筑波大学「未来教室」で講義をする落合陽一氏(右)とシシヤマザキ氏(左)

『週刊プレイボーイ』で短期集中連載中、“現代の魔法使い”落合陽一の「未来教室」。最先端の異才が集う最強講義を独占公開!

シシヤマザキは、東京藝術大学デザイン科在学中にデビューして以来、有名ブランドや人気歌手との仕事を続けている若手売れっ子アニメーション作家だ。

学生時代にPRADA主催の映像コンペで入賞し、ブランドのプロモーションに起用。卒業後はルミネカードのキャンペーンCM、YUKIの楽曲『好きってなんだろう』のミュージックビデオ、そして昨年のNHK『紅白歌合戦』では星野源の背景演出を手がけた。

最近では資生堂とのコラボで免税店限定キャンペーン『トラベル&ハッピネス』のCMアニメーション、さらにキャラクター関連の派生グッズなども手掛けている。(彼女の仕事や作品は公式サイトで見られます)

シシヤマザキの制作スタイルは一風変わっている。まず実写動画を撮影し、それを1秒12枚のコマ数でプリントアウトし、それから1枚1枚、手でトレースしてアニメの原画をつくる。これ自体は「ロトスコープ」と呼ばれる古くからある手法だが、彼女の場合は自分自身が動画の被写体となって、動き、踊りまわり、それをもとにアニメがつくられていくのだ。

こうして出来上がる彼女の作品は、自身をモデルにしたキャラクター「シシガール」もろとも、内外で多くの人に愛されている。

そんなヤマザキがこの日、講義のために用意してきた特製のプロフィールはきわめてユニークだった。「1996年(小二) うさぎ、バイキン、魔女などに扮し登校」「2000年(小六)カエルに扮し登校」…早熟なコスプレイヤーだったようだが、それが作家としてのキャリアにどう関係しているのだろうか。

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シシ 子供の頃は怒りや不満がたくさんあって、何かアイコニック(アイコン的)なものに扮することで、より多くの人に主張をしたいと思っていたみたいです。

落合 それでバイキンの格好して学校に行ってたの?

シシ そうです。それで授業受けてたりして(笑)。大学でアニメをつくるようになってからは、今度は自分をキャラクターにするというスタイルに行き着きました。

それからずっとシシガールを登場させているんですが、子供の頃とは違って自分の内面を表現したり、何かを主張するためではなく、客観的に扱っています。やっぱりキャラクターが存在する意義って、記号としてそこにあるだけで話が早いとか、気持ちが伝わるとか、そういうことかなと思っていまして。

自分をモチーフにして作品をつくっている人って、写真家の方だとけっこう多いと思いますが、アニメーションは少ないですね。シシガールというキャラクターを初めて見た人が、これが実在しているということを知らなくても面白く見えるものをつくろうとしているんですけど、一方でやっぱりシシガールの元は私なので、これが広く知られていった時に、どのような展開をしていったら面白いのかなあとか、よく考えますね。

制作にあたって、アイデア段階からプロモーションまで一貫して気をつかっているのは、「現象をつくる」ということです。 どういうことかというと、わざとらしく、あざとくならないようにするということです。

例えば、YUKIさんのMVをつくるとき、初めはシシガールを出さないつもりだったんですが、YUKIさんに「シシちゃんも出れば?」と言っていただいたんです。ただ、もちろん主役はYUKIさんなわけで、そこにどう絡めていくかを考えたときに、「仲良しこよし~」みたいに(YUKIとシシガールが)楽しく手を取り合って踊っていたら、あざといというか、媚びてる感じがして

シシヤマザキが続ける「マスクプロジェクト」とは?

落合 演技くさいということですね。

シシ そう。それを出さないためには、もう私は「涙」みたいな要素になって、魚の群れみたいな感じで動こうと決めました

落合 シシガールって“bot感”が半端じゃないんだよね。人工知能みたい。

シシ それはすごくうれしいです。これってキャラクターを動かすことに限らず、グラフィックデザインで色や形や文字を配置する時にも、絶対に意識したほうがいいことなんですね。

たとえになるかどうかわからないですけど、子供の頃に大きめの水槽で金魚とかドジョウとかを飼っていたことがあります。そしたらだんだん金魚が死んでいったりして、ドジョウとタニシくらいしか残らなくなって。

落合 それわかる(笑)。生態系ができるよね。

シシ そうそう。もうコケむしてよく見えないけど、なんかちゃんと生態系ができてるんです。その水槽みたいな状態に落とし込む感じです

落合 エコシステムの誕生。漫画家の人が、「このキャラクターがしゃべりだすまで待つ」って言うのに似てるね。「シシガールが遊び出すまで待つ」みたいな。ところで、マスクはまだ続けてるの?

シシ はい。

落合 すげえ! 「マスクプロジェクト」について、みんなに説明してあげて。

シシ 藝大の2年生だった2010年の5月11日から、顔(マスク)の形を一日1個ずつデザインしていくというプロジェクトを続けていまして。毎日つくってはクリアファイルに保存して、もう2000枚以上になりますMASK参照

自分の「手癖」のアーカイブをつくって、その推移を確認したくてやっているようなところもあります。なので、深く考えず、とにかく毎日、自分が今出せる色と形の要素っていうのを、顔をモチーフにしてつくっています。

これは自分をキャラクターにするのとかぶるんですけど、そもそも存在とはなにか、自分とはなんなのかっていうことを小さいときから考えていて、顔の要素ってホントに強いなあって思ったんです。当り前と言えば当り前なんですけど、暗闇に眼がふたつ浮かんでるだけでそこに顔があることがわかりますよね。眼、鼻、口のパーツを全部そろえなくても、顔に見える形ってつくれるので、無限大の可能性がある、強いモチーフだなって。

とはいえ、「なんの役に立つかわかんない」と思いながら続けてきたんですが(笑)、YUKIさんのMVをつくる際、ふと感じたことがあって。画のバランスを保ちながら、奥行きを出すためにランダムに絵の具を散らすのって意外と難しいんですけど、それがあのときは、無意識でもホントに早くできて。「あ、これ、マスク描くときに使ってる感覚だ!」って。ふり返ってみれば、筋トレみたいになってますね(笑)。

即興ダンスを踊りはじめたシシヤマザキ!

スクリーンに映し出される彼女の作品群に“エモセンサー”を刺激された落合が盛んに質問とリクエストを浴びせ、講義は次第に鑑賞会の様相を帯びていく。そして、話はアニメの中で披露されるシシヤマザキのダンスに及び――

落合 シシちゃんって、カメラが回ったときになんか人類を超越するよね。表情から動きから、端から端までカンペキというか。あの瞬間ってどうなってるの?

シシ 特にダンスをやってたわけでもないし、身体能力は全然ないんですけど、グルーヴ感をつかむっていうのは、体の中にあるなあと思うんです。「動けるぞ」って感じがあるんですよね。

落合 それ、ふつうの人にはないよね(笑)。

シシ ピアノの先生だった母から「ちょっと大げさと思うくらいに振る舞うのがちょうどいいのよ」とか、人前で何かを発表するときの心構えを常々聞かされていたおかげもあるかもしれません。

動きって、この場で私が踊るのがたぶん、迫力マックスなんです。それを実写で撮るといったん迫力がそがれ、それをまた1秒12枚の画に削ぎ落として、要素も情報量もしぼってアニメにすると、さらに迫力感がそがれるものなんですね。それを前提にして動かないといけないから、すごく大げさに動いたりとか、緩急を調整したりしないといけないんです。

2011年発表の『YA-NE-SEN a Go GO』。本人が東京・谷根千エリアを実際に歩き、踊り回った動画をもとに制作

落合 それ、計算しながら動いてるの?

シシ そうですね。ずっとやっているうちに、どのくらい動いたらどの程度の印象のアニメーションになるか、さすがに想像できるようになってきました。

※後編⇒『“現代の魔法使い”落合陽一×シシヤマザキ「規制に対して何か主張するより自由に踊っているほうが物事がよくなっていく」』

◆「#コンテンツ応用論」とは?本連載は筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一助教が毎回、コンテンツ産業の多様なトップランナーをゲストに招いて白熱トーク。学生は「#コンテンツ応用論」付きで感想を30回ツイートすれば出席点がもらえるシステムで、授業の日にはツイッター全体のトレンド入りするほどの盛り上がりです。

●落合陽一(おちあい・よういち)1987年生まれ。筑波大学助教。コンピューターを使い、新たな表現方法を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得。デジタルネイチャーと呼ぶ将来ビジョンに向け表現・研究を行なう

●シシヤマザキ(しし・やまざき)1989年生まれ、神奈川県出身。水彩画風の手描きロトスコープアニメーションを独自の表現方法として確立。東京藝術大学在学中から自身をモチーフにしたアニメーション映像が国内外で評価され、PRADAや資生堂といった世界的ブランドのプロモーションにも起用されている

(構成/前川仁之)