(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

謎の戦車アニメが異例のヒットを飛ばしている。

『ガールズ&パンツァー』(通称:ガルパン)は2012年から放送されたTVアニメで、学園艦と呼ばれる船の上に高校があり、女子高生がスポーツとしての”戦車道”を学校対抗で競うという学園ドラマ。戦車戦のシーンがあまりにスゴいと、従来のアニメファンに留まらない幅広いファンを獲得している。

TVシリーズの人気を受け、昨年11月に全国の映画館で公開された『ガールズ&パンツァー 劇場版』は、なんと半年以上に渡って劇場公開中で興行収入は22億円を突破。

そのヒットは映画だけに収まらず、舞台となった茨城県の大洗町は“聖地”とされ国内外から多数のファンが“巡礼”、映画に触発された普通のサラリーマンが戦車のプラモデル作りにハマり、戦車プラモが店頭から姿を消すなどの現象も起きている。

自身もかなりのミリタリーファンとして知られるバンダイビジュアルの杉山潔プロデューサーにお話を伺った前編インタビューに続き、その後編!

―例えば、フィンランドの戦車「BT-42」は、小回りも効いてカワイく見えてくるほどでしたが、実際もそんな動きをするんですか?

杉山 さすがにアニメですから、ある程度のデフォルメはしています。戦車は遅い車両だと時速20キロとか30キロほどで、リアルな速度で戦車戦を描くと退屈なんで、スピードは少し速めにしたりしています。

被弾して履帯が外れた状態で走るシーンがありますが、「BT-42」は実際に履帯(=キャタピラー)が外れても走る戦車なのは確かなんです。とはいえ、実際にはチェーンを軌起道輪と転輪に繋がなきゃいけないとか一応、段取りはあるんですね。でも、それをわざわざ時間を費やして描いても観てるほうはダレるじゃないですか。

だから誇張するところと本当にリアルに作るところはメリハリで分けていますね。リアルに作っても面白くなかったら意味がないので。本当にリアルなものが見たいなら実写映像を見ればいい話ですし、私達が作っているのはエンターテインメントなので、そこの足し引きは当然しています。

―そういう意味では、女のコたちが乗る戦車が特殊な「謎のカーボン素材」で守られているという設定で、実弾を撃ち合っても誰も死なないので安心して見られます!

杉山 「いつ死ぬんだろう」という不安感がなく観てもらえるものにしたいと思っていたので、安心して見ていただけるというのはすごく嬉しい評価ですね。最初に戦車と女のコで作品を作るとなった時に、まずスタッフ間で確認し合ったのが「人が死ぬような凄惨なものを作るのはやめましょう」ということなんです。戦車戦をリアルに描けば、血まみれで肉体がバラバラになってしまうような、そういうものなので。

私達はあくまでも女のコたちが知恵と勇気と友情で、弱小チームでどうやって強豪校と戦っていくのかという話を作りたかったので。脚本を吉田玲子さんという女性の脚本家にお願いしたのもガールズトークをイキイキと描いた上でストーリーを展開したかったからです。そもそも野球のようなスポーツ物と一緒なんです。バットとグローブとボールの代わりに戦車を使ってるだけなので、そこに人の死は必要ないんです。

バンダイビジュアルの映像プロデューサー・杉山潔氏

実弾を撃って死なないためには?

(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

―なるほど。戦車を知らない観客でも楽しめるのは、野球のルールを知らなくてもスポ根モノが楽しめる理屈と同じだったんですね。

杉山 とはいえ、戦車を使って試合をする上で人死を出さないとなると難しく、巨大なBB弾やペイント弾を撃ち合う案もなかったワケではないんです。ただ、監督としては戦車戦の緊迫感を描く上ではやはり実弾が必要で、当たれば壊れるし炎もパッと飛び散る描き方にしたいというのがあった。

じゃあ実弾を撃って死なないためにはどうしたらいいかって考えて出てきたのが「謎カーボン」という案。「謎のカーボンに包まれているので、絶対に死にません! 以上!」って、もう決めてしまおうと(笑)。

―そこはアニメの力ですね。

杉山 そうですね、フィクションですから。その部分については、戦車を知らない人だけでなく、戦車を好きな人にも「今回の設定はとても良かった」と言われるんです。私もそうなんですけど、兵器に興味がある人達って、そういうものを好きだということにどこか後ろ暗さがあるんですよ。「キミはそういう人殺しの道具が好きなのか」とずっと言われ続けてきているんです。

でも好きなモノはしょうがないので、私もそうなんですけど「それが兵器であるということから逃げない」ということで折り合いを付けている。つまり、どう使われたか、どういう物なのかをきちんと調べて知ることが自分の責任の取り方だろうと。だから、みんな真面目に戦史を勉強するし、知識を蓄えるんですけども、蓄えれば蓄えるほど、やっぱり軽々しく扱えなくなっていくわけですよ、兵器というものを(苦笑)。

―確かに、その点では『ガルパン』は実際の戦争とは全く繋がりません。

杉山 『ガルパン』を応援してくださっている山田卓司さんという有名なジオラマ作家の方は「実在の戦いの軛(くびき)から解放してくれた」と言って下さいました。ジオラマを作る上でも、日本軍の戦車だとリアルに戦争を感じさせるので作りにくかったけど、『ガルパン』のジオラマだったら「これは人が死なないんだ」っていう前提があればこそ、なんの心配もなく作れると。

「人が死なない戦車戦」だから、存分にエンターテインメントとして楽しんでも後ろ暗さがないというところが、戦車好きの人達からも支持してもらえた理由のひとつとしてあるみたいですね。

―そんな様々な思いを込めた作品が実際にロングランを記録し、映画版の興行収入は22億8千万円を突破したとか。これは「異例のヒット」と呼んでいいのでしょうか?

杉山 はい、全くの異例だと思います。目標はそんな大それたところにはなく、11月21日に公開して「年末を越えてお正月までどこかでやっていてくれると嬉しいね」ぐらいでいたので、ロングランになる予想は全くしていませんでしたし、興行収入についても予想を遥かに超える成績です。本当にありがたいけど、何が起こっているのかよくわからないというところもあります(笑)。

ひとりで100回観たという方も結構いる!

(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

―その要因はなんだと思いますか?

杉山 そうですね…。自分たちの作品をこう褒(ほ)めちゃいけないんですけど、まずは作品として面白かったというのは大前提としてあると思うんですよ。監督以下のスタッフが長期間妥協せず手を抜かず、面白い作品を作ってくれたということです。

あと、何度リピートしても新しい発見があるほど作品として情報量が多い。いわゆる「ネタ」を何度も確認に行ってくださったということですね。中にはひとりで100回観たという方も結構いらっしゃるんです。

―作品BD・DVDが5月に発売されたにも関わらず、劇場では4DX(映画のシーンに合わせて動きや風、水しぶきなどを体感できる)等で引き続き上映され、しかも満席に近い状態が続いているとか…

杉山 これも意図したものではないんですけど、内容が「爆音上映」とか「4DX」に合っていたということもあります。爆音や4DXは音や動きを楽しむある種のアトラクションなので、人間関係が複雑だったり、伏線を覚えていないと理解できない難しさがある映画だと向かないんですね。その点、『ガルパン』は単純明快な作品だというのが、実は4DXの作品として向いていた。

それに気づいたきっかけとしては、まず普通の上映が始まった後にシネマシティ立川さんが「極上爆音上映」という形でこれを上映してくださったことです。それによって「あれがスゲエぞ」という話がクチコミで拡がってチケットが全然取れないという状況にまでなり、ずっと満席が続いている状態だったんです。

―重低音が効いていて最高の音質だという、あの「極爆上映」ですね。戦車の弾の音を爆音で聴くとすごそうですね!

杉山 その上映で「音」が映画にとってすごく重要な要素だということが、一部のオーディオマニアの方だけでなく、普通に映画を観ている方に伝わったんですね。そこで、もう一回違う劇場で見てみようとか、あそこの音が良かったよとか、そういう形で何度も見るような作品になったようです。

そしてその次に4DXで上映が始まるのですが、これも我々から仕掛けたのではなく、劇場側から上映の話をいただいたんです。しかも4DXのスタッフが、戦車によりアイドリング時の振動を変えるなど細かく作りこんでくれたので、4DXも面白いとやっぱりクチコミで拡がった。4DXはその頃で全国に約35の劇場があったんですけど、『ガルパン』は全館で上映されたんですよ。そうやって体験する人も増え、また広がっていくわけですよね。

なので、いろんな幸運が重なって超ロングランヒットになったのであって、恥ずかしながら私達自身でヒットの道筋をつけたワケではなく、偶然なんですよ(苦笑)。通常は時間が経つに連れ興行収入は落ちていくものですが、この作品は途中で上向きになったんですね。そういう作品はあまりないので。やはりファンが足繁く通ってくれて、その手応えを劇場サイドが受け止めてくれた。ファンによって支えてもらったヒットだなと思いますね。

劇場版第2作を期待する声には…

バンダイビジュアルの映像プロデューサー・杉山潔氏

―映画のヒットに伴い、戦車のプラモデルが売れる現象も起きているようですね。

杉山 ありがたい話です。まず商品化のハードルが低かったんですね。一から金型を起こしてプラモデルにするには数千万円単位の投資が必要ですけど、元々、戦車のプラモデルは売られていたので、『ガルパン』として商品化する時もリニューアルという形でできたんです。いろんなメーカーさんを廻って商品化の話をした時にも、そこは各社さんも乗りやすかったようでした。

―作品をきっかけにプラモデル作りに目覚める方も多数だとか。

杉山 確かに、接着剤を使って、小さいパーツを組んでいって、色を塗ってというプラモデルの文法で作る模型っていうのは、もう一部の年寄りの死にかかった趣味になっていたんです(笑)。でもこの作品で興味を持つ年齢層が下がり、なかなか売れなかった戦車のプラモデルが結構売れるようになった。

中でも作品に出てくる「BT-42」は、普通の戦車マニアでもほとんど知らない戦車で、残念ながらあまり売れてなかったようなんですが、劇場公開されてあっという間に店頭から消えて。オンラインショップでも買えなくなり、増産のたびになくなる状態になった。これは間違いなく『ガルパン』を観て、それを実際に作りたいというファンが出てきたことの現れかなと。

―関連業界までも良い影響が出てますね…。

杉山 うーん(苦笑)。業界を救ったみたいな文面で書かれることはあるんですけど、私達はそんなおこがましいことは考えてないです。やっぱりそれはファンの人たちが買いたいと思ってくれて、作品に関わりたいと思ってくれるメーカーがいてくださってこそなので。むしろ、売れるかどうかはフタを開けるまでわからないオリジナル作品に最初から関わってくださったメーカーさんには、本当に感謝の気持ちしかないですよね。

―当然のことながら第2作を期待する声もありますが…。

杉山 実はTVシリーズの時も続編なんて想定せず、キレイに終わるつもりでいましたし、毎回全力投球で作っていて、劇場版でアイデアを投入し切っちゃったんですよね(笑)。続編を望む声は沢山頂きますが、続ければよいと言うものでもないと思います。面白い作品が出来そうだという目処が立たないと…。ただ、近々発表したいこともありますので、お待ちいただければと思います。

また、やっぱりこの作品は大事にしていきたいので、11月には映画の舞台になった茨城県の大洗町で戦車の山車が出る「あんこう祭り」もありますし、大小様々なイベントが各地で開かれていきます。そういったことは引き続き、可能な範囲で続けていきたいと思います。

―楽しみにしています! 今日はありがとうございました!

※このインタビュー後、8月28日に行なわれたファンイベントで続編『ガールズ&パンツァー 最終章』の制作決定が発表された! これはますます目が離せない!

(取材・文/明知真理子、撮影/石川耕三)

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杉山潔(すぎやま きよし)バンダイビジュアルの映像プロデューサー。ミリタリー関係に造詣が深く『AIR BASE SERIES』などの実写ドキュメンタリーのほか、『戦闘妖精雪風』『ストラトス・フォー』『よみがえる空-RESCUE WINGS-』などアニメ作品も数多く手掛ける。好きな戦車はアメリカのM4シリーズ。「ガールズ&パンツァー 劇場版」 Blu-ray&DVD 発売中&デジタルセル配信中! Blu-ray特装限定版:¥9800(税抜)/Blu-ray通常版:¥7800(税抜)/DVD:¥6800(税抜) 発売・販売元:バンダイビジュアル