日本代表は原口元気のゴールで先制するも、後半、オーストラリアに追いつかれて引き分け

「3人のフレッシュな選手を入れて勝利を目指すべきだったかもしれない。今日、我々が作ったチャンスのことを考えれば、勝てた試合だったと思う」

試合後の会見の最後にそう言ったのは、日本代表を率いるハリルホジッチ監督だ。

グループB最大のライバルとされるオーストラリアとのアウェー戦。アジア最終予選を突破するための大一番ともいえる試合で、日本は1-1のドローに終わった。この結果を受けて、指揮官は「勝ち点2を失った」という自身の見解を示したわけだ。

しかし、このコメントを額面通りに受け止めていいのだろうか。

試合内容を直視すれば、残念ながら今の日本代表の限界が見えた試合だったというのが正直な印象で、少なくともハリルホジッチ監督も会見の冒頭で「悔いはない」と言い切り、さらに「アジア王者を相手に大きなリスクは冒せない」とも述べていたことを考えると、冒頭のコメントは強がりと受け止めたほうが妥当だろう。

そもそもこの試合で日本が引き分けられた理由は、対戦相手のオーストラリアの不調、そして徹底して守備的に戦うという日本のゲームプランによるところが大きかった。

「前半の出来にガッカリした。立ち上がりの失点後のリアクションも期待通りのものではなく、我々は完全に試合の45分間を失ってしまった」とは、オーストラリアのポステコグルー監督の弁だが、開始5分の日本の先制点はそんな状況の中で生まれた。しかし前半30分以降は流れが傾きはじめ、後半はオーストラリアが一方的にボールを支配。日本がボールを支配していた近年における両国の対戦からすると、まるで180度異なる試合展開が続いたのである。

いくら相手が現アジア王者とはいえ、日本がアジア勢を相手にここまで守備重視の戦いを貫いたのは、日本サッカーのプロ化、つまりJリーグが開幕した1993年以降のワールドカップ予選では初めてのことと言っても過言ではないだろう。

実際、ハリルホジッチ監督の采配も極めて消極的で、1トップに本田圭佑をスタメンで起用し、両ウィングの原口元気と小林悠には守備面でのカバーリングを強く指示。これには相手のキャプテン、ミル・ジェディナクも試合後に「日本の罠にショックを受け、それに引っかかってしまった」とコメント。深く守備ラインを引いて守る日本の守備的戦術に驚きを隠さなかった。

また、選手交替でも後半早々に同点に追いつかれてからじっと我慢。最初に切ったカードは負傷した小林に代えた清武弘嗣で、それも残り時間をわずかに残した81分のことだった。その後、84分にようやく不調の本田に代え、浅野拓磨を投入した。

さらに後半のアディショナルタイム1分には、左ウィングの原口を下げて本来、センターバックの丸山祐市を同じポジションで起用。「オーストラリアはフリーキックとコーナーキックからしか得点できないので、そのために丸山を入れた」という意図を指揮官は説明したが、だとしたら本当に「勝てた試合だった」とハリルホジッチ監督が思っているはずもない。

チーム力が低下していく可能性は高い

これら消極的采配以外にも、日本の限界を感じる要素はあった。それは本田の不調ぶりをオーストラリア人記者に問われた時に、指揮官が見せた意思表明だった。

「本田は我々にとって重要な選手で、これまで多くのゴール、多くのパスを出してきた。確かにパフォーマンスは楽観的ではないが、そうだとしても本田はすごく重要な選手。もし本田が違うパフォーマンスだったら、今日は違う結果が生まれたのではないか。試合後、彼にはクラブでもっと試合に出て調子を上げてほしいと伝えた。ただ、彼に代わる選手を我々は持っているのだろうか?」

これこそ、現在の日本代表の未来が明るくないことを決定的なものにする発言ではないだろうか。どんなに不調でも、本田だけはアンタッチャブルであることを指揮官自らが公言し、心中覚悟の意志を示したわけだ。

オーストラリア人記者も気づくほどの不調に喘(あえ)ぐ本田が、今後、所属クラブのACミランでポジションを獲得して活躍できるかどうかは極めて不確定かつ可能性の薄い要素だ。

また、この試合でも何もできなかった香川真司、明らかにパフォーマンスが落ちている長谷部誠、故障と病気が重なり出場のなかった岡崎慎司、イラク戦後に戦線離脱した長友佑都…と、これまで主軸を担ってきたメンバーたちがこぞって調子を落としている現状を考えると、今後の日本代表に“伸びしろ”を期待すること自体に無理があるのではないだろうか。

いずれにしても、互角の試合を演じて試合終了間際に決勝点を決めたイラク戦、そして守備的プランで勝ち点1をもぎ取ったオーストラリア戦を総じてみれば、この先さらにチーム力が低下していく可能性は高いと見ていい。たとえ今のチームがこの予選を突破したとしても、その先にある本大会に期待できるはずもない。

彼らの存在を脅かすような下からの突き上げもない現状を考えると、可能な対策としては、指揮官を替えて選手の起用法やチーム戦術などを変更し、監督の采配力によってチーム力アップを図るしか方法はないだろう。

結果に惑わされ、これまでの試合内容から目を背けていると、来年から始まる予選の後半戦で取り返しのつかない状況を迎えるかもしれない。

ちなみに同日の試合ではサウジアラビアがUAEに3-0で勝利し、勝ち点を10に伸ばして首位に立った。2位オーストラリア(勝ち点8)の次戦が最下位のタイ戦ということを考えると、来月15日にサウジアラビアと対戦する勝ち点7の日本は、その結果いかんでUAEとの3位争い(プレーオフ出場権争い)を繰り広げる可能性が現実味を帯びてきそうだ。

(取材・文/中山 淳 撮影/松岡健三郎)