吉祥寺駅南口から徒歩1分、雑居ビルの4階にあるP&Mは風刺の効いたオリジナルTシャツを作り続けているが、今年の売れ線は…

世相を斬るではなく、世相を着る!? 

芸能や社会、政治、経済まで…世の中の事件をネタに2003年から500作以上の“時事Tシャツ”を制作してきたのが、東京・吉祥寺でTシャツショップ「P&M」を営む菊竹 進(きくたけ・すすむ)氏だ。

絶妙に風刺の効いたデザインの数々は一体、どのようにして生まれているのか? 

制作のポリシーやオススメの活用法、過去のヒット作や問題作を語ってもらうとともに、不倫や薬物事件が相次いだ2016年を振り返ってもらった。時事Tシャツから見えてくる、日本の現在とは?

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―どうして時事Tシャツを作ろうと思ったんですか?

菊竹 学生の頃から現代美術をやっていたんですけど、なかなか作品を発表しても食べていけなくて。時事問題をTシャツにして売れば、多少はお金になるかなと思い、30歳になった2003年に始めたんです。当時は福岡に住んでいたんですけど、ちょうどネットにTシャツを載せて、通販で売るのが流行っていて、それなら僕もできるなと思って。

―一番最初に作った作品は?

菊竹 当時、自衛隊がイラクに派遣されることになって、「あぁ、ついに自衛隊が海外でドンパチやるんだな」と思ったんです。それで自衛隊の車輌に日の丸とJAPANの文字が英語とアラビア語で描かれていたのをパロディーにしたTシャツを作りました。

―それは売れたんですか?

菊竹 売れなかったです。最初に売れたのは市橋達也ですかね。あとは、オウムの麻原彰晃の顔を描いたTシャツとかパナウェーブ研究所とかは売れました。酒鬼薔薇聖斗は売れなかったです。

オウム麻原Tシャツ

―取り上げる題材はどうやって選ぶんですか?

菊竹 当時はポリシーみたいなものはなかったと思います。今にして思えば、ワイドショーやニュース番組がワーッと取り上げているものに食いついていただけというか。あと、2ちゃんねるが好きだったので、そこに引っ張られた感じはありますね。

―今は憤りを感じたことや社会的メッセージも?

菊竹 そうですね。でも正直、売り上げを意識しているところもあって、そこは自分でも葛藤が…。本当は「これがアートだ」って言えるものを作りたいんですけど、結婚して、子供もふたりいますので。

天皇の顔のTシャツを作ったら宮内庁から…

―正直ですね(笑)。デザインする時に意識していることは?

菊竹 できれば風刺を効かせたものにしたいです。あと、許せないものに対しては、売れないとわかってても、忘れないようにするために作る時もありますね。例えば、都議会議員の「早く結婚しろ」という野次があったじゃないですか。あれは地味なネタでしたけど作りました。

あとは上西小百合。次になんかやったら、すぐTシャツにしてやるからなと思ってますね。いまだに国会議員の給料をもらい続けているわけですから。

―ネームバリューはあまりなくても、訴えたいものを残すべきと?

菊竹 そうですね。だから、実際に1枚以上売れたものは半分くらいなんです。作っても売れないものは、大体わかるんですけど、そこは赤字でも作り続けていきたいなと。

―今までで会心の出来だったTシャツは?

菊竹 東日本大震災のチャリティTシャツですね。当時は渋谷に小さい店を出していたんですけど、震災直後はお客さんが全然来なくて、諦めて1週間くらい自宅にいたら、子供が日本地図のパズルで遊んでいたんです。

現在は「日の丸Tシャツ[熊本地震チャリティ]」として発売

それをヒントに都道府県のピースをギュッと集めたデザインで、チャリティTシャツを作ったら、たまたまTVの取材がきて、ラッキーでしたね。それから原発関連で「プルトニウムは飲んでも安全だよ」と言ってるプルト君というキャラクターがいたんですけど、これをネタにしたTシャツも売れました。

プルトくんTシャツ

―ある意味、事件が起きるとネタが増えるわけですね。

菊竹 そうですね。その年の6月にはホリエモン(堀江貴文)の収監もあって。僕的には納得がいかなかったので、それを皮肉ったTシャツを作ったんですけど、これは今までで一番売れました。

―ライブドアより粉飾決算の規模が大きい企業のロゴを並べたものですね。

菊竹 そこからは誰も刑務所に入っていないのに、彼だけしょっぴかれるのはおかしいと思って。マスコミはスポンサーの関係なのか、そういうことを取り上げないですけど、彼が収監される時にこのTシャツを着ていれば、マスコミは嫌でも映さざるをえなくなる。

―風刺が効いてますね。

菊竹 その画像をツイッターで堀江さんに「もしよかったら着ませんか?」と送ったら面白がってくれて。本人には会えなかったんですけど、彼の側近みたいな人にお渡しして、その3日後くらいに収監されたんです。その日はTVの生中継が始まってから注文が殺到して。携帯にも注文メールが届くように設定していたんですけど、鳴り止まなかったです。

P&Mでは時事Tシャツの他にパロディーを中心とした「スモールデザイン」、吉祥寺みやげをテーマにした「スーベニア吉祥寺」のブランドも運営している

米次期大統領トランプTシャツ

―ちなみに、今まで怒られたことはあるんですか?

菊竹 最初はマクドナルドだったかな。あのロゴが血だらけになったようなTシャツを作ったんですけど、発売して1~2週間くらいで内容証明が届きました。本格的に怒られたのは初めてだったので、まぁビビりましたね。あとは天皇がニコッとしてる顔のTシャツを作った時。これは批判とかではなく、もっとイギリスみたいに天皇に親しみを持とうという意図だったんですけど、すぐに宮内庁から電話が来ました。

―やめてくださいと?

菊竹 いや、そこは百戦錬磨というか、ものすごい紳士に接してくるんです。お作りなのはあなたでしょうか、どういったおつもりでお作りなんでしょうか?っていう感じで。それで説明をしたら、お気持ちはありがたいのですが、法律に触れる怖れがあるので、もし販売を続けるのであれば、こちらで精査して…みたいな感じでやんわりとやめてください的なことを言われて、じゃあやめますと。

―そういう内容証明や抗議の電話はこれまで何件くらい?

菊竹 10件はないと思いますけど、5件以上はありますね。抗議を受けたものは全部取り下げてます。ものによっては戦いたい気持ちもあるんですけど、そこまでやる体力は時間的にも経済的にもないので。

―2016年はネタに困らない年だったと思うんですけど、振り返ってみていかがでした?

菊竹 今年はオンパレードというか、でっかいのが多すぎて。不倫にしろ、薬物にしろ、ここまで続くと感覚が麻痺するというか、驚かなくなっちゃいましたね。高樹沙耶なんかもTシャツにしたいんですけど、結局まだ手つかずで。

―知名度的に清原(和博)やASKAの影に隠れてしまうというか。

菊竹 そうですね。それくらいニュースが多かった年だなと思います。

―逆にめでたいニュースをTシャツにすることもあるんですか?

菊竹 僕も攻撃的なものばかりだと疲れてきちゃうので、めでたいものもやりたいんですけど、ほとんど売れないんですよ。そういうものはオフィシャルで発売されることも多いし、僕がわざわざ作る意味もないかなって。

ヒステリック野々村Tシャツ

批判できるのは政治家とか警察とか国家権力くらい

カウンターの奥にはたくさんの在庫をストック。店にない商品も20分待てば、その場でプリントしてくれる。

―では、時事Tシャツのおすすめ活用法は?

菊竹 コミュニケーションのきっかけになったら嬉しいですね。例えば、2年ほど前にトマ・ピケティの『21世紀の資本』が流行って、それを題材にしたTシャツを作った時は、経済学部の学生さんが学校に着て行ってくれたらいいなと思ってました。

あと、民主党政権時代に高速道路無料化の公約をネタにしたTシャツを作ったんですよ。カッコいいハイウェイの写真に「2012 FREE HIGHWAY」と入れたものを。そういうのは何年後かに振り返って、もう一回楽しめるパターンですね。今だとトランプ次期大統領のTシャツはそういう楽しみ方ができると思います。

―最近の傾向みたいなものはありますか?

菊竹 批判できる対象がどんどん減っているなと思うんです。昔は大企業を叩きやすかったけど、この10年くらいで日本の経済が落ち目になって、批判しても弱い者いじめみたいになってしまう感覚があって。叩くよりも、応援してあげないとなっていう雰囲気に変わってきている気がします。

だから今、普通に批判できるのは政治家とか警察とか国家権力くらいですね。風刺は強い者と対決するための手段で、弱い人をいじめるために使ってはいけないと思うので。

―今後の目標は?

菊竹 今年はデザインを考えてるそばから次のニュースが入ってきて、出せなかったものも多いんです。そこは悔しいなと思っているので、来年はスピードを上げてやっていきたいなと。

―2017年はどんな世の中になってほしいですか?

菊竹 変な話、僕が暇なほうが世の中的にはいいのかなって。戦場カメラマンみたいなことを言ってますけど。だから、今年みたいに芸能ネタをやっているくらいのほうが平和なのかもしれないですね。

(取材・文・撮影/田中 宏)

●『P&M』で2016年に話題となった時事Tシャツを画像で振り返る!

 

●Tシャツショップ「P&M」東京都武蔵野市吉祥寺南町1-1-2 アンドウビル4F ℡ 0422-24-901711:00~19:00(不定休)