米社会全体が落ちるところまで落ちていると語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがトランプ大統領当選で見えてきた、アメリカの深刻すぎる“知的格差”について語る。

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ここまで落ちるのかーー。米大統領選の取材で訪れたアメリカの街、人々、空気に接した僕は、そんな思いを抱かざるをえませんでした。

約20年ぶりに長期滞在したニューヨークの街は、あまりにも疲弊していました。五番街の有名デパート前ですら尿の臭いが立ち込め、タクシーのシートは破れてむき出しになり、レストランのメニューも触っただけで手がベトベトになる。ボロボロのインフラと、それを当たり前のこととして放置する人々。

「昔からニューヨークなんてそんな街だよ」と嗤(わら)うアメリカ通もいるかもしれませんが、僕は肌感覚として、米社会全体が落ちるところまで落ちているということを痛感しました。

経済格差の問題はどの国でも深刻ですが、大統領選取材でさまざまな立場の人にインタビューして感じたのは、米社会に横たわる甚だしいほどの“知的格差”です。たとえ若くても、賢い人はとてつもなく頭がキレる。ものすごいスピードで、高尚かつ洗練された議論をする。日本ではなかなかお目にかかれないレベルのインテリが社会の上層部にいることは間違いありません。

しかし一方で、超がつくほどの教育格差は中間層をごっそり押し下げた。「押し潰(つぶ)されたピラミッドの下」に位置する人々の多くは教育機会に恵まれず、かつてナチスや旧ソ連、中国共産党がやってきたプロパガンダの焼き直しのようなトランプの陰謀論にも素直にハマってしまい、それをフェイスブックなどで広めていったわけです。

彼を応援したメディアも、この状況に見事に乗っかりました。トランプが体現するアンチ・エスタブリッシュメント思想だけを信じ、デマ記事にも検証せずに飛びつく人々に対し、報道とも呼べないような“可燃性の高いネタ”を常に提供し続けたのです。

現在の米社会は知的格差が収拾のつかないレベル

アメリカが強かった頃の中産階級、言い換えれば“常識人”であればほとんど誰も引っかからないような稚拙なキャンペーンの真偽を検証できない人たちが相当数いたことは、トランプが6220万票も獲得したという事実が何よりも物語っています(そのトランプが「強いアメリカを取り戻す」と豪語しているわけですが…)

この歪(ゆが)んだ状況がここまで放置されてきたのは、知的格差があまりにも大きすぎて、「強者と弱者」がそれぞれ別世界に住んで交わることがなかったからでしょう。

例えば日本でも、左右両陣営に「信じたいものしか見ない人たち」は一定数いますが、良識的な一部の知識層が、その怪しい言説を丁寧に潰していくことが多い。ネット上の一見不毛な論争も、それを見ている多くの人たちが冷静になるという面では意味があるのです。

結果として、日本のマジョリティは真ん中に寄り、インテリ層も普通の人も、圧縮された金魚鉢のような社会に共存している。自然と知的レベルも真ん中に吸い寄せられる傾向があります

僕はこのような日本社会に対し、「飛び抜けた才能が生まれない」という欠陥があると感じていますが、現在の米社会はその真逆で、まったく圧縮されない知的格差が収拾のつかないレベルになってしまっている。この悲惨な状況を改善するには、1世代どころか2世代、3世代と長い時間がかかるかもしれません。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など