メキシコシティーのタクシーはかわいいピンク色

オラ! アミーゴ!

メキシコと言えば麻薬組織の抗争や銃撃戦などの危険なイメージを持つ人もいるかもしれない。

しかし、実際訪れてみると、治安が悪いとされる首都メキシコシティーでさえ明るい雰囲気で、私は怖さを感じなかった。

政府も治安改善に力を入れていて、公共の乗り物に女性専用車両があったり、街中にはピンクと黄色のカワイい作業着を着た清掃員がいてゴミも落ちてないし、人気のタコス屋ではお客さんがきれいに列を作って並んでいる。

ピンクと黄色の派手な作業着を着た街中の清掃員

メキシコ人はちゃんと並ぶ!

スリ、強盗には気を付けなければいけないけれども、宿は安くてご飯は美味しいし、人々は優しくてお土産屋などの営業もしつこくない。秘境や見所がいっぱいで、こりゃあ旅人はハマるわ。

同じ気持ちの日本人旅人は多いのだろうか、各都市には日本人宿もあって、そこで沈没(旅を中断し長期滞在)する旅人も多かった。

かくいう私も昨年に続くメキシコ再訪。あの時は旅友とのセノーテ(地底湖)やマヤ遺跡観光など楽しかったなあ…。メキシコに来てからというもの、私はよく旅の仲間たちのことを思い出していた。

「旅」という共通の目的を持ちながらも、そのやり方は十人十色で刺激的。出会いと別れの繰り返しで、ネットやSNSが発達した今でも、偶然に出会った旅友と再会できる機会はそう多くはないけれど。

「そういえば、あの時のチャリダーの彼、元気かな…」

チャリダーというのは自転車で移動する旅人を指すのだが、私のような軟弱な旅人とは違い、たくましく過酷な道を選んだ孤高の旅人。

危険エリアも黙々と走り抜けるチャリダーは一風変わった人が多く、その発想や旅の仕方もまた独特。彼は旅の道中、書道や折り紙のパフォーマンス、たこ焼きや巻き寿司の販売をしながら、地元の人たちとの交流を楽しんでいた。

1年前、メキシコで別れた後は、グアテマラの路上で「コロッケ始めました」と手作りコロッケを販売。ノーマル味とカレー味の5ケツァール(約80円)のコロッケ50個が1時間半で完売するほど人気だったらしい。民族衣装をまとったインディヘナの人たちにもウケが良かったよう。

メキシコシティーの「ベジャス・アルテス宮殿」前を走るチャリ。もしやチャリダー君いないかしら?

その後の彼の消息はといえば、私も怖い思いをしたニカラグアなど世界でもトップクラスに危険な中米あたりを自転車で通過中というところまで…。

「町を抜ける間は、息を止めて全速力で走る気持ちで、止まらず目立たず目を合わさず、鬼の形相で走り抜ける

なんて言っていて心配だったけど、命があれば南米あたりにいるはず…?

チャリダーがまさかのキャバクラ“ボーイ”に…

実は私、メキシコシティー滞在中に安否の確認も兼ねて連絡してみたんです。すると他でもない、なんと彼も同じ街ににいるというではないか! まさかの偶然に嬉しくなって、早速、会う約束をした。

しかし、1年ぶりに再会した彼は、旅で伸びきった髪の毛や年季の入った無精ヒゲはなくなり、さっぱりと短髪でアゴはツルツル。すっかり当時の面影はなくなっていたのだ。

「風貌変わりすぎ(笑)! 誰だかわからなかったよ! てゆうか、まさかメキシコシティーにいるとはね。で、何してんの?」

すると、な、な、なんと、彼はボーイとしてメキシコにある日本人キャバクラいや高級クラブを手伝っているというではないか! 汗の染みた旅人の服を脱ぎ捨て、ワイシャツを着てピシっとネクタイを締めているんだって!

ピシっと。本人の代わりにイメージ画像をお楽しみください

気になるお店はメキシコで一番の富裕層が集まる地区にあり、お客さんの層は日本の一流企業の海外駐在員や出張者で、紳士的で安定しているという。

料金はテーブルチャージ、セット料金が1400ペソ(約7500円)で時間制限なし。同伴料や指名料は350ペソ(約1900円)、目安予算はおひとり様2700ペソ(約15000円)。メキシコの物価からしたら高級だけど、銀座や六本木に比べたらお手頃価格でしょうか。

そしてメキシコといえばテキーラだけれども、まさか日本の駐在さんが毎晩テキーラショットをかましてるはずもなく、ボトルは1500ペソ(約8000円)の黒霧(焼酎)が一般的だそう。

私はもっぱらメキシカンビールを飲んでいました

「ところで働く女性キャストは??」

と聞くと、美人系からカワイい系、ギャル系、お喋りが達者なコまで少数精鋭で揃っているんだとか。外国キャバ専門の求人サイトや紹介で集まったそうで、実は元旅人もいるんだって!

「ちょっと私も1日体験入店してみようかしら」

という提案は笑ってスルーされたが、とにかく、旅人の人生ってのもいろいろあるもんだなと思った。

彼の場合、旅で出会った人の紹介で今の生活を選び、月4000ペソ、光熱費500ペソ(合計約2万~2万5千円)のシェアハウスで念願のひとり暮らしを開始したそうだ。

この決断は重かったそうだが、「海外でこのような経験をするのは新鮮で楽しんでいる」と、実際、とても生き生きとしていた。

メキシコシティーの中央広場ソカロ

自転車を降りたチャリダーが乗っていたのは

しかし、元々は「この道は何処に続いているのだろう?」という好奇心と、アウトドア経験から始まったという自転車の旅。20代前半で日本周遊した後、旅資金を貯蓄し、30歳を過ぎてから世界一周に出発した彼にとって、相棒の自転車との生活は切り離せないはず。

「自転車はどうしてるの? もちろん乗り回してるんでしょ?」と聞くと、「シティーでは全く乗ってないよ。たまに磨いてる」と笑った。

「普段の移動は? チャリじゃないの?」

「メトロかバスに乗ったり、帰りはタクシーだからなー」

彼はすっかり「チャリダー」ではなく「シティーボーイ」と化していた。

メキシコシティーのチャリ人口は高いのに、チャリダーは自転車に乗っていなかった

それならそれで、この街のことにも詳しいだろうと、私は少し遠い観光スポットへの行き方を尋ねた。すると、

「んー、そこはUber(ウーバー)で行ったからわからないなー

と衝撃のセリフ(笑)! Uberは世界の各都市で展開されている配車サービスで、スマホアプリで呼びたい場所にハイヤーを簡単に呼ぶことができる。クレジットカード決済でチップも不要、近年中南米にも進出しメキシコでも根付き始めているという。

自転車を降りた孤高のチャリダーは今、流行りのUberで観光していたのだった!

彼はそう遠くない未来、南米の旅に戻ると言っていたが、またサドルをまたぐ日が来るのだろうか。それとも、南米をUberで旅する新しいタイプの旅人として伝説を残すのか…。

私たちはシティーのオシャレなレストランで乾杯をして、またそれぞれの道を歩み始めたのだった。

【This week’s BLUE】オアハカで見つけた自転車にのるガイコツ。

●旅人マリーシャ平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】