「野党が結束して『反原発』を訴えたからではなく、民進党が米山氏を当初は支持しなかったからこそ勝てた」と分析する古賀茂明氏

新潟県知事選で、自公推薦の候補を下して初当選した無所属新人の米山隆一氏。

その勝因として、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明は、米山氏の戦う姿に新潟県民が「小池百合子」を連想したのではと分析する。

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新潟県知事選は、無所属新人の米山隆一氏が自公推薦の候補を下し初当選した。私も選挙前から彼に立候補を依頼し、2回にわたって街宣活動に参加したこともあり、この結果はうれしい。

当初、民進党の支持を得られず、共産、自由、社民3党と市民連合の支持を受けて立候補した米山氏だが、選挙戦終盤では蓮舫(れんほう)民進党代表も応援に入り、事実上の「野党共闘」候補となった。

米山氏は、柏崎刈羽(かしわざきかりわ)原発の現状での再稼働に反対を掲げ、早期再稼働を訴えていた自民候補と対決。NHKの出口調査によれば、有権者の73%が原発再稼働に反対で、米山氏の当選は「野党が脱原発で共闘したことが功を奏した」と評する声が多い。しかし、それは一面的な見方だ。

新潟県民は野党共闘を評価したのではない。米山氏の姿に「小池百合子」を連想したのだ。

もともと米山氏は民進党の新潟5区支部長だった。しかし、民進党新潟県連は米山氏を支援せず、自主投票にしてしまった。原発再稼働に前向きな最大支持母体・連合が自民候補支持に回ったので、その意向を気にしたのだ。

蓮舫代表も当初は県連任せのまま責任回避の姿勢を取った。そのため、米山氏は民進党を離党し、無所属候補として強力な自公候補と戦わざるをえなかった。

この構図は自民党の支援を受けられず、無所属で都知事選を戦った小池都知事をほうふつとさせる。その戦いぶりに共感した有権者が“判官びいき”をして、米山氏に一票を投じたと私は考えている。

また、民進党の支持を得なかったことで、原発再稼働反対を気兼ねなく主張できたことも、勝因のひとつだろう。

自民の“米山シフト”で想定されるシナリオは?

つまり、野党が結束して「反原発」を訴えたからではなく、民進党が米山氏を当初は支持しなかったからこそ勝てたと考えたほうが正しいと思う。この点を正しく認識しないと、野党は次の衆院選で誤った選挙戦略を立ててしまうだろう。

今後、自民は“米山シフト”を敷いて軌道修正に動くはずだ。そこで想定されるシナリオはふたつ。ひとつは米山県政を干し上げ、知事を再稼働容認へと追い込む「強硬シナリオ」。もうひとつは補助金や公共事業のバラマキを取引材料として、知事に再稼働容認を促す「すり寄りシナリオ」である。

何せ、自民は新潟県議会の6割超の議席を握っている。今回の知事選で米山氏は約53万票を集めたが、実は自民党支持層の3割が米山支持に回った。彼らは米山知事の取り込みを狙っている。

自民の攻勢に、新知事がずっと耐えられる保証はない。そうなれば公約も貫けなくなる。では、どうするべきか。

まずは同じく再稼働反対を訴えて当選した三反園訓(みたぞの・さとし)鹿児島県知事とタッグを組むことを勧めたい。ふたりで発信すれば県民の関心も高まる。そうなれば、自民も露骨な米山シフトを敷けなくなるはずだ。

原発に関する有識者会議を開いてネット中継するのも有効だ。その場に東電関係者らを呼び、原発のコストや避難計画などを理詰めで議論するのだ。そうすれば、おのずと原発の問題点が明らかになり、米山知事の方針に対する県民の支持は盤石なものになるだろう。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)