話は決して少なくない

しかし、彼を崇拝する人たちはそうした報道を「単なるセンセーショナリズムだ」と切り捨てます。昨年、パリのポンピドゥー・センターで開催されたル・コルビュジエの特設展でも、そういった事実には一切触れられていません。おそらく“信者”たちは、彼の政治的思想や自国に対する裏切り行為が、建築家としての業績に傷をつけてしまうものだと思っているのでしょう。

ただ、ここでちょっと立ち止まって考えてみてほしい。偉大なアーティストや表現者、もっといえば多くの“感性の人”って、元来そういうものなのではないでしょうか? 例えば、オーストリアの指揮者カラヤン、ロシアの作曲家ストラヴィンスキーら、その類いの偉人がファシストだったという話は決して少なくありません。

感性の人は、どこかしら危ういところがある。そして、そういう人が今ある退屈なものではなく、「こうだったら面白いのに」という狂気、非日常を紡(つむ)ぎ出すことにこそ、人は感動する。その狂気を、“常識”というフィルターを通して眺めてみても、あまり意味はありません。

問題は、そういう人の信者やキュレーターが、「偉大な芸術家は人間的にも思想的にも素晴らしいものだ」という“錯覚”にとらわれていることでしょう。作品は素晴らしい、でも彼はファシストだ―このカオスともいえる複雑さを、そのまま受け入れればいいのに。日本にも「ミュージシャンや演劇人は当然、反体制であるべきだ」という感覚の人が少なくないようですが、“感性の人”に何を期待しているんでしょうか?

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム?あなたの時間?』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など