病院にとって、悪質クレームの対策は「毅然とした態度で対応する」

出産した女性教師に謝罪文を強要したり、修学旅行の行き先を変えろ!と校長に迫ったり…。

週プレNEWSで取り上げた、あまりに一方的で独善的な苦情の数々は想像以上のモンスターっぷりだった(参照記事『妊娠した女教師に謝罪文を強要、遠足中止に激怒! モンスターペアレンツがますます悪質化!!』、『修学旅行をやり直せ! 勝手に独自行動して悪質化する“モンスターペアレント2世”の出現』)。

だが、多くの企業や公共機関が理不尽な苦情に悩まされるなか、悪質クレームにうまく対応している事例もある。

例えば、某ファミレスチェーンの「苦情対応マニュアル」は外食業界で注目されている。このマニュアルは2014年にマクドナルドで多発した異物混入事件を受けて全面改訂されたもの。同社ファミレス店の店長がこう明かす。

「品質管理を徹底しても異物混入は完全に防げません。なので、大事なのはクレームへの初動対応。ここを誤ると客は怒りを増大させ、話がこじれる。このマニュアルは、苦情被害を最小限にすることに重点が置かれています」

その内容を端的にいえば、非常に細かく、徹底的だ。

「例えば『料理に髪の毛が!』と苦情が入れば、まずは丁重に謝罪した上で、作り直すか否かをお客さまに伺います。ここでのポイントは、料理の代金の話はしないことです。作り直しの場合、最初に出した料理はもちろん、作り直した料理の分の代金もいただきません。しかし、いきなりその話をすると『そんなつもりで言ったんじゃない!』と怒る客が多いのです。

料金の話題は、再調理した料理をお客さまが半分ほど召し上がったときに振ります。『これはおわびの気持ちです。料金はいただかない形でお願いしたいのですが』と頼み込む。もし、お客さまが金は払うと言った場合は店対客ではなく人対人の関係を意識して『私の気持ちなんです』とお伺いを立て、それでも払うと言われたら『お言葉に甘えます』と頂戴する。

その後、駐車場まで見送り、そこでもお客さまの顔色が優れないようなら、胸ポケットに用意している割引券を手渡し、次回の来店につなげます。 このマニュアルを徹底したことで苦情がこじれて本部対応となるような案件が激減しました」

病院の対策は“あえてクレーマーを怒らせる”

総合病院の外来では「医師が冷たい」「1時間も待たさせて3分で診療終了かよ!」といったクレームが頻発する。その矛先は医師本人ではなく、看護師や事務員に向かうパターンが大半だ。 話がこじれると、治療費を払わずに帰ろうとしたり、看護師に暴力を振るったり、「ここはヤブ医者ばかりだ」と叫んだりとモンスター化する患者もいるようだ。

だが、関東に本拠地を置く大手医療グループのクレーム対応術はなかなかスゴい。同グループに籍を置くベテラン看護師がこう打ち明ける。

「診療の障害になる苦情トラブルにはクレーム担当職員が応対します。ここからはあくまでウチの病院のやり方なのですが、その職員はわざと苦情者を怒らせるように仕向け、言ってしまえば“警察沙汰”にしてしまう。首尾よく事が運べば、院内に常駐する警察OBの保安対策員が現場に駆けつけ、110番通報。患者が暴れ回ったら、すぐに取り押さえ、警察に引き渡します」

命を預かる病院だからこそ、その環境を壊すモンスター患者には手厳しい。

「警察が介入するような苦情トラブルを起こした人はブラックリストに載せて院内で共有。次回以降の来院時に受け付けを拒否する場合もあります」

モンスター患者に毅然(きぜん)とした態度で接する病院の手法。常に平身低頭を貫く接客で客の怒りを鎮めるファミレスの手法。対照的なふたつのスタイルは、職場によって有効なクレーム対策は違う、ということを示している。