降格が決まり、うつむく名古屋グランパスの選手たち

Jーグ創設時から在籍する名古屋グランパスがJ1で24シーズン目、J2が創設されてから18シーズン目にして初めて味わった降格の屈辱。しかし、グランパスファンを打ちのめしたこの衝撃は、単なる“ジャブ”にすぎなかった。

J2降格が決まった直後、クラブはボスコ・ジュロヴスキー監督の退任を決定。田中マルクス闘莉王とも来季の契約を結ばないことを決めた。シーズン終盤に急遽復帰すると、残留ラインまで勝ち点差7という絶望的な状況から、あとわずかで降格圏脱出というところまでチームを引き上げた知将と闘将をあっさり切り捨てたのだ。取り残される形となったGKの楢﨑正剛は、「来年も一緒にやるものだと思っていた」と茫然自失の表情で語った。

J1復帰に向け、中心選手となるはずだった小川佳純(よしずみ)も戦力外通告を受ける。周囲が去就に迷うなか、長年10番を背負ってきた小川はいち早く残留を明言したが、その思いは届かなかった。その後も“粛清”は行なわれ、ここまで計10選手がクビになっている。

同じく、フロント陣も一掃される。GM時代に剛腕を振るい、2010年の優勝チームを築き上げた久米一正社長が引責辞任。トヨタ自動車社長でもある豊田章男会長は代表権を返上し、トヨタ出向組の佐々木眞一副会長、中林尚夫専務も辞任した(佐々木氏は暫定的に社長に就任)。

クラブにメスが入るのは当たり前だが、サッカービジネスに精通した経営者、GM、監督も不在のまま人事が行なわれていることが混乱を招いている。選手は口々に「チームがどうなるのか不安」「ビジョンが見えない」と話し、サポーターは「今季のスローガンである『信頼』、クラブのモットー『愛されたいクラブ宣言』と真逆だ」と怒りの声を上げている。

グランパス凋落(ちょうらく)の原因は様々あるだろうが、それに関していまだグランパスの未来を憂える小川はこう話す。

「10年、11年と優勝争いをして以降、『チームがどうありたいのか』という目標がだんだん薄れていった。『グランパス愛』のある集団にしないといけないのに、そんな選手、スタッフからいなくなり、クラブからのリスペクトが感じられなくなった」

世代交代といえば聞こえはいいが、13年にはレギュラーDF3人を含む多くの主力選手を放出した。Jリーグクラブライセンス制度が12年に導入され、それまでトヨタマネー頼みに積み上げてきた赤字の解消を余儀なくされたためである。ならば時間をかけて若い選手を育てていくのかと思いきや、勝てない日々が続くと、一転して大金を払い選手を補強するというチグハグさ。世代交代も経営体質改善も進まず、クラブの状況はますます悪化していった。

そんななかで昨年4月、久米GMの社長昇格とともに、豊田会長らトヨタ出向役員の就任が発表された。今年4月にはトヨタが追加出資を行ない、クラブを子会社化。クラブ設立以来、トヨタは一定の距離を置いてきたが、近年はその影響力を強めている。

チーム混乱の出口は見えないまま…

異様だったのは、就任した役員すべてに代表権があったことだ。約70名の会社に4名も代表取締役がいれば、指示系統があいまいになるのは明らか。それまで現場で実権を握ってきた久米社長側とトヨタ出向組の間で、程なく派閥争いが始まる。しかも単なる対立でなく、トヨタ本社の意向が絡み合った、取り入る者、暗躍する者が出てくるドロドロなものとなった。

指導者経験のない小倉隆史氏を監督に据えたのも、トヨタ側の「知名度がある」という理由で決定したといわれている。監督だけならまだしも、クラブ全体をマネジメントし、現場サイドや監督自身をも評価するGMを兼任させ、クラブの再興を任せたのだ。

“初心者”小倉GMは昨オフ、闘莉王との契約交渉を決裂させる。闘莉王は金額ではなく、理不尽な起用法や条件などクラブ側の態度にプライドを傷つけられたといい、ほかの選手も同様に、契約更改の時点で新フロントに不信感を持っていたようだ。

チームがバラバラのまま始まったシーズンは大不振。程なくして小倉監督解任論が噴出するも、トヨタ側は体面を保つためだけに、しばらく留意するよう圧力をかけたともいわれている(その後、小倉氏は正式に解任となった)。

クラブはすでに代表取締役を社長ひとりにする体制に戻しているが、トヨタ本社は再び新社長を送り込む気でいるようだ。それを受け、外様だった久米社長がいなくなり、抑止力が完全になくなることに警鐘を鳴らすべく、地元新聞社はトヨタ側の役員や社員を実名入りで批判する記事を連日のように掲載している。

例えば、「ある役員が『俺が闘莉王をクビにした』と飲み屋で吹聴していたらしい」「試合時に必要なIDを偽造して処分されそうになった幹部がいる」「新スタジアムの候補地について、なんの根回しもできていないのに、『グーグルアース的にはいくつかある』と説明した」といったものだ。いずれもトヨタからの出向組についての暴露話で、チームを去った久米社長の支持者たちによるリークという噂がもっぱらだ。

混乱に出口が見えないなかで、グランパスはもう一度立ち上がることができるのか。チーム残留を決めた楢﨑は「チームの方向性を示さないと…」と言葉少なに言い、小川は「今年は、開幕前に感じていた不安が現実となってしまった。その不安は今もあるけど、来年は的中しないでほしい」と、惜別の言葉を残した。

そんなふたりの願いもむなしく、喫緊の課題であるGM、監督の決定は遅れ、グランパスの来季のビジョンは見えてこない。「企業スポーツ」ではなく、「クラブスポーツ」「地域スポーツ」をうたうJリーグの理念からはるかに遠ざかろうとしている。

(取材・文/小崎仁久 写真/アフロ)