吹雪の中を進む、ありし日のチャーさん。とにかくすごい男でした

『週刊プレイボーイ』本誌で連載中の「ライクの森」――。

報道情報番組『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)ではメインMCを務める人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は、子供の頃から犬を飼っていたという彼女が、愛犬の思い出を語ってくれた。

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私の実家には今、2匹の犬がいます。シーズーのドゥーちゃんと、シーズー×マルチーズのミックス犬、はなまるです。シーズーは目がコロンとしていて、おヒゲもあるかわいい顔立ちをしているから、好きなんです。

遡(さかのぼ)れば、子供の頃に初めて飼った犬は、バセットハウンドでした。中型犬で、日本ではあまり見かけない犬種なんですが、最初は外の犬小屋で飼っていたのに、デトロイトの豪雪に耐えかねたのかいつの間にか家の中にいるようになりました(笑)。

その後、うちにやって来たのが、シーズーのチャチャです。私が6歳の頃だったかな。“ミニチュアシーズー”という触れ込みで売られていたんですが、チャチャに出会って以来、一度もミニチュアシーズーという犬種を見かけたことがありません。今思えば、ペットショップが勝手に作り出した売り文句だった気がします(笑)。

チャチャは小柄だったんですが、すごい男でしたよ。家の中では自分よりずっと大きいバセットハウンドを仕切って、番犬としても活躍しました。うちに来た配達員が鳴き声を聞いて、「大きな犬がいるな」と警戒していたら、家の中から出てきた犬が小さいシーズーで驚いた、ということもよくありました(笑)。気が強いので、私が知らない人と話していると、必ず間に入って相手を威嚇(いかく)していました。

シーズーとしては珍しく体毛も黒かったんですが、ものっすごい筋肉質でいい体をしていたんです。犬なのに逆三角形の体つきでしたね(笑)。日本にやって来てから飼いだしたドゥーちゃんは、かなりポケーッとした性格で、顔つきもどことなく緩んでいるんですが、チャチャは精悍(せいかん)な顔立ちをしていました。最初はチャチャと呼んでいたのに、成長するにつれて貫禄が出てきたので、母が“チャーさん”と「さんづけ」で呼ぶようになったくらいです。

晩年のチャーさんは仙人の領域に突入

このチャーさんはなんと20年近く生きたんです! 人間だったら90歳を超えている年齢です。最後の数年はけっこうヨボヨボだったんですが、むしろ仙人の領域に突入したかのようなオーラがありました。一度、ドッグランで大型犬同士がケンカしているところに出くわしたんですが、チャーさんが「ワン!」と一喝すると、大型犬がケンカをやめたんです(笑)。

もともと、シーズーは『スター・ウォーズ』に出てくるイウォーク族のようなかわいらしい見た目をしているんですが、この頃のチャーさんはもはや外見もヨーダの域に入っていましたね。

そんなチャーさんの最後の日々を思い出すと、今でも泣けてしまいます。体もしぼんで、毛もぐちゃぐちゃで、ボロボロの要介護状態だったんですが、最後の最後までちゃんと足を上げておしっこをするところは男でした。そんなある日、私が眠りからふと目覚めると、チャーさんが見当たらなかったんです。家の中で探したら、私の目のつかないところで亡くなっていました。「死にざまは見せまい」と思っていたんでしょうね。

チャーさんが亡くなった日、歌手のホイットニー・ヒューストンも亡くなりました。チャーさんはきっと、天国でホイットニーの歌声を聴いているんじゃないかと思います。

●市川紗椰(いちかわ・さや)1987年2月14日生まれ。アメリカと日本のハーフ。モデルとして活動するほか、報道情報番組『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)ではメインMCを務める。ミックス犬のはなまるを飼いだした理由は、鼻の短いシーズーを乗せてくれない航空会社も多いため