柴崎岳の2ゴールでレアルを苦しめた鹿島だったが結果は準優勝

大会史上最多となる68742人の大観衆を集めた12月18日のクラブワールドカップ(CWC)決勝戦。

延長戦にまでもつれ込んだ熱戦は、最終的に4-2でレアル・マドリードに軍配が上がったわけだが、鹿島アントラーズが1-1に追いついた前半終了間際から、スタジアムは異様な雰囲気に包みこまれた。

さらに、後半立ち上がり早々の52分に柴崎岳が逆転ゴールを決めた後は、いよいよレアルも本気モードに突入。手に汗握る攻防が続く中、一時は「もしや、鹿島がレアルに勝つんじゃないか?」という空気さえ、スタジアム全体を覆い始めていた。

「鹿嶋市は茨城県の東の端にあって、小さな町から生まれたクラブ。そのクラブが日本を象徴するチームになっていることは、世界の小さなクラブに勇気を与えたと思います」

激闘の末に涙を呑んだ鹿島の石井正忠監督は、試合後の会見でそう語ったが、国際舞台で何の実績も残していない歴史の浅い日本のクラブが、世界最大規模の予算を使って世界一の実績と輝かしい歴史のあるクラブを苦しめたのだから、観戦者にとってこれほど痛快なことはない。「エンターテインメント性」という点で、掛け値なしに最高の一戦だった。

もちろん、試合のディティールに着目すれば、両チームの実力差は歴然としていたことは確かだろう。レアルの選手個々のテクニック、スピード、パワーは桁違いだし、チームとしてのプレースピードやアイデアも日本のチームからすれば異次元だった。しかしそれを前提としても、この大舞台で鹿島が見せたパフォーマンスと勇敢さは称賛に値するものだった。

何よりも驚かされたのは、敗れ去った後の選手たちの表情である。

鹿島というクラブに脈々と受け継がれてきた「勝者のメンタリティ」については、これまでも散々語られてきた。実際、その伝統は、川崎フロンターレと浦和レッズを撃破した今年のJリーグチャンピオンシップでも証明されたばかりであり、さらに言えばJリーグ最多となる18個のタイトルを獲得してきた歴史がそれを物語っている。

しかし、さすがにクラブ世界一を決める舞台で、世界中からワールドクラスを集めたレアルを延長戦にまで追い込んだ後は、鹿島の選手も達成感のある表情を見せるはずと予想していた。ところが、いざ蓋を開けてみれば、キャプテンの小笠原満男を筆頭に、誰ひとり笑顔を見せる選手はいなかった。

もし浦和や川崎がCWC決勝でレアルと対戦していたら、鹿島と同じように大健闘したかもしれない。年間勝ち点で1位の浦和と2位の川崎は3位の鹿島を上回ったのだから、実力という部分で劣っているとは言えないからだ。しかし、敗戦後にこの2チームの選手たちが同じような態度と表情を見せていたかとなると、おそらく違っていただろう。

試合後、負けた鹿島の選手たちは口々に「勝てるチャンスはあったのに負けてしまって悔しい」と言ったが、それが口先だけではないことは十分に伝わってきた。彼らは、本気でレアルに勝つために準備をして、試合終了のホイッスルが鳴るまで戦い続けた。そして敗戦後は本気で悔しがり、そこには「善戦」か「大敗」かの違いは存在していなかった。

欧州一極集中化するサッカー界のジレンマ

とはいえ、やはり「勝者のメンタリティ」の部分でも、レアルは次元が違っていた。鹿島はピッチ上ではレアルに冷や汗をかかせることはできたが、メンタルの強さでは遠く及ばなかったと言わざるを得ない。

「自分たちが苦しめられることはわかっていたし、簡単なファイナルにはならないと思っていた」とは、レアルのジヌディーン・ジダン監督のコメントだが、その表情は日本のメディアが期待するような優勝直後の高揚感、あるいはタイトルを手にできた安堵感を微塵(みじん)も感じさせない、実に穏やかなものだった。

冷静に考えてみれば、彼らにとってこのような試合展開は日常茶飯事。たとえば直近のスペインリーグ戦では、ホームでデポルティーボ・ラ・コルーニャに1-2と追い込まれながら、終了間際に2ゴールを立て続けに奪い、最終的に逆転勝利を収めたばかりだった。

どんなに苦しめられても、最後には自分たちが勝つ。そうやって彼らは「勝利を義務づけられたクラブ」としての歴史を歩み続け、「勝者のメンタリティ」を養ってきた。だから、彼らにとってCWC決勝の相手がどこのクラブであるかは、さほど重要ではなかったと思われる。

では、どうすれば鹿島、ひいては日本のクラブが世界に追いつくことができるのか?

この問いに対して、石井監督は「こういうテンションの試合を続けないと、世界との差は縮まらない。そうしないと、今回チャンピオンになったレアル・マドリードには近づけない」と答えている。

確かに、今年の鹿島や昨年3位のサンフレッチェ広島も、CWCを戦う中で選手個々やチームは目を見張るような成長を遂げた。しかし悲しいかな、日常のJリーグに戻ると、CWCと同じテンション、レベルで戦える環境がないというのが現実だ。

それはアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の舞台でも変わらない。石井監督の言葉は、自分たちが成長したくても、現状の日本サッカーの環境では限界があるという悲痛な叫びにも聞こえてしまう。

もっとも、これは日本だけの問題ではなく、北中米カリブ、アフリカ、そして南米のクラブにとっても共通した悩みでもある。もしかしたら、ヨーロッパ一極集中化が加速する現在のサッカー界では、ヨーロッパ以外の地域が手を取り合い、お互いを切磋琢磨できる舞台を新たに作ることが求められているのかもしれない。

いずれにしても、鹿島には年内にまだ天皇杯の戦いが残っており、また日常が戻ってくる。その中で彼らがどれほどの成長を遂げられるのか要注目だ。まずは、来年のACL王者になること。それを成し遂げなければ、今回のCWC準優勝も色褪(あ)せてしまう。その責任感と緊張感を持続させて、是非ともアジアチャンピオンを目指してほしい。

(取材・文/中山 淳 撮影/藤田真郷)