独自の哲学を綴った著書『空気を読んではいけない』が売れ行き好調な総合格闘家・青木真也

PRIDEの末期に台頭し、DREAMでは日本人エースとして活躍、同団体消滅後は多くの日本人ファイターが米UFCを目指す中、そこには背を向け我が道をゆくフリーランス格闘家、青木真也

昨年末はRIZINで桜庭和志に勝利したが、現在の主戦場はシンガポールを拠点とするアジア最大の団体ONE-FCでライト級世界チャンピオンに君臨している。

ときに問題発言で物議を醸(かも)し、アンチも多い青木だが、先日刊行された著書『空気を読んではいけない』が累計2万8千部と好評を博している。自身の経験を基にした、生き残るための独自の哲学が満載なのだが、「幸せな人生を生きるために友達はいらない」「自分の考え方が汚されるから、人と食事には行かない」など、凡人にはマネしがたいものも多く含まれている。

誰もが青木真也のように生きられるわけではないーー。そこで、本に書かれた青木哲学を引用しながら、敢えてネガティブ思考で反論を試みた。果たして、チャンピオンはどう切り返す?

●「僕の格闘技人生は、ある意味で隙間を探し続けてきた」

―青木選手は、中学は柔道の強豪校に進学し、才能のなさを痛感し、投げ技ではなく変則的な関節技に「隙間」を見出したわけですが、凡人はその隙間を見つけるのが大変なんですよ!

青木 僕の場合、まず格闘技っていうジャンル自体が隙間じゃないですか。昔でいえば、運動能力が高ければ野球やサッカーをやっていたし、その世界でダメなヤツが柔道をやっていた。柔道をやってダメだったヤツがこっち(格闘技)にくるわけだから。

隙間を探すという意味では、例えば柔道では勝てないけど、サンボに出ると勝てるっていうケースもあって。そこで日本一になれれば、立派な日本一じゃないですか。運動能力が高いのに、野球では名を成せずに終わるのであれば、その運動能力を使って競輪に挑戦したら1年で成功するとか。

だから隙間を見つけてやるのがいいと思うんだよな~。そうやって冷静に考えて、自分がやれることをやればいいんですよ。

―隙間っていうのは「自分だけの武器」と言い換えられると思うんですけど、一般人はそれをどうやって見つけたらいいですか?

青木 例えば、若手のサラリーマンだとしたら、誰も手をつけてないポジションに先に行って、とりあえずそこに居座っとけよって話です。居座って2年ぐらいやってみて、10年、20年いたようなツラをすればいいわけです。固定観念を捨てることが非常に重要なんじゃないかと思います。どこに落とし所を見つけるかは、自分次第なんですよ。

それに、ボクシングもそうですけど、そもそも格闘技で食っていくには効率が悪すぎるんです。なぜかって、上位1%になっても食えないから。世界チャンピオンになってやっと食えるか食えないか。でも、サラリーマンの世界で上位1%になったら、食えるどころかケタが違う。そう考えるとサラリーマンで真ん中ぐらいに入れればいいってなる。格闘技の上位1%よりもはるかに上なんです。だから、隙間を見つけたら、徹底的に居座れ!

「バカの言うことなんて気にすんな!」

先日のRIZINで、7秒KO負けし酷評された木村ミノルを青木は絶賛する

●「同調圧力に負けず、『なんだ』に惑わされずに生きていく上で、自分の個性を殺さずにコントロールしてくれる人との出会いは大切だ」

―投げ技に絶対的な価値が置かれる柔道で、青木選手はどれだけ関節技で勝っても「なんだ、その柔道は」と揶揄(やゆ)された。しかし、高校の柔道部顧問の先生だけは、個性を認めてのびのびやらせてくれたとのことですが、その出会いって、運がよかっただけでは? それに、同調圧力に負けないというのは、至難の業…。

青木 僕なんて未だに否定され続けていますけど、否定されたもん勝ちなんですよ。否定されたほうがキャラが立って、カネになる。ただ寂しいのは、「この人はトンパチの効いたことをやる人なんだ」って認定されると、ハードルが上がってしまって、ちょっとやそっとじゃボヤが起きない(苦笑)。リング上にペットボトルを投げたくらいじゃ、そこまで大きな話題にならないわけです。もし、吉田沙保里さんが投げたとなったら、バンバン炎上するでしょう!

―なにせ国民栄誉賞ですからね(笑)。で、自分を認めてくれる人と出会うには?

青木 すべての人が認めてくれるなんてことは絶対にないわけですが、それでも中には認めてくれる人もいるものです。だから、待ってるだけじゃなくて、そういう出会いを見つける作業をしたらいいんじゃないでしょうか。ただ、運も実力の内だけどね!

●「エネルギーを投下すべきところは間違いなく格闘技だけだ。それ以外に費やす時間と金は無駄使いでしかない」

―そうは言っても、ムダなことが後々、得につながることもあるのでは?

青木 ムダな行動にも意味があるとわかってやるならそれはムダじゃないけど、漫然と費やす時間とカネには意味がないんです。 例えば、飛行機に乗る際、エコノミーがいいのか、ビジネスクラスなのか、ファーストクラスなのかとなった時に、どれを選択してもいいけど、そこに価値を見出すか、それを自分で考えないヤツはダメですね。

本を読むのもそうです。ムダなカネだと思う人もいれば、感性が磨かれると思う人もいる。僕は格闘技の世界にいるから、時間やカネはそこに集約できないと意味がないと思っています。あとは、バカと話さないこと。

―バカと話さない? なぜですか?

青木 疲れるから。だから、格闘技の選手と話したらダメですね(笑)。例えば、先日のRIZINで木村ミノルがヘマをやって、プロの格闘家としてはしょっぱかったかもしれないけど、エンターテイナーとしてはグッジョブだと思う。あんなにいい仕事をした人はいない。

―自信満々のビッグマウスや長い入場シーンで沸かせたのに、7秒でKO負けという、あのオチが凄かったですよね。

青木 選手の中には「なんでこんなのを使ってるんだ? アマチュアからやり直せ」みたいに木村を叩いているバカがいるんですよ。頭が固いよね。格闘技は物語として見せないとダメで、白黒つけるだけでは商売にならないですから。だから木村に言ってあげたいのは、バカの言うことなんて気にすんな! あんなことで落ち込んだらダメってことですね。

「デビューした頃の生活のツラさはもの凄くシビアでした」

プロデビュー当時はファイトマネーが安く、生活が大変だったと打ち明ける

●「『自分の価値はこんなもんか』と劣等感にさいなまれ、一度は格闘技から足を洗う決断を下した」

―青木選手は早稲田大学4年生の時に修斗のチャンピオンになりましたが、それでもファイトマネーは20万円。大学の同期たちは一流企業への就職が決まっている。そこで静岡県警に就職したわけですが、「自分の価値」=「報酬」なのか? 仕事にやりがいを感じていれば、貧乏でもいいんじゃないかと。

青木 貧乏のツラさを知らないからそんなこと言えるんですよ! よく「お前は好きなことをやれてるからいいよな」って言われたけど、大学の同期にメシをご馳走になるツラさってないからね。

―経済的に一番ツラかったのはいつですか?

青木 警官を辞めてからPRIDEに移るまでですね。たった2ヵ月間くらいですけど、食いつなぐのが大変だった。だから、貧乏でもいいなんて言える人は、ある程度メシを食えているからそういうことが言えるんですよ。

デビューした頃の生活のツラさはもの凄くシビアでした。周りには理想論を語っている人もいたけど、そこに幸せなヤツはひとりもいなかった。DREAMが終わった後も、今後仕事がなくなるかもしれないっていう恐怖感がツラかったですね。「カネじゃない」っていうのは、カネがないツラさを知らない人の言葉だと思います。

●「フリーランスは保障もなく不安定な立場とよく言われるが、実は不況に一番強いと思っている。組織にぶら下がることなく、安定を捨ててこそ本当の強さが得られる」

―そうは言っても、このご時世、独立はリスクが高い。その境地に至るにはどうしたらいい?

青木 僕だって実は守られたいんです。年俸制にしてほしい。実は安定したいんです。だけど現実はそうならないから、フリーで闘い続けるしかないじゃないですか。

―自分の可能性を試すために独立したいと思っている人には、どんなアドバイスを?

青木 格闘家と会社員では状況が全然違うとは思いますけど、独立したいと思えるのは、恵まれている証拠なんです。そういう人への僕からのアドバイスは、そのまま組織にいたほうがいいよって。これはマジで思う。独立なんて絶対にしないほうがいい。キツイんだから。たとえ組織がぬるま湯だったとしても、そこにいられる才能のある人は絶対に辞めずにしがみつけ! 僕にはその才能はないけど!

「僕は夢が叶ったことがない」

●「大事なのは、負けを勝ちにすることだ」

―そうは言っても、過去の失敗は忘れたいものじゃないですか。

青木 格闘技界には、次の試合に向かうインタビューで、まるで前回の敗戦がなかったかのように語るものが多いんですけど、それはダメだと思うんですよ。僕でいうと、現UFC王者のエディ・アルバレスに負けた時の失望感が半端じゃなかった。 だけど、あの時に僕のほうが弱かったということを含めて、逃げていないつもりなんです。

要は、自分ベースでいかに過去の失敗を転がせるか。負けても自分が上がっていけばいいんですよ。もったいないのは負けを忘れたり、辞めたりすること。負けは成功するための燃料になるんですから。

●「夢は叶わないものだと考えている」

―頑張れば夢は叶うと信じるから、人は頑張れるんじゃないんですか?

青木 いや、僕は夢が叶ったことがないんですよ。もちろん目標はほとんど叶いますけど、夢は怪しいものです。

―怪しい?

青木 夢は漠然と口にするものじゃないと思うから。根拠もなく「3、4年後はまた格闘技は復活するから」って予言しちゃう人って怖いですよね。大事なのは漠然と語る夢ではなくて、目標達成に向かうプロセスです。今回の本だって、出してもらうからにはちゃんと売ろうって思いましたから。

―青木選手自らツイッターで「これから新宿の◯◯書店に向かいます」ってつぶやいて、来てくれたファンに即席サイン会をやっているそうですね。素晴らしい営業努力です。

青木 もしそれでお客さんが来なかったとしても、次の日は来るかもしれないし、次に進めばいいんですよ。夢なんか語らずに、淡々と普通にやればいいんです!!

●青木真也 1983年生まれ。静岡県出身。小学生の頃から柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に、柔道から総合格闘技に転身。大学卒業後に静岡県警に就職するが、2ヵ月で退職して再び総合格闘家へ。「DREAM」「ONE FC」の2団体で世界ライト級王者に輝く

『空気を読んではいけない』(幻冬舎 1200円+税) (取材・文/“Show”大谷泰顕 撮影/保高幸子)