残念ながらフィリピンの麻薬を撲滅することは不可能と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがフィリピンのドゥテルテ大統領が掲げた公約、麻薬撲滅について語る。

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麻薬撲滅を掲げるフィリピンのドゥテルテ大統領が“超法規的殺人”を奨励し、国際社会に衝撃が走っています。

「半年以内に密売組織を撲滅する」という公約の下、就任から2ヵ月余りの間に、警官や“自警団”らによる麻薬密売人や中毒者の殺害件数は約2000件にも上ったとのこと。当然、国連や欧米諸国からは非難の声が上がっていますが、国内での高い支持率を背景に、ドゥテルテは強気の姿勢を崩しません。

ただ、はっきり言ってしまえば、残念ながらこの手法でフィリピンの麻薬を撲滅することは「不可能」です。スラム街に根を張る売人やジャンキーを何千人殺したところで、せいぜい「今までよりやや地下に潜る」程度の効果しかないでしょう。麻薬流通の末端ではなく“製造工程”に目を向ければ、それは火を見るより明らかです。

フィリピンには近年、メキシコ最大の麻薬密売組織「シナロア・カルテル」が拠点を構えています。彼らはチャイナマフィアと結託し、盤石の“SHABUビジネス”を展開。覚醒剤の原材料となるプソイドエフェドリンをチャイナマフィアが中国から調達し、シナロア・カルテルは最終加工と流通を請け負う。このビジネスモデルに手をつけない限り、いくら末端を叩いても撲滅など夢のまた夢です。

また、仮にチャイナルートを断ったとしても、代わりに山のような「インド原産シャブ」がやって来ます。 最近、インドの製薬工場で作られたプソイドエフェドリンを含む風邪薬が、国境を越えて大量に隣国ミャンマーの辺境地域へと運ばれています。インドの製薬業界は目覚ましい急成長を遂げていますが、規制も警察もザルに等しく、風邪薬が流通の過程で闇市場へ大量流出。それが国外で覚醒剤へと“再処理”されているわけです

風邪薬1錠から錠剤型の覚醒剤が1錠できる

インドとミャンマーの国境地帯では、米袋などに大量の薬物が詰められ、クルマやバス、あるいは水牛に乗せて運ばれているそうで、この流通にはマフィアばかりでなく、普通のミャンマー国民らも加担しています。わずか数十円というインド産の風邪薬1錠から、「ヤーバー」と呼ばれる錠剤型の覚醒剤が1錠できるといわれており、経済発展の恩恵など遠く及ばない貧しい地域の人々が、こんなおいしいビジネスを手放すはずがないのです。

ドゥテルテ大統領も、まさか本当に半年で麻薬を撲滅できるなどと思っているはずがありません。ただ、彼は典型的なポピュリストで、振り上げた拳を下ろすわけにいかない。今後も人気取りのために“超法規的殺人”を奨励し続けるでしょう。

今はまだ大統領就任直後の“ハネムーン期”で、多くの貧しく苦しいフィリピン国民は彼に喝采を送っています。これを欧米がいくら「人権無視だ」と批判したところで、ドゥテルテは「今まで俺たちを見捨ててきたくせに、いまさらキレイ事を言うな」と、より強硬になるばかりでしょう。フィリピン国民よ、今こそ立ち上がれ―というわけです

そんな不毛な政治ゲームが行なわれている間にも、“SHABU”はフィリピンを蝕(むしば)んでいきます。ドゥテルテのやり方を批判する側にも、特効薬のような代案はありません。この戦いに終わりはないのです。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など