日本の“ゆるいニュース”を見ていると、セキュリティの甘さに落胆せざるを得えないと語る小山内氏

日本が史上最多のメダルを獲得し、沸きに沸いたリオデジャネイロ五輪。しかし期間中、治安の悪さで有名なリオでは、世界中から訪れた“お客さん”が犯罪に巻き込まれたという残念な報道もあった。

そんな危険に満ち満ちたリオ五輪の舞台裏で活躍したのがボディーガードたちだ。

そこで今回は、前回記事(「リオ五輪の舞台裏を現役ボディーガードが告白」)に続き、リオ五輪で日本の大手企業の警備を担当したIBA JAPAN(国際ボディガード協会)の小山内秀友(おさない・ひでと)さんに取材。

小山内さんはIBA JAPANの副長官とアジア地域統括責任者を務めるかたわら、現役のボディーガードとして警護業務などで活躍。そんなプロ中のプロに、ボディーガードという仕事の実態から、リオ以上に危惧されるという東京五輪の現状までを聞いてみた。

■誤解ばかり!? ボディーガードのリアル

ここからは謎のベールに包まれたボディーガードという職業について迫ってみた。

―そもそもボディーガードの運営会社って日本にどのくらいあるのでしょう?

「東京都内だけでも2千社くらいですが、実際に身辺警護をしているのが200社くらい。そのうち、VIPやハリウッドスターが来日した際の警護など、頻繁(ひんぱん)に依頼がくるのは弊社を含めて名が知れて実績のある5社くらいかと…」

―無名で実績のないボディーガードに命を預けたくはないですもんね。ボディーガードになるには、どうすれば?

「大きく分けてふたつあり、公的機関で警視庁のSPや皇宮警護官などになるか、民間の警備会社に所属したり、自身で警備業を営むかです。民間の場合、格闘技や銃訓練はもちろん、車両の特殊運転技術、盗聴器・発信機や爆発物を発見して対処する技術、救急法など多くの知識とスキルを専門の訓練機関で時間とお金をかけて身につける必要があります。欧米の場合、ボディーガードになるには日本円にして200~300万円ほどかける人が多いようです」

―ボディーガードってカッコいい職業のイメージがありますが、実際のところは?

「実際は地味でとても気を遣う仕事です。勤務時間や休憩、休暇などを自分の都合で決めることはできませんし、トイレに行きたくても自分の都合では行けず、食事も食べられない時は諦めます。夜間は緊急で呼ばれることもあるため、寝ていても常にスタンバイしておくなど、毎日過酷な勤務が続きます」

―そこだけ聞くと勤務医みたいですね(苦笑)。でも、それこそ悪人と銃でドンパチやったり、爆破予告のある建物から依頼人を助け出したり…そういうアクション映画みたいなケースもあるわけですよね?

「いえ、そういうのは今まで一度もないです(きっぱり)」

―えぇ~!!!(驚愕)

「我々の仕事は、危険に遭遇しないためにコーディネートすることですからね。危ない地域やテロに狙われやすい場所を事前に調べた上で動いているから、普通の人よ りよっぽど安全な生活をしていますよ(笑)。

厄介なのが、ボディーガードになる側にもそのような誤解をしている人が少なくないこと。キックボクシングや空 手をやっているからといって、セキュリティの知識がないままになる人たちがいるんです。『襲ってきたら戦う』なんて人は、僕らからしたらボディーガードではなく、ただの素人の用心棒でしかない。自身はもちろん、依頼人を危険に晒(さら)すだけです」

外国人作業員にテロリストが入り込んでいたら…

―でも、いくら準備をしても襲われることもあるのでは?

「車で尾行されて高速道路で映画のようなカーチェイスをしたことはありますね。後ろに走っている警備車両が相手の車を尾行回避運転でブロックしている間に逃げました。あと、我々の車を追い越した車が止まり、助手席から日本刀を持った男が降りてきたのでバックして脇道から逃げたとか(笑)」

―あ! そういうの待ってました! すごく聞きたいです!

「そうですね…レストランでクライアントが取引先と打ち合せ中、不審な車が止まっていたので、車中を覗(のぞ)いたら拳銃が見えたんです。すると離れた場所で車の持ち主と思われる人間が仲間を呼んでいるような電話をしていたので、僕らがレストランの正面から入り、有無を言わさず『失礼します』とクライアントをガッと持ち上げて、そのまま厨房の入り口から車で逃がす…ということもありましたね」

―すげーーー!!  本当に映画みたいですね。ちなみに、いやらしい話、ボディーガードの給料ってどれくらいなんですか?

「雇用形態によってピンキリですね。この業界はキャリアが全て。キャリアがない人をVIPは雇いたがらないんです。だから、警備会社に務めて時給800円でボディーガードをしてる人や、アーティストのボディーガードとして一緒に全国ツアーを回るなど、ほぼ24時間拘束で月に30万円弱の給料の人もいれば、VIPから直接雇用されて月50万円、海外の話ですが軍隊の特殊部隊出身者で著名人に直接雇用されて月600万円稼ぐボディーガードもいます。世界トップクラスのビリオネアなどのレベルに雇われると、もっと多くの報酬をもらうことも可能かもしれません」

月600万円以上もあり得る…これは僕も(キミも)自宅警備している場合じゃない!

■2020年の東京オリンピックは超危険!?

4年後にはついに東京でオリンピックが開催される。最後に、東京五輪に向けての日本のセキュリティについて聞いてみた。

―小山内さんから見て、日本のセキュリティはいかがですか?

「私はかつてイスラエルでボディーガードの訓練を受けていたことがあるのですが、ご存知のように、あの国は自爆テロが非常に多く、世界でもセキュリティが厳しい国としても知られています。

例えば、イスラエル最大の国際線空港であるベングリオン空港は設計の段階から地対空ミサイルが飛んできた場合のシミュレーションをしたり、3D技術などを駆使して、あらゆるリスクを想定し尽くし建設されているわけです。ですので、日本で羽田空港の滑走路に金網を破って車が突破してきた…などの“ゆるいニュー ス”を見ていると、そのセキュリティの甘さに落胆せざるを得ません」

―う~ん…では、2020年の東京五輪に向けたセキュリティ対策は?

「豊洲あたりはオリンピック関係の工事をやっているので見に行きましたけど、甘いですね。建築現場には外国人作業員も働いていましたが、仮にテロリストが入り 込んでいたらどうか。もちろん外国人=テロリストではないことは言うまでもありませんが、あくまで可能性の問題として言わせてもらうと、工事現場の見取り 図が外部に漏れると、テロリストに効率的な攻撃の手法を教えてしまうことになる。

また、見取り図ひとつで建物自体に爆発物も仕掛けられる。脅すわけではないですが5年後、10年後に爆発する爆弾も仕掛けられるので、建物のコンクリートの中に埋め込まれたらどうしますか?」

―想像しただけで恐ろしいです…。

「オリンピックの時期にいくら警備を強化したり、監視カメラを設置しても正直遅い。セキュリティは情報管理から始まるんです。その情報のセキュリティが現状ちゃんとできていないわけです。リオ五輪でも感じましたが、日本人ならではというか…危機感が薄いのでしょうね」

実はリオ五輪より危険なのは、4年後の東京五輪かも? 危機管理のプロの“警鐘”をどう受け止めるかは自分次第だが、心配な方は身の安全のためにボディーガードを雇うことを検討してみては…ていうか、国のお偉いさん方はちゃんと認識してるんですよね!?

(取材・文/ケンジパーマ)