作新学院を優勝に導いた今井。他校にクセを見抜かれていたら結果は変わったかも?

“BIG3”に作新学院の今井を加えた“四天王”が140キロ台後半から150キロの速球を披露。この4人以外にも木更津総合・早川隆久、広島新庄・堀瑞輝、創志学園・高田萌生ら好投手が目立った今大会。「これだけの投手が集まったのは近年にない」とプロ野球のスカウト陣を喜ばせた一方で、打者の人材難にスカウトは閉口した。

とはいえ、今大会の本塁打数は37本。過去3年(13年37本、14年36本、15年32本)と変わらず、特に打者のスイング力が落ちているわけでもない。なぜ、スカウトたちが嘆くのかといえば、本塁打は出ても技術や読み、投手との駆け引きなどの部分に不満を抱いているからだ。

高性能のピッチングマシンの普及で速球には対応できる。重いバットを振ったり、筋力トレーニングをして振る力はある。だから、「1、2、3」でタイミングが合えば“出会い頭”で本塁打が出る。だが、スカウトはそういう本塁打は評価しない。結果ではなく技術や内容を見ているからだ。

今大会ではフルスイングを貫き通し、「思い切り振ったから悔いはない」と語っていたドラフト候補がいたが、自らが主導権を持つ投手とは違い、打者は相手に合わせる技術が必要。何も考えずにブンブン振っているだけの姿を見て、「あんなのは野球じゃない」と言ったスカウトもいた。

また、今春のセンバツでは秀岳館が二塁走者から打者へサインを伝達している行為で注意を受けたが、今大会も当たり前のように伝達行為を行なっているチームがあった。常連校になればなるほどやっているといってもいい。サインがわかって打つだけなら、頭を使う必要はなくなる。バットを振る力と筋力さえつければいいという発想になる。

ちなみに、作新学院の今井にはセットに入る前の動作でクセがあった。ある動作ならば、ほぼ変化球を投げるーーこれはスタンドから観ていてわかった。準決勝で対戦した明徳義塾の馬淵史郎監督は見抜いていたことを示唆したが、他チームは見破れず…。観察眼を磨いてクセを見抜き、それを打撃に生かすーーサインを盗むのではなく、こういう気づきによって生まれる駆け引きが“間のスポーツ”である野球の醍醐(だいご)味。ただ単にパワーをつけて振るだけではなく、体格や技術を補う能力を磨くことも大切だろう。

“高校野球100年”と“清宮フィーバー”に沸いた昨年同様、今大会もスタンドは連日満員になった。お盆休みとなった8月14日には開門10分後の午前6時40分に「今から甲子園に来ても入れません」とアナウンスされる満員通知が出されるなど、異常なまでの人気。

対戦カードに関わらず、チケットを買うまでに何時間も並ぶのが当たり前。小学生の子供を連れて観戦に来た知人が「入るのは諦めて記念撮影をして、おみやげだけ買って帰った」と言っていたが、もはや親が子供に「ちょっと甲子園でも行こうか」という状態ではなくなってしまった。コアなファンは増えても、気軽で身近な甲子園ではなくなっていることに不安を覚える。未来の野球少年、少女を増やすためにも親子や家族連れが優先的に買えるチケットがあってもよいのではないか。

再来年は100回大会の記念の年。近い未来のことを考えることは大事だが、それ以上に次の100年に向けてどのような取り組みをしていくのか。高野連はもちろん、野球界全体の問題として取り組む時期にきている。日本だけが持つ、独自の文化である高校野球。この先も発展していくため、ずっと続いていくために、ぜひ重鎮たちが改革へ重い腰を上げることを期待したい。

(文/田尻賢誉 撮影/岡沢克郎)